月に一度、給料日の夜。妻から封筒を受け取る。中身は3万円と少し。「今月もよろしくね」。この金で、1か月分の昼飯を食い、同僚との飲み会に行き、髪を切り、たまに本を買う。足りなくなったら、500円玉貯金を崩す。
年収600万円の男が、自分のために使える金が月3万円台。稼いでいるのは自分なのに、使い道を決めているのは自分じゃない。新しい財布が欲しいと言えば「今のでいいじゃない」、飲み会が続けば「また?」。四十を過ぎた男が、妻に頭を下げて臨時のお小遣いを申請している姿を、お前は「家族の幸せ」と呼べるか?
この記事では、既婚男性のお小遣いの実態を、調査の数字で確認する。昼食代を引いた残り、バブル期からの推移、子持ちと未婚の差。そして、独身の男が自由に使える金と並べ、30年でどれだけの差が開くかを試算する。お前の給料は、お前のものだ。
この記事の結論
- 男性会社員のお小遣いの平均は月3万9,081円。昼食代を引けば2万円台
- バブル期の1990年は7万7,725円。お小遣いはほぼ半分に減った
- 既婚で子供がいる男性は、未婚より月1万5,000円前後少ない傾向が続いてきた
- 年収600万円の独身が自由に使える金は月約21.5万円。お小遣いの約5.5倍
- 30年で比べると、自分の裁量で使える金に6,000万円以上の差が開く
お小遣いの平均は、月3万9,081円
SBI新生銀行(旧・新生銀行)は、1979年から会社員のお小遣いを調べている。2024年の調査では、20〜50代の男性会社員のお小遣いの平均は月3万9,081円だった。前年から1,477円減っている。
注目すべきは、このお小遣いから昼食代を払っている人が多いことだ。2024年の男性の昼食代は1日709円で、物価高の影響で前年の624円から85円も上がった。月20日働けば約1万4,000円。お小遣いの3分の1以上が昼飯で消える。残りは2万5,000円ほど。これで1か月の飲み会、散髪、趣味、服、すべてをまかなう。
お小遣いは、バブル期の半分になった
お小遣いの額は、時代とともに大きく変わってきた。調査開始からの推移を見てみよう。
男性会社員のお小遣いの推移
Fig. 011979年に4万7,175円だったお小遣いは、バブル絶頂期の1990年に過去最高の7万7,725円まで上がった。その後は下がり続け、近年は3万円台後半。バブル期のほぼ半分だ。同行の白書は、2000年以降は平均月収の下げ幅よりもお小遣いの下げ幅の方が大きいと指摘している。給料が減った以上に、男の取り分が削られてきたということだ。
一方で、この間に増え続けたものがある。教育費、住宅価格、そして社会保険料だ。家族のための出費が膨らむほど、夫のお小遣いは調整弁として削られる。
しかも、物価は上がっている。2024年の昼食代709円は、前年から1割以上の値上がりだった。お小遣いの額が同じでも、買えるものは年々減っていく。お小遣いの実質的な価値は、数字以上に目減りしていると考えた方がいい。バブル期の先輩たちが「昔は毎晩飲みに行った」と語るのを、今の既婚男性は、昼食のワンコイン弁当を食べながら聞いている。
子持ちは、未婚より月1万5,000円前後少ない
お小遣いの額を左右する最大の要因は、年齢ではない。結婚して子供がいるかどうかだ。新生銀行の「サラリーマンのお小遣い調査30年白書」は、こう分析している。
お小遣いの格差は、世代の違いよりも、扶養家族の有無、つまり未婚か既婚かの差の方が大きい。特に既婚で子供がいる場合にお小遣いが低くなり、「未婚」と「既婚子あり」の差は、近年は安定して1万5,000円前後、調査年によっては2万円以上あった。
白書は、家族のために平均月収の減少以上にお小遣いを節約し、「身を削って働くお父さん像」が見えると書いている。お小遣いの差は、飲みに行く回数にも表れる。2010年の調査では、未婚者の飲み回数が月約4回だったのに対し、既婚者は月約2回だった。
「俺は家族のために我慢してるんだ」。立派だよ。で、その我慢、誰かに感謝されてるか? 子供は「パパってお金ないよね」と言い、妻は「お小遣いの範囲でやって」と言う。お前の我慢は、家計簿の一行として処理されているだけだ。
月3万9,081円の、現実的な内訳
では、月3万9,081円は、実際にどう使われるのか。都内で働く既婚男性を想定して、現実的な内訳を組んでみる。
| 項目 | 月額 | 内容 |
|---|---|---|
