離婚届に判を押した日、すべてが終わったと思うだろう。妻とはもう他人だ。家を出て、狭いワンルームで新しい生活を始める。だが、給料日になると口座から毎月決まった額が消えていく。子供が20歳になるまで、毎月、毎月、毎月。
それが養育費だ。子供のための金だから、払うのは当然だと言う人もいる。それは否定しない。だが、冷静に見てくれ。会えるのは月に1回、それも元妻の都合次第。子供の進路にも口を出せず、それでも金だけは20年間払い続ける。住宅ローンと違って、払い終わっても家は手に入らない。「パパ、養育費ありがとう」と言われた男を、俺は見たことがない。
この記事では、家庭裁判所の標準算定方式で、年収別の養育費の相場を計算する。子供の年齢ごとの総額、2026年4月から始まった法定養育費、払わないとどうなるかまで解説する。子供を持つ前に、離婚後の請求書を見ておけ。
この記事の結論
- 養育費は、夫婦の年収と子供の人数・年齢から算定表で決まる
- 年収600万円の男なら、子1人(14歳以下)で月約6.5万円、子2人で月約9.4万円
- 子供が0歳のときに離婚すれば、20歳までの総額は子1人で約1,600万円
- 2026年4月から、取り決めがなくても子1人月2万円の法定養育費を請求できる
- 払わなければ給料を差し押さえられる。回収の仕組みは年々強くなっている
養育費とは:誰が、いつまで払うのか
養育費とは、離婚した後、子供と離れて暮らす親が、子供の生活のために支払う費用のことだ。親には、子供に自分と同じ水準の生活をさせる義務(生活保持義務)がある。離婚して親権を失っても、この義務はなくならない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 払う人 | 子供と離れて暮らす親(義務者)。日本では多くの場合、父親 |
| 受け取る人 | 子供と一緒に暮らす親(権利者) |
| 金額の決め方 | 夫婦の話し合い。まとまらなければ家庭裁判所の調停・審判。目安は算定表 |
| いつまで | 20歳までと取り決めることが多い。大学卒業(22歳の3月)までとすることも |
| 支払い方 | 毎月の振込が一般的 |
2022年に成年年齢は18歳に引き下げられたが、養育費の支払いは今も20歳までと取り決めるのが一般的だ。大学進学が当たり前の今、「大学卒業まで」と求められることも多い。
算定表の仕組み:金額はどう決まるか
家庭裁判所は、養育費の目安として「養育費・婚姻費用算定表」を公表している。2019年12月に改定された現在の算定表は、次の考え方(標準算定方式)で作られている。
- 基礎収入を出す夫婦それぞれの年収から、税金・社会保険料・仕事に必要な経費・住居費などを差し引いた、生活費に回せる金額を出す。給与所得者なら、年収の約38〜54%が基礎収入になる。
- 子供の生活費を出す子供が義務者と同居していたら使われていたはずの生活費を計算する。親を100としたとき、子供の生活費の指数は14歳以下が62、15歳以上が85だ。
- 夫婦の収入の割合で分ける子供の生活費を、夫婦の基礎収入の割合で分担する。義務者の負担分が養育費になる。
つまり、払う側の年収が高いほど、受け取る側の年収が低いほど、養育費は高くなる。専業主婦だった妻と離婚すると、妻の年収はゼロか低いため、夫の負担はほぼ最大になる。
年収別の養育費の相場:早見表
標準算定方式で、夫(会社員)の年収別に養育費を計算した。妻の年収は100万円(パート)とする。実際の算定表は2万円幅の帯で示されるので、目安として見てくれ。
夫の年収別・養育費の月額(妻の年収100万円)
Fig. 01| 夫の年収 | 子1人・14歳以下(妻0円) | 子1人・14歳以下(妻100万) | 子1人・15歳以上(妻100万) | 子2人・14歳以下(妻100万) |
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | 約5.4万円 | 約4.1万円 | 約5.0万円 | 約6.0万円 |
