生命保険の申込書。「死亡保険金受取人」の欄で、手が止まる。独身の俺は、誰の名前を書けばいいんだ。親は70代、先に亡くなる可能性が高い。きょうだいとは年に一度会うかどうか。甥や姪は書けるのか。世話になった友人は。
既婚の男なら、迷うことはない。受取人は妻。それで終わりだ。だが、その「当たり前」が、熟年離婚のあとに前妻のまま残っていたり、妻が先に亡くなって誰も受け取れなくなっていたりする。受取人の欄は、書いたら終わりではない。
この記事では、おひとりさまの生命保険の受取人の選択肢を、親・きょうだい・甥姪・友人・法人の5つに分けて整理する。受取人によって、指定できるかどうかと、税金がどうなるかが変わる。死亡保障の要らない独身の男でも、葬儀や死後の手続きの費用のために少額の保険に入るなら、受取人は大事な問題だ。
この記事の結論
- 受取人は、多くの保険会社で原則として2親等以内の血族。甥姪や友人は条件つき
- 法定相続人が受け取れば「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使える
- 友人など相続人でない人が受け取ると、非課税枠は使えず、相続税は2割加算
- 親を受取人にしているなら、親が亡くなったら必ず変更しろ
- 保険だけでなく、遺言と死後事務の準備とあわせて考えろ
なぜ、独身の受取人は難しいのか
生命保険の受取人は、保険金を受け取る人だ。家族持ちの男なら、残された配偶者や子供が受け取り、生活費に使う。だが、独身の男には、保険金で生活を守るべき家族がいない。だから、受取人を「誰にするのが自然か」が、はっきりしない。
- 親は先に亡くなる可能性が高い:受取人が先に亡くなると、手続きが複雑になる
- きょうだいとは疎遠なこともある:本当に残したい相手かどうか
- 甥・姪、友人は指定できないことがある:保険会社によって条件が違う
- 受取人によって税金が変わる:非課税枠が使えるか、2割加算になるか
そして、独身の男が保険に入る目的は、多くの場合、葬儀や部屋の片づけ、死後の手続きの費用を残すことだ。つまり、受取人は「自分の死後の始末をしてくれる人」であるのが自然だ。その人に、手続きの費用として保険金が渡るようにする。
まず、自分の法定相続人を知れ
受取人を考える前に、自分の法定相続人が誰かを知っておけ。配偶者も子もいない独身の男の場合、法定相続人は次の順番で決まる。
- 第1順位:子子がいなければ、次へ。
- 第2順位:親(直系尊属)親が生きていれば、親が相続人になる。
- 第3順位:きょうだい親がすでに亡くなっていれば、きょうだいが相続人になる。
- きょうだいが亡くなっていれば、その子(甥・姪)甥・姪が代わりに相続する(代襲相続)。甥・姪の子までは代襲しない。
法定相続人が一人もいない場合、遺言がなければ、財産は最終的に国庫に入ることがある。独身の男は、親が亡くなったあと、きょうだいや甥・姪が相続人になることが多い。そして、その人たちと疎遠なら、自分の財産が、ほとんど会ったことのない親族に渡ることになる。
受取人によって、税金が変わる
契約者(保険料を払う人)と被保険者が本人で、本人が亡くなって保険金が出る場合、その保険金は相続税の対象になる。そして、受取人によって扱いが変わる。
| 受取人 | 非課税枠(500万円×法定相続人の数) | 相続税の2割加算 |
|---|---|---|
| 親(法定相続人) | 使える | なし |
| きょうだい(法定相続人) | 使える | あり |
| 甥・姪(代襲相続人) | 使える | あり |
| 甥・姪(相続人でない場合) | 使えない | あり |
| 友人・内縁のパートナー | 使えない | あり |
ポイントは2つだ。一つは、法定相続人が受け取れば、「500万円×法定相続人の数」まで非課税になること。もう一つは、配偶者、子、親以外の人が受け取ると、相続税額が2割加算されること。きょうだい、甥・姪、友人は、すべて2割加算の対象だ。
ただし、相続税には基礎控除があり、遺産の総額がこれ以下なら、そもそも相続税はかからない。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」だ。
法定相続人の数と、相続税の基礎控除・保険金の非課税枠
Fig. 01独身の男で、相続人が親1人なら、基礎控除は3,600万円。きょうだい2人なら4,200万円だ。遺産と保険金の合計がこれ以下なら、相続税はかからない。葬儀費用程度の少額の保険なら、税金を心配する必要はほとんどない。だが、持ち家や大きな資産がある男は、受取人と税金の関係を考えておけ。
受取人の5つの選択肢
| 受取人 | 指定のしやすさ | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 親 | しやすい | 非課税枠が使え、2割加算もない | 先に亡くなる可能性が高い |