| 昼食代 | 約14,200円 | 1日709円×20日 |
| 飲み物・コーヒー | 約3,000円 | 水筒を持参しても、たまには買う |
| 職場の飲み会 | 約8,000円 | 月2回、1回4,000円 |
| 散髪 | 約4,000円 | 月1回、千円カットなら節約できる |
| 趣味・本・ゲーム | 約6,000円 | これでも贅沢な方 |
| 予備 | 約3,900円 | 冠婚葬祭やつきあいの急な出費 |
| 合計 | 約39,100円 | — |
趣味に使えるのは月6,000円。ゴルフは1回で消える。新しいゲーム機は半年の我慢。一人旅なんて、何年先になるかわからない。これが、年収600万円の男の「自由」だ。
独身が自由に使える金は、月約21.5万円
同じ年収600万円で、独身の男はどうか。自分の裁量で使える金を計算してみる。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 手取り(月平均、賞与込み) | 約38.5万円 |
| 家賃(都内の1K〜1LDK) | 約9万円 |
| 食費(昼食代含む)・光熱・通信・日用品 | 約8万円 |
| 自分の裁量で使える金(積立を含む) | 約21.5万円 |
この21.5万円を、積立に10万円、趣味と遊びに8万円、予備に3.5万円と分けても、趣味と遊びだけで既婚男性のお小遣いの2倍だ。そして何より、この配分を決めるのは自分だ。今月は旅行に多めに使い、来月は積立を増やす。誰の許可もいらない。
自分の裁量で使える金(月額・年収600万円のモデル)
Fig. 0230年で開く差は、6,000万円以上
月の差は約17.6万円。これが30年続くとどうなるか。
自分の裁量で使える金の30年累計(モデル)
Fig. 0330年間で、既婚男性が自分の裁量で使える金は約1,400万円。独身男性は約7,700万円。差は約6,300万円だ。しかも独身は、そのうち毎月10万円を積立に回しているので、運用益を含めれば65歳時点の資産でも大きな差がつく。
既婚男性の、涙ぐましい節約術
月3万円台のお小遣いで1か月を乗り切るために、既婚男性はさまざまな工夫をしている。新生銀行の30年白書は、時代ごとの「お小遣いやりくり術」をまとめている。
| やりくり術 | 内容 |
|---|---|
| 昼食代を削る | 30年前からの節約の「王道」。弁当持参、安い店、コンビニのおにぎり |
| 飲み代を削る | 飲みに行く回数を減らす。1999年の月6.0回から2012年は月2.4回に |
| 飲み物代を削る | 昔はタクシー代の節約、今は水筒持参で飲み物代を浮かす |
| 副収入を得る | 給与以外の収入手段を持つ人は、2010年に4割強 |
弁当を持たされ、水筒を持たされ、飲み会を断り、それでも足りなければ副業で稼ぐ。その副業の収入も、家計に入れれば家族のものになる。一日の終わりに、コンビニで缶ビールを1本買うかどうかで迷う男。それが、平均的な既婚男性の財布の中身だ。
独身の男が同じ節約をするのは、自分で選んだときだけだ。弁当を作るのは、うまい弁当を作るのが楽しいから。水筒を持つのは、良いコーヒー豆で淹れた一杯を持ち歩きたいから。同じ行動でも、選ばされた節約と、選んだ節約では、意味がまったく違う。
お小遣いでは、一人の時間は買えない
既婚男性に足りないのは、金だけではない。金を使う時間も足りない。平日は仕事、休日は家族サービスと子供の習い事の送迎。仮にお小遣いが倍になっても、一人で旅行に行く週末は手に入らない。
- 独身の休日:土日の48時間がまるごと自分のもの。サウナ、一人旅、趣味、昼寝。何に使うかは自分で決める
- 既婚男性の休日:家族の予定が優先。自分の時間は、家族が寝た後の深夜か、早朝のわずかな時間
金と時間の両方を自分で決められること。それが、独身の自由の本当の中身だ。既婚男性は、お小遣いで金の一部を取り戻せても、時間は取り戻せない。
お小遣い制が生まれる理由
なぜ既婚男性の多くは、お小遣い制になるのか。理由は単純だ。家族の固定費が大きすぎて、夫の自由に任せる余裕がないからだ。
- 住宅ローン:家族向けの広い家。月10万円以上の返済が35年続く
- 教育費:塾、習い事、学費。子供1人で大学卒業まで1,000万円を超えることも
- 保険料:夫に万一のことがあったときのための生命保険。家族がいるほど手厚くなる
