会計の伝票がテーブルに置かれる。一瞬の沈黙。相手は財布を出すそぶりを見せる。「いいよ、ここは俺が」。言った瞬間、今月の予算が頭の中で崩れる。でも、ここで割り勘を言い出したら、次はないかもしれない。この「いいよ」を、何回繰り返してきた?
令和になっても、デート代は男が多く払うのが当たり前のように扱われている。調査を見ても、初デートで男性の7割以上が多めか全額を払っている。そして、その金がいくらになるのかを、ほとんどの男は計算したことがない。「好きな人のためなら金は惜しくない」と言う男の口座残高は、だいたい惜しむべき水準にある。
この記事では、調査データからデート1回の男女の支出差を確認し、男が恋愛に使う年間コストを可視化する。そして、その金で一人旅に何回行けるかを計算する。その「いいよ」は、旅の航空券だった。
この記事の結論
- デート1回あたりの支出は男性8,339円、女性3,361円。男は約2.5倍払っている
- 初デートでは、男性の72.4%が多めか全額を払っている
- 月3.4回のデートで、男の負担はデート代だけで年約34万円
- プレゼントと旅行を含めると、年約54万円。10年で540万円
- 年54万円あれば、国内一人旅に約13回、海外一人旅に約3回行ける
データ:デート代は、男が多く払っている
デート代の実態を、民間の調査で確認してみよう。調査ごとに対象や時期が違うので幅はあるが、傾向ははっきりしている。
デート1回あたりの支出(男女別)
Fig. 01デート1回あたり、男性は8,339円、女性は3,361円。男は女性の約2.5倍を払っている。別の調査でも傾向は同じだ。
| 調査 | 結果 |
|---|---|
| ネクストレベル(2023年) | 1回あたりの支出は男性8,339円、女性3,361円。月の平均デート回数3.4回 |
| MoneyGeek(2023年) | 1回あたりの平均額は1万2,491円。40代が最も高く1万4,952円 |
| ナイル(2024年) | 初デートで男性の72.4%が「自分が多めに払った」「全額払った」 |
| リーディングテック(2020年) | 1回あたりの支出は男性6,805円、女性2,612円 |
どの調査でも、男性が女性の2倍以上を払っている。若い世代では割り勘も増えているとはいえ、「男が多めに払う」は今も恋愛の標準装備だ。
なぜ、男が払うのか
男がデート代を多く払う理由は、合理性ではなく、慣習だ。
- 昭和の名残:男が稼ぎ、女性を養うという時代の価値観が、デートの会計にだけ残っている
- 評価への不安:割り勘を言い出したら「ケチ」と思われ、次がなくなるのではという恐れ
- 市場の構造:恋愛市場で選ぶ側に立ちやすい女性に対し、男は選ばれるために金を出す
- 収入の差:平均的には男性の方が収入が高いため、払う側に回されやすい
だが、今は女性の就業率も上がり、共働きが当たり前の時代だ。男だけが払う理由は、もうほとんど残っていない。残っているのは、「払わないと選ばれない」という恋愛市場の力学だけだ。
しかも、この力学は年齢が上がっても弱まらない。40代以上を対象にした調査でも、初デートの食事代は「男性が全額」「男性が多め」が合わせて9割近くだったと報じられている。恋愛市場にいる限り、男は何歳になっても払う側だ。
じゃあ聞くが、結婚したら家事も育児も半分ずつ、とも言うよな。稼ぎは男、家事は半分、デート代は男。都合のいいところだけ昭和で、残りは令和。そのダブルスタンダードに付き合う義理は、俺たちにはない。
デート1回の、典型的な内訳
1回8,339円という数字は、どんなデートから生まれているのか。都内での典型的な休日のデートを、男が払う分で分解してみる。
| 項目 | 金額の目安 | 内容 |
|---|---|---|
| ランチ | 約3,000円 | 二人分を払う、または多めに出す |
| カフェ | 約1,500円 | 午後の休憩。二人分 |
| 映画・展示・入場料 | 約2,000円 | 自分の分と、ときに相手の分 |
| 交通費 | 約1,000円 | 待ち合わせ場所までの往復 |
| 夕食(たまに) | 約5,000円〜 | 夜まで一緒にいる日は、ディナー代が加わる |
ランチとカフェと入場料だけで7,000円台。夕食まで一緒にいれば、1回で1万円を軽く超える。調査の8,339円という平均は、決して贅沢なデートの数字ではない。ごく普通の休日を二人で過ごすだけで、この金額になる。
そして、年に何回かは特別なデートがある。誕生日やクリスマスのディナーは、1回で2〜3万円かかることも珍しくない。特別な日ほど、男の財布が試される。
東京のデートは、高くつく
