50歳。給料は人生でいちばん高い。部下もいる、仕事にも慣れた。だが、ふと計算してみる。定年まで、あと10年。その先の30年を、何で暮らすのか。老後資金を仕上げられるのは、この10年しかない。
50代の既婚の男は、ピークの給料が、子供の大学の学費と仕送りに消えていく。住宅ローンは定年後まで残り、退職金で返す予定。老後資金を貯めるのは「子供が卒業してから」。だが、子供が卒業するころには、もう60歳だ。家族持ちの男にとって、50代は最も金が出ていく10年でもある。
おひとりさまの男にとって、50代は老後資金を仕上げる最後の10年だ。賃金のピーク、退職金、そして2026年12月から拡充されるiDeCo。この記事では、50代おひとりさまが定年前10年でやるべき資産の仕上げと、60代以降の働き方をまとめた。
この記事の結論
- 50代は賃金のピーク。男性の所定内給与は55〜59歳で月44万5,600円
- 60代前半には月35万8,500円に下がる。稼げるのは今だ
- 50代単身世帯の金融資産は中央値120万円とされる。半分は準備が進んでいない
- 2026年12月からのiDeCo拡充で、掛金の所得控除を最大限使え
- 60代の働き方を50代のうちに決めておけ。働くほど、老後は楽になる
50代は、稼げる最後のピークだ
厚生労働省の賃金構造基本統計調査(令和7年)によると、男性の所定内給与は50〜54歳で月43万7,500円、55〜59歳で月44万5,600円。55〜59歳が、男の賃金のピークだ。そして、60〜64歳では月35万8,500円に下がる。
男性の年齢階級別の所定内給与(令和7年)
Fig. 0155〜59歳から60〜64歳にかけて、給料は約2割下がる。60歳で定年を迎え、再雇用で働く場合は、さらに下がることも多い。つまり、50代の10年が、人生で最も多く稼げる最後の期間だ。この10年で何を積み上げるかが、その後の30年を決める。
50代おひとりさまの貯蓄の現実
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査2025年(単身世帯調査)」では、50代の単身世帯の金融資産は平均999万円、中央値120万円とされる(解説記事による)。
平均だけ見れば、1,000万円近い。だが、中央値は120万円。50代の単身世帯の半分は、120万円以下の金融資産しか持っていない。30代の中央値100万円、40代の100万円から、ほとんど増えていない。半分の人は、老後の準備がほとんど進まないまま、定年まで10年を切っている。
そして、総務省の家計調査(2024年)では、65歳以上の単身無職世帯は毎月約2万8千円の赤字だ。賃貸なら、そこに家賃が乗る。中央値の120万円では、老後は到底まかなえない。だが、今からでも間に合う。50代には、まだ稼ぐ力がある。
50代の10年で、どれだけ作れるか
50歳から60歳までの10年、60歳から65歳まで続ければ15年。毎月の積立で、どれだけ作れるかの計算例だ(年3%で運用できた場合)。
50歳から積み立てた場合の資産(年3%で運用した計算例)
Fig. 02毎月15万円を10年積み立てれば、元本1,800万円、年3%で運用できれば約2,096万円。65歳まで続ければ約3,405万円だ。賃貸の会社員の老後資金の目安(約3,900万円、予備費込み)に、退職金を足せば届く。
月15万円は大きな額だ。だが、50代の独身の男には、教育費も、子供の仕送りも、家族の生活費もない。月44万円の給料から、手取りで30万円台。生活費を15万円台に抑えれば、残りを全部積み立てられる。家族持ちの50代には、絶対にできない積立だ。
定年前10年でやること
| 時期 | 資産 | 働き方・暮らし |
|---|---|---|
| 50〜52歳 | 老後の目標額を出す。積立を最大にする | 健康診断の数値を改善する |
| 53〜55歳 | iDeCoの拡充を使い切る。保険と固定費を最小に | 60代の働き方の選択肢を調べる |
| 56〜58歳 | 退職金の額と受け取り方を確認。ローン完済の計画 | 住まいを決める。親の介護の段取り |