| きょうだい | しやすい | 非課税枠が使える(相続人の場合) | 2割加算。疎遠なら本当に残したい相手か |
| 甥・姪 | 保険会社による | 若いので先に亡くなりにくい | 2割加算。相続人でなければ非課税枠なし |
| 友人・パートナー | 保険会社による(条件が厳しいことが多い) | 本当に世話になった人に残せる | 非課税枠なし、2割加算。親族との関係 |
| 法人・団体 | 限られる | 応援したい活動に残せる | 扱う保険が少ない。遺言や信託との組み合わせ |
1. 親:いちばん簡単、だが先に亡くなる
多くの独身の男は、親を受取人にしている。指定が簡単で、非課税枠も使え、2割加算もない。税金の面では、いちばん有利だ。
だが、親は自分より先に亡くなる可能性が高い。受取人の親が先に亡くなり、受取人を変更しないまま自分が亡くなると、保険金を受け取る人を決める手続きが複雑になる。保険会社の約款や保険法の定めにより、亡くなった受取人の相続人(たとえば、自分のきょうだい)が受け取ることになる場合が多いが、相続人が複数いれば話し合いが必要になる。
親を受取人にしているなら、親が亡くなったらすぐに受取人を変更しろ。そして、親が高齢になったら、親が元気なうちに次の受取人を考えておけ。
2. きょうだい:相続人なら非課税枠が使える
親が亡くなったあと、法定相続人はきょうだいになる。きょうだいを受取人にすれば、非課税枠が使える(相続税の2割加算はある)。
きょうだいを受取人にするなら、自分の死後の手続きを頼めるかどうかを考えろ。葬儀、部屋の片づけ、役所の手続き。保険金を受け取った人が、それをしてくれるのが自然だ。受取人を決めたら、本人にそれを伝えておく。保険のことを知らなければ、請求もされない。
3. 甥・姪:若い世代に託す
親が亡くなり、きょうだいも高齢になると、甥や姪が頼りになることがある。甥・姪は自分より若いので、先に亡くなる可能性が低い。自分の老後や死後のことを、甥・姪に頼む独身の男は少なくない。
ただし、甥・姪は3親等で、保険会社によっては受取人に指定できない、または条件がつく。また、甥・姪はきょうだいが亡くなって代襲相続人になっていない限り、法定相続人ではない。その場合、非課税枠は使えず、相続税は2割加算になる。加入する保険会社に、甥・姪を受取人にできるかを確かめろ。
4. 友人・パートナー:本当に世話になった人に
親族とは疎遠で、本当に世話になったのは友人だ。結婚はしていないが、長く一緒にいるパートナーがいる。そういう独身の男もいるだろう。
友人や内縁のパートナーを受取人にできるかは、保険会社によって大きく違う。多くの保険会社は、保険金目的の犯罪を防ぐため、親族以外を受取人にすることに慎重だ。同居の期間や、関係を示す書類を求められることもある。そして、友人は法定相続人ではないので、非課税枠は使えず、相続税は2割加算になる。
保険の受取人に友人を指定できない場合でも、遺言で預貯金などの財産を友人に遺贈することはできる。保険法では、遺言で保険金の受取人を変更することも認められている(保険会社への通知などの手続きが必要)。友人に残したいなら、保険と遺言の両方で考え、専門家に相談するのが確実だ。
5. 法人・団体:応援したい活動に残す
保険金を、応援しているNPOや団体、母校などに残したいと考える独身の男もいる。だが、法人や団体を受取人に指定できる保険は、限られている。
- 寄付に対応した保険を探す:保険会社によっては、公益法人などを受取人にできる商品がある
- 生命保険信託を使う:保険金を信託会社が受け取り、決めた相手や目的に渡す仕組み
- 遺言で寄付する:保険金ではなく、預貯金などを遺言で団体に遺贈する
- 受け取った親族に寄付を頼む:確実性は低いが、手軽な方法
法人に残す方法は、手続きと税金が複雑になりやすい。本気で考えるなら、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に相談しろ。
指定代理請求人も決めておけ
死亡保険金の受取人と並んで決めておきたいのが、指定代理請求人だ。これは、自分が病気などで保険金を自分で請求できないとき(意識がない、がんの告知を受けていないなど)に、代わりに請求できる人だ。
独身の男は、入院や重い病気のときに代わりに手続きをしてくれる人がいないことがある。医療保険や、病気で保険料の払い込みが免除される特約などがあるなら、指定代理請求人を決めておけ。指定できる範囲は、保険会社によって違う。
今すぐ確かめること
- 今の保険の受取人を確かめる保険証券や保険会社のサイトで、受取人が誰になっているか。亡くなった親のままになっていないか。
- 自分の法定相続人を書き出す親、きょうだい、甥・姪。誰が相続人になるのか。
- 死後の手続きを誰に頼むかを決めるその人を、受取人の第一候補にする。
- 保険会社に受取人の範囲を確かめる甥・姪、友人を指定できるか、条件は何か。