東京で恋愛をすると、デート代はさらに膨らみやすい。理由ははっきりしている。
- 店の選択肢が多すぎる:話題の新店、予約の取れない人気店、SNSで映える店。選択肢が多いほど、行きたい店の基準が上がる
- 比較の対象が多い:SNSで他人のデートが流れてくる。「あの店に行きたい」は、多くの場合、誰かの投稿から生まれる
- 移動にも金と時間がかかる:住む場所が離れていれば、会うたびに往復の交通費と時間がかかる
- 物価が高い:同じランチでも、都心の人気エリアでは地方より高い
一方で、東京は一人で楽しむには最高の街でもある。一人焼肉、カウンターの寿司、サウナ、美術館、深夜のバー。一人客を歓迎する店が、どこよりも多い。同じ東京の物価でも、一人なら自分が本当に行きたい店だけを選べる。東京の高い物価は、デートでは負担になり、一人なら投資になる。
男の年間負担は、約54万円
では、男が恋愛に使う金は、年間でいくらになるのか。調査の数字をもとに計算してみる。
| 項目 | 年間の金額 | 前提 |
|---|---|---|
| デート代 | 約34万円 | 1回8,339円×月3.4回×12か月 |
| 誕生日・クリスマス・記念日のプレゼント | 約8万円 | 年3回、各2〜3万円 |
| 旅行(男の負担分) | 約12万円 | 年2回、1回あたり男の負担6万円 |
| 合計 | 約54万円 | — |
恋人がいる男の年間負担の内訳(モデル)
Fig. 02年約54万円。手取り月30万円の男なら、手取りの約2か月分だ。10年続ければ540万円。20代後半から30代後半まで恋人がいる状態を続ければ、それだけの金が恋愛に消える。
54万円で、一人旅に何回行けるか
ここからが本題だ。この約54万円を、自分の一人旅に使ったらどうなるか。
年54万円で行ける一人旅の回数
Fig. 03| プラン | 内容 |
|---|---|
| 毎月どこかへ | 国内1泊2日を年12回。北海道でうまい魚、京都で寺巡り、九州で温泉。毎月違う街を歩ける |
| 海外を年3回 | 台湾で食べ歩き、タイでマッサージとサウナ、ヨーロッパで美術館巡り |
| 贅沢を少し | 年に2回だけ、一泊5万円以上の高級旅館や外資系ホテルに泊まる。残りで国内旅行を数回 |
デートの「いいよ」を積み重ねた1年と、毎月違う街を一人で旅する1年。どちらの1年が、記憶に残るか。一人旅なら、行き先も日程も、泊まる宿も食べる物も、全部自分で決められる。誰かの機嫌を気にして観光地を回る必要もない。朝早く起きて朝市に行くのも、昼から温泉に浸かってそのまま昼寝するのも、自由だ。
金だけじゃない:時間のコスト
割り勘にすれば金の問題は解決する、と思うかもしれない。だが、デートには時間のコストもかかる。月3.4回、1回5時間(移動を含む)なら、年約200時間だ。
- 行き先は相談して決める:自分が行きたい場所ではなく、二人が納得する場所になる
- ペースは相手に合わせる:歩く速さ、食べるもの、帰る時間
- 準備にも時間がかかる:店選び、予約、服選び
年200時間あれば、国内一人旅の移動と滞在を何回分もまかなえる。デートは、金と時間の両方を使う、二重のコストだ。
割り勘論争の、正体
ネットでは「デート代は割り勘か、男が払うか」という論争が何度も繰り返されている。だが、この論争には本質的な見落としがある。
一人で過ごす男
- 割り勘か奢りかで悩まない
- 会計のたびに相手の顔色をうかがわない
- 行きたい店に、行きたいときに行く
- 使った金は、全部自分の満足になる
デートする男
- 毎回、会計で駆け引きが発生する
- 割り勘を言えばケチ、奢れば財布が痛む
- 店は二人が納得する場所
- 使った金の半分以上は、相手の満足のため
割り勘でも奢りでも、デートをする限り、会計の駆け引きからは逃れられない。この論争に勝つ唯一の方法は、論争の舞台に上がらないことだ。
結婚すれば、デート代どころではない
デート代を払い続けた先に結婚があるなら、さらに桁が変わる。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 婚約指輪 | 数十万円 |
| 結納・婚約から新婚旅行までの総額 | 平均454.3万円 |
| 結婚後の男のお小遣い | 月3万9,081円(男性会社員の平均) |
デート代の年54万円は、結婚という長い支払いの前払い金にすぎない。そして結婚した後、男が自由に使える金は、お小遣いの月3万円台になる。デートで「いいよ」を繰り返した男が、結婚後に財布の主導権を握れることは、まずない。
10年間のデート代で、失うもの