| 59〜60歳 | 取り崩しの順番と年金の受け取り方を決める | 再雇用・転職・副業を決める |
1. 老後の目標額を、数字で出せ
50代になったら、老後の目標額を数字で出せ。40代までは「なんとなく」でもよかったが、定年まで10年を切ったら、もう曖昧にしてはいけない。
- ねんきん定期便で年金の見込み額を確かめる50歳以上なら、今の働き方を続けた場合の見込み額が載っている。
- 退職金の見込み額を人事に確かめる会社の退職金規程を読み、勤続年数での見込み額を出す。
- 老後の生活費を見積もる住まいが持ち家か賃貸かで、大きく変わる。
- 不足額×年数+予備費を出す介護、身元保証、死後の手続きの予備費を別枠で。
- 今の資産と退職金を引く残りが、50代の10年で作るべき額だ。
2. 2026年12月からのiDeCo拡充を使い切れ
50代のおひとりさまにとって、大きな追い風がある。iDeCo(個人型確定拠出年金)の拡充だ。証券会社などの案内によると、2026年12月1日から次のように変わる予定だ。
- 企業年金のない会社員:掛金の上限が月2.3万円から月6.2万円に引き上げ
- 企業年金のある会社員:企業年金の掛金と合わせて月6.2万円が上限に
- 加入できる年齢:一定の条件のもとで、70歳未満まで加入・拠出できるように
iDeCoの掛金は全額が所得控除になる。独身で、配偶者控除も扶養控除もない男にとって、数少ない大きな節税の手段だ。月6.2万円、年74.4万円を拠出すれば、所得税と住民税の税率が合わせて30%の人なら、年に約22万円税金が下がる計算になる。
しかも、加入できる年齢が70歳未満まで広がれば、50代から始めても、60代も拠出を続けられる。50代の追い込みに、これほど向いた制度はない。条件や手続きは勤め先の制度や加入先で違うので、最新の情報で確かめてほしい。
3. 新NISAで、取り崩しやすい資産も作れ
iDeCoは、原則60歳まで引き出せない。老後資金には向いているが、急な出費には使えない。だから、新NISAも並行して使え。
新NISAは、年360万円、生涯1,800万円まで、運用益が非課税。いつでも引き出せるので、60代前半の生活費の足しや、介護の費用にも使いやすい。50代の独身の男なら、10年で生涯枠の1,800万円を埋めることも、十分に現実的だ。
ただし、50代は運用の期間が短い。定年直前に相場が大きく下がると、回復を待つ時間が少ない。株式の割合を少しずつ下げ、債券や預金の割合を上げることも考えておけ。
4. 退職金の額と受け取り方を確かめろ
退職金は、50代の資産計画の大きな柱だ。厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の定年退職者の退職給付額は、平均で1,896万円とされる(勤続20年以上かつ45歳以上の退職者)。ただし、会社の規模や勤続年数、退職金制度の有無で大きく違う。退職金のない会社や、勤続年数の短い人は、この額には届かない。
- 自分の会社の退職金規程を読む:勤続年数での支給額、早期退職の上乗せ
- 一時金か年金形式かを選べるか確かめる:受け取り方で税金が変わる
- 退職所得控除を知る:一時金なら、勤続年数に応じた大きな控除がある。勤続38年なら控除額は2,060万円
- iDeCoの受け取り時期と重ならないようにする:同じ年に受け取ると、控除の枠を食い合うことがある
退職金で、住宅ローンの残りを一括で返すのか、運用に回すのか。これも50代のうちに決めておけ。退職金を受け取った直後は、金融機関から高い手数料の商品をすすめられやすい。大きな金が入ったときこそ、焦って決めるな。
5. 保険と固定費を、最小にしろ
50代のおひとりさまは、支出を絞るほど、積立と老後の両方が楽になる。老後の生活費の水準は、50代の暮らしぶりで決まるからだ。
- 死亡保障の大きい生命保険を見直す:養う家族がいなければ、大きな死亡保障は要らないことが多い
- 医療保険は公的保険と生活防衛資金で:高額療養費制度で、医療費の自己負担には上限がある