- 受取人本人に伝える保険の存在と、保険会社、証券の保管場所を伝えておく。
特に4番目の「本人に伝える」は大事だ。受取人が保険の存在を知らなければ、保険金は請求されない。独身の男は、自分の死後に、保険の書類を見つけてくれる家族がいないこともある。エンディングノートや財産の一覧に、保険のことを書いておけ。
そもそも、死亡保険は要るのか
最後に、根本の話をしておく。養う家族のいない独身の男に、大きな死亡保障は要らないことが多い。必要なのは、葬儀や死後の手続きの費用くらいで、それは預金で用意できることが多い。
預金なら、受取人の問題も起きない。代わりに、遺言や死後事務委任契約で、誰に何を頼み、財産を誰に残すかを決めておけばいい。保険は、預金では足りない場合や、すぐに現金が必要な手続きの費用を確実に渡したい場合に使う道具だ。
受取人を準備する独身と、放置する既婚
受取人を準備する独身の男
- 死後の手続きを頼む人を、受取人にしている
- 親が亡くなったら、すぐに受取人を変えた
- 受取人本人に、保険の存在を伝えてある
- 保険と遺言を組み合わせて、残す先を決めている
受取人を放置する既婚の男
- 受取人は、結婚したときの妻のまま
- 熟年離婚のあとも、前妻が受取人のまま
- 妻が先に亡くなっても、変更していない
- 「家族がなんとかする」と、何も伝えていない
受取人の欄は、書いたら終わりではない。人生の変化に合わせて、見直す必要がある。家族がいる男は、「家族がいるから」と放置しがちだ。独身の男は、最初から自分で考え、自分で決め、自分で更新する。それができれば、受取人の問題は怖くない。
受取人がいないんじゃない。自分で選んでいるんだ。俺は、死後の始末を頼む甥を受取人にし、本人にも伝えてある。お前の保険の受取人は、今も結婚したときのままか? 離婚したら、妻が先に亡くなったら、誰が受け取る? 一度確かめてみろ。
まとめ:受取人は、死後を託す人にしろ
独身の男の生命保険の受取人は、親・きょうだい・甥姪・友人・法人の5つの選択肢がある。多くの保険会社では、受取人は原則として2親等以内の血族で、甥姪や友人は条件つきか、指定できないことがある。法定相続人が受け取れば「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が使え、友人など相続人でない人が受け取れば使えない。配偶者、子、親以外が受け取ると、相続税は2割加算になる。
受取人は、自分の死後の手続きを頼む人にするのが自然だ。親を受取人にしているなら、親が亡くなったらすぐに変更しろ。受取人本人に保険の存在を伝え、エンディングノートに書いておけ。友人や団体に残したいなら、遺言や生命保険信託もあわせて考えろ。受取人の範囲や税金の扱いは、保険会社や個別の状況で変わるので、保険会社や税理士などの専門家に確認してほしい。
受取人の欄は、自分の死後を誰に託すかの欄だ。末代で何が悪い。
よくある質問
独身の生命保険の受取人は誰にできる?
多くの保険会社では、受取人は原則として配偶者や2親等以内の血族(親、子、きょうだい、祖父母、孫)とされている。甥や姪(3親等)、友人、内縁のパートナーなどは、保険会社によって条件つきで認められる場合と、認められない場合がある。加入する保険会社に確認してほしい。
受取人によって税金は変わる?
変わる。被保険者と契約者が本人の生命保険で、法定相続人が保険金を受け取ると、「500万円×法定相続人の数」までは相続税がかからない。相続人でない人(友人など)が受け取ると、遺贈により取得したものとみなされ、この非課税枠は使えない。また、兄弟姉妹、甥姪、友人などが受け取ると、相続税額が2割加算される(兄弟姉妹も加算の対象)。
独身の法定相続人は誰になる?
配偶者と子がいない場合、まず親(直系尊属)が相続人になる。親がすでに亡くなっていれば、きょうだいが相続人になり、きょうだいが亡くなっていればその子(甥・姪)が代わりに相続する。法定相続人がいない場合、遺言がなければ財産は最終的に国庫に入ることがある。
受取人が先に亡くなったらどうなる?
保険会社の約款や保険法の定めにより、受取人の相続人などが受取人になることが多いが、手続きが複雑になる。親を受取人にしている独身の男は、親が亡くなったら、すぐに受取人を変更しておくべきだ。
保険金を寄付に回すことはできる?
受取人として法人や団体を指定できる保険は限られるが、遺言で受取人を変更する方法や、生命保険信託を使う方法、受け取った親族に寄付を頼む方法などがある。遺言による受取人の変更は保険法で認められているが、保険会社への通知など手続きの注意点がある。
出典・参考資料
- 国税庁「相続税の課税対象になる死亡保険金」「相続税の基礎控除」「相続税額の2割加算」
- 法務省・裁判所の相続に関する案内(法定相続人の順位、代襲相続)
- 保険法(遺言による保険金受取人の変更)
- 生命保険協会、各保険会社の受取人の指定範囲に関する案内