20代後半から30代後半までの10年間、恋人がいる状態を続けたとする。相手が変わっても、デート代はリセットされない。むしろ、新しい相手との初期のデートほど、男が多めに払う場面が増える。
| 項目 | 10年間の金額 |
|---|---|
| デート代 | 約340万円 |
| プレゼント | 約80万円 |
| 旅行(男の負担分) | 約120万円 |
| 合計 | 約540万円 |
540万円あれば、都内の新車の軽自動車なら3台、海外一人旅なら30回以上だ。そして、この10年間の恋愛のうち、何が手元に残っているか。別れた相手との写真と、使い終わったプレゼントの記憶だけということも珍しくない。
年54万円を積み立てたら
旅行ではなく、資産形成に回したらどうなるか。年54万円を新NISAで毎年積み立て、年4%で運用した場合を計算する。
| 期間 | 元本 | 資産額 |
|---|---|---|
| 10年 | 540万円 | 約648万円 |
| 20年 | 1,080万円 | 約1,608万円 |
| 30年 | 1,620万円 | 約3,029万円 |
30年で約3,000万円。都内で賃貸に住み続ける独身男性の老後資金の目安(約3,900万円)の大部分を、デート代だけでまかなえる計算になる。
一人旅を始める手順
デートに使っていた金を一人旅に回すなら、こう始めればいい。
- 近場の日帰りから始める電車で1〜2時間の温泉地へ。昼に着いて湯に浸かり、うまい飯を食って帰るだけでいい。
- 1泊2日に伸ばす一人客を歓迎する宿や、カウンターのある店を選ぶ。夜の街を一人で歩く楽しさがわかる。
- テーマを決める城、寺、ラーメン、サウナ、酒蔵。テーマがあると、旅の満足度が一気に上がる。
- 海外に出る台湾や韓国など近場から。一人なら、行きたい店に好きなだけ並べる。
一人旅の最大の魅力は、旅のすべてが自分の満足のためにあることだ。デートで相手の満足度を気にしながら回る旅とは、まったく別物だ。
まとめ:その「いいよ」は、旅の航空券だった
デート1回あたりの支出は、男性8,339円、女性3,361円。初デートでは男性の72.4%が多めか全額を払っている。月3.4回のデートを1年続けると、男の負担はデート代だけで約34万円、プレゼントと旅行を含めて約54万円になる。
年54万円あれば、国内一人旅に約13回、海外一人旅に約3回行ける。積み立てれば30年で約3,000万円。デートの会計で言った「いいよ」の一つひとつが、行けたはずの旅であり、作れたはずの資産だった。
割り勘論争の舞台から降りて、その金を自分のために使え。末代で何が悪い。
よくある質問
デート代は男が払うべきですか?
法律や決まりはないが、現実には男性が多く払う傾向が続いている。ナイル株式会社の2024年の調査では、初めてのデートで男性の72.4%が「自分が多めに払った」または「全額払った」と答えた。若い世代では割り勘も増えているが、男性負担の慣習は根強い。
デート1回あたりの費用はいくらですか?
調査によって幅がある。ネクストレベルの2023年の調査では、1回あたりの支出は男性が平均8,339円、女性が平均3,361円で、月の平均デート回数は3.4回だった。MoneyGeekの2023年の調査では、1回あたりの平均額は1万2,491円だった。
デート代は年間でいくらかかりますか?
男性1回8,339円、月3.4回で計算すると、デート代だけで年約34万円になる。誕生日やクリスマスのプレゼント、年2回の旅行を加えると、この記事のモデルでは男の負担は年約54万円になる。
デート代の年間約54万円で何ができますか?
1泊2日・4万円の国内一人旅なら約13回、5泊程度・15万円の海外一人旅なら約3回行ける計算になる。新NISAに積み立てれば、年4%で20年運用して約1,600万円になる。
割り勘にすればデート代の問題は解決しますか?
金額の負担は減るが、時間のコストは変わらない。月3.4回、1回5時間のデートなら年約200時間を使う。行き先や店も相手と相談して決めることになり、自分だけの満足のために使える時間ではなくなる。
出典・参考資料
- 株式会社ネクストレベル「デート代に関する調査」(2023年)
- MoneyGeek「デート代に関する調査」(2023年8月)
- ナイル株式会社「初デートに関する調査」(2024年)
- リーディングテック株式会社「デート代に関する調査」(2020年)
- 40代以上の初デートの支払いに関する調査の報道(よろず〜ニュース、2026年7月)
- リクルート「ゼクシィ結婚トレンド調査2024」
- SBI新生銀行「2024年 会社員のお小遣い調査」