- 車、通信、サブスクを整理する:老後も続く固定費は、今のうちに下げる
- 生活水準を上げすぎない:50代で上げた生活水準は、老後に下げにくい
6. 住まいを決めろ
50代後半までに、老後の住まいを決めておけ。おひとりさまの老後資金は、住まいで大きく変わる。
- 持ち家:住宅ローンを定年までに払い終える計画を。修繕費も積み立てる
- 賃貸:老後の家賃分を目標額に入れる。高齢になると借りにくくなることがあるので、60代前半までに住み替えを済ませる
- 住む場所:病院、スーパー、駅に近いか。車がなくても暮らせるか
独身の男は、住む場所を自分一人で決められる。家賃の安い地域に移る、地元に戻る、温泉のある町に住む。50代のうちに、候補の町を旅やワーケーションで試しておくのもいい。
7. 60代の働き方を、50代で決めろ
50代のうちに決めておくべき、もう一つの大事なことは、60代の働き方だ。60代も働けば、老後の家計はぐっと楽になる。
| 働き方 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 再雇用 | 慣れた職場で、安定して働ける | 給料が大きく下がることが多い。仕事の中身も変わる |
| 転職 | 経験を生かして、条件のいい職場を探せる | 50代のうちに準備しないと難しい |
| 独立・副業 | 働く量と中身を自分で決められる | 収入が不安定。50代から副業で試しておく |
| 短時間の仕事 | 体の負担が少なく、人と話す機会になる | 収入は少ないが、取り崩しを遅らせられる |
60代も働くことには、3つの効果がある。一つは、資産の取り崩しを遅らせられること。二つ目は、年金の受け取りを遅らせて、年金額を増やせること(繰り下げ受給は1か月あたり0.7%増える)。三つ目は、人と話す機会と生活のリズムを保てること。独身の男にとって、三つ目は金と同じくらい大事だ。
転職や独立を考えるなら、50代のうちに準備を始めろ。資格を取る、副業で試す、人脈を作る。60歳になってから動いても、選択肢は限られる。
8. 親の介護に備えろ
50代は、親が80代になる年代だ。独身の子が親の介護を担うことは多い。介護で仕事を辞めれば、収入も、厚生年金の加入期間も、退職金も減る。自分の老後が崩れる。
- 介護の費用は、まず親の資産と年金から:自分の老後資金を親の介護に使い切らない
- 介護休業・介護休暇を使う:仕事を辞めずに、介護の体制を整えるための制度だ
- 地域包括支援センターに相談する:介護保険のサービスを使い、一人で抱え込まない
- きょうだいで分担を決める:独身だから全部、ではない
50代おひとりさまがやりがちな失敗
- 遅れを取り戻そうと、高リスクの投資に走る:定年直前の大損は、取り返す時間がない
- 「必ずもうかる」話に乗る:SNS型ロマンス詐欺の男性被害者は50代が最も多い(警察庁、2025年)
- 退職金をすすめられるままに運用する:手数料の高い商品に、まとめて入れてしまう
- 介護離職する:収入、年金、退職金のすべてが減る
- 60代の働き方を考えずに定年を迎える:定年後に慌てて仕事を探しても、選択肢は少ない
備えながら、今を楽しめ
50代は、体が動き、金に余裕がある最後の10年でもある。積立と備えばかりで終わらせるな。順番を守れば、残りは楽しんでいい。
積立を先取りし、生活防衛資金を持ち、介護と老後の予備費を別枠にした上で、行きたかった場所に行き、うまいものを食べ、趣味に打ち込め。60代、70代になってからでは、体が言うことを聞かない旅もある。備えと楽しみの両方を、この10年で手に入れろ。
50代で仕上げる独身と、50代で出ていく既婚
老後資金を仕上げる50代独身の男
- ピークの給料から、毎月15万円を積み立てる
- iDeCoの拡充で、所得控除を最大限使う
- 退職金の額と受け取り方を、数年前から確かめる
- 60代の働き方と住まいを、50代で決めている
金が出ていく50代既婚の男
- ピークの給料は、子供の学費と仕送りに消える
- 住宅ローンは、退職金で返す予定
- 老後資金は「子供が卒業してから」