- 車:家族で出かけるための車。駐車場代、保険、車検
- 妻と子の生活費:食費、衣服、日用品。人数分かかる
これらを払った残りの、さらに一部が夫のお小遣いになる。お小遣い制は、家族を持つことのコストが、夫一人の財布に凝縮された姿だ。
お小遣いアップ交渉は、ほぼ無理ゲーだ
「昇給したらお小遣いを上げてもらえばいい」。そう考える既婚男性もいるだろう。だが、現実は厳しい。
| 昇給分の行き先 | 理由 |
|---|---|
| 教育費 | 子供が成長するほど、塾代と学費は増える |
| 貯蓄 | 老後資金と教育資金の積み立てに回される |
| 住まい | 住宅ローンの繰り上げ返済、家具や家電の買い替え |
| 税と社会保険料 | 年収が上がるほど、負担の割合も上がる |
年収が50万円上がっても、手取りの増加は30万円台。それが家計に入り、教育費と貯蓄に吸い込まれていく。お小遣いが月5,000円上がれば御の字だ。昇進して責任が重くなっても、自分の自由はほとんど増えない。
独身なら、昇給分はまるごと自分のものだ。年収が50万円上がれば、手取りの増加分を全額、積立か趣味に回せる。働くほど、自分の自由が増える。この当たり前が、既婚男性には当たり前ではない。
独身の金の使い方:3つのルール
独身の男が自由に使える金は多い。だが、使い方を誤れば、自由な金はすぐに消える。俺たちがすすめるのは、次の3つのルールだ。
- 先取りで積み立てる給料が入ったら、まず新NISAとiDeCoに自動で積み立てる。残った金で暮らす。老後資金は、家族に頼れない独身の生命線だ。
- 自分にお小遣いを設定する趣味と遊びに使う額を、自分で決めておく。既婚男性のように誰かに決められるのではなく、自分で決めて自分で守る。
- 使うときは迷わず使う決めた予算の範囲なら、一人旅も、カウンターの寿司も、高い道具も、迷わず買う。そのために稼ぎ、そのために独身でいる。
自由に使える金は、使い方を自分で設計できる金だ。設計する権利があること自体が、独身の最大の特権だ。
まとめ:お前の給料は、お前のものだ
男性会社員のお小遣いの平均は月3万9,081円。昼食代709円を月20日払えば、残りは2万円台だ。バブル期の1990年の7万7,725円から半分に減り、既婚で子供がいる男性は、未婚より月1万5,000円前後少ない傾向が続いてきた。
年収600万円の独身が自分の裁量で使える金は月約21.5万円。お小遣いの約5.5倍で、30年累計では6,000万円以上の差になる。昇給しても、既婚男性の自由はほとんど増えない。独身の自由は、働くほど増える。
稼いだ金の使い道を、自分で決める。それだけのことが、結婚すると難しくなる。末代で何が悪い。お前の給料は、お前のものだ。
よくある質問
既婚男性のお小遣いの平均はいくらですか?
SBI新生銀行の「会社員のお小遣い調査」(2024年)によると、男性会社員のお小遣いの平均は月3万9,081円だった。この調査は既婚・未婚を含む全体の平均で、同行の過去の調査では、既婚で子供がいる男性は未婚の男性より月1万5,000円前後少ない傾向が続いていた。
お小遣いの中から昼食代も払うのですか?
払っている人が多い。同じ調査で、男性会社員の1日の昼食代の平均は709円だった。月20日働けば約1万4,000円で、お小遣いの3分の1以上が昼食代に消える計算になる。
昔のお小遣いはいくらでしたか?
調査が始まった1979年は4万7,175円、バブル期の1990年には過去最高の7万7,725円だった。その後は減少傾向が続き、近年は3万円台後半で推移している。
独身男性が自由に使えるお金はいくらですか?
収入と生活費によって変わる。この記事のモデル(年収600万円、手取り月約38.5万円、家賃9万円、生活費8万円)では、積立を含めて自分の裁量で使える金は月約21.5万円になる。既婚男性のお小遣いの平均の約5.5倍だ。
お小遣い制はなぜ多いのですか?
結婚すると、住宅ローン、教育費、保険料など家族のための固定費が大きくなり、家計を一つにまとめて管理する必要が出てくるからだ。その結果、夫の給料は家計に入り、夫は決まった額の小遣いを受け取る形になりやすい。
出典・参考資料
- SBI新生銀行「2024年 会社員のお小遣い調査」
- 新生銀行「サラリーマンのお小遣い調査30年白書」(2012年)
- 新生銀行「サラリーマンのお小遣い調査」2015年・2019年
- 国税庁「民間給与実態統計調査」