- 気づけば60歳、残った退職金で老後を迎える
もちろん、50代までに子育てを終え、老後資金を計画的に作っている既婚の家庭もある。だが、賃金のピークの10年を、まるごと自分の老後に注げるのは、おひとりさまの男の大きな強みだ。この10年を、先送りで終わらせるな。
不安だからこそ、数字で出して、毎月15万円を積み立てている。iDeCoの拡充も使い、退職金の受け取り方も調べ、60代の働き方も決めている。お前はどうだ? 子供の学費を払い終えたとき、老後資金はいくら残る? 退職金で住宅ローンを返したら、手元に何が残る?
まとめ:最後の10年で、老後を仕上げろ
50代は、おひとりさまが老後資金を仕上げる最後の10年だ。男性の所定内給与は55〜59歳で月44万5,600円とピークを迎え、60代前半には約2割下がる。50代単身世帯の金融資産は中央値120万円とされ、半分の人は準備がほとんど進んでいない。だが、毎月15万円を10年積み立てれば、年3%の運用で約2,096万円になる計算だ。
老後の目標額を数字で出し、2026年12月からのiDeCo拡充を使い切り、新NISAで取り崩しやすい資産も作れ。退職金の額と受け取り方を確かめ、保険と固定費を最小にし、住まいと60代の働き方を決めろ。親の介護で仕事を辞めるな。そして、備えながら今を楽しめ。運用には元本割れのリスクがあり、制度や税金は変わるので、最新の情報を確認してほしい。
賃金のピークを、自分の老後に注げ。末代で何が悪い。
よくある質問
50代おひとりさまの貯蓄額の平均は?
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の家計の金融行動に関する世論調査2025年(単身世帯調査)では、50代の単身世帯の金融資産は平均999万円、中央値120万円とされる(解説記事による)。半分の人は120万円以下で、老後の準備が進んでいない人も多い。
50代から老後資金は間に合う?
間に合う可能性はある。50代は賃金のピークで、教育費のない独身なら積立に回せる額が大きい。月15万円を10年間、年3%で運用できれば約2,096万円になる計算だ(運用成績は保証されない)。退職金があれば、さらに上乗せできる。
iDeCoはいつ、どう変わる?
証券会社などの案内によると、2026年12月1日から、企業年金のない会社員の掛金の上限が月2.3万円から月6.2万円に引き上げられ、加入できる年齢も70歳未満まで広がる予定だ。条件は勤め先の制度などで違うので、最新の情報で確認してほしい。
50代独身は定年後も働くべき?
働けるなら働いた方がいい。60代前半も働けば、年金の受け取りを遅らせたり、資産の取り崩しを遅らせたりできる。人と話す機会や生活のリズムも保てる。再雇用、転職、副業など、50代のうちに選択肢を考えておくといい。
退職金はどう受け取るのがいい?
一時金で受け取ると退職所得控除が使え、税金がかなり軽くなることが多い。年金形式での受け取りや、iDeCoとの受け取り時期の調整で、税金が変わることもある。会社の制度と税金の扱いを、退職の数年前から確認しておくといい。
出典・参考資料
- 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」
- 金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査2025年(単身世帯調査)」(年代別の値は解説記事による)
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年」
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」(退職給付額。解説記事による)
- 国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」、各証券会社のiDeCo制度改正の案内(2026年12月施行予定の内容)
- 警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」