| 500万円 | 約6.7万円 | 約5.4万円 | 約6.5万円 | 約7.8万円 |
| 600万円 | 約7.8万円 | 約6.5万円 | 約7.8万円 | 約9.4万円 |
| 700万円 | 約9.2万円 | 約7.8万円 | 約9.4万円 | 約11.3万円 |
| 800万円 | 約10.2万円 | 約8.8万円 | 約10.6万円 | 約12.8万円 |
| 1,000万円 | 約12.8万円 | 約11.3万円 | 約13.6万円 | 約16.4万円 |
年収800万円で専業主婦の妻と離婚し、子供が1人なら月約10万円。子供が2人なら月15万円近くになる。手取りの3分の1近くが、毎月消えていく計算だ。しかも子供が15歳になると、生活費の指数が上がり、養育費も増える。
総額はいくら:離婚後も続く「20年ローン」
養育費の怖さは、月額よりも期間の長さにある。年収600万円の夫(妻の年収100万円、子1人)が、子供が何歳のときに離婚したかで、20歳までに払う総額を計算した。
離婚したときの子供の年齢別・20歳までの養育費総額(年収600万円・子1人)
Fig. 02子供が0歳のときに離婚すれば、20歳までの総額は約1,640万円。大学卒業まで払うと決めれば、さらに約190万円が加わる。子供が2人なら、総額は2,000万円を軽く超える。
しかも、この金額は年収が上がれば増える。離婚後に昇進して年収が上がると、元妻から増額を求められることもある。逆に年収が下がって減額を求めても、簡単には認められないこともある。出世すればするほど、元妻への支払いが増える。こんな理不尽な20年ローンが、他にあるか。
そう、子供のためだ。だから払う。だが、その金が本当に子供のために使われているか、確かめる方法はない。元妻の新しい彼氏との焼肉代になっていても、お前には何も言う権利がない。それでも毎月、黙って振り込む。それが離婚した父親の現実だ。
2026年4月から始まった「法定養育費」と先取特権
2024年に成立した改正民法が2026年4月1日に施行され、養育費のルールは受け取る側に有利な方向へ大きく変わった。
| 変更点 | 内容 | 払う側への影響 |
|---|---|---|
| 法定養育費 | 養育費の取り決めをせずに離婚しても、子と暮らす親は子1人あたり月2万円を請求できる | 「取り決めがないから払わない」は通用しなくなった |
| 先取特権 | 養育費の請求権に、ほかの債権より優先して回収できる先取特権が認められた | 取り決めの文書があれば、公正証書がなくても差し押さえの手続きに進みやすくなった |
| 共同親権 | 離婚後も父母の双方が親権を持つ選択が可能になった | 親権があっても養育費の義務は変わらない |
法定養育費の月2万円は、あくまで正式な取り決めをするまでの暫定的な金額だ。その後、調停や話し合いで取り決めれば、算定表に基づく金額に置き換わる。逃げ道は、どんどん塞がれている。
払わないと、どうなるか
「元妻とは会いたくない、養育費も払いたくない」と思う男もいるだろう。だが、払わずに逃げることは、今ではほぼ不可能だ。
- 給料の差し押さえ:公正証書や調停調書があれば、裁判所を通じて給料を差し押さえられる。養育費の場合、手取りの2分の1まで差し押さえが可能で、一度の手続きで将来分まで継続して差し押さえられる
- 勤務先と口座の特定:2020年の民事執行法の改正で、市区町村や年金機構から勤務先の情報を、金融機関から預金口座の情報を、裁判所を通じて取得できるようになった
- 財産開示手続き:裁判所に呼び出され、自分の財産を明らかにするよう命じられる。正当な理由なく応じなかったり、嘘をついたりすると、刑事罰の対象になる
- 会社にばれる:給料が差し押さえられると、勤務先に裁判所から通知が届く
一方で、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」(2021年度)によると、母子世帯で養育費の取り決めをしているのは46.7%、実際に養育費を受け取っているのは28.1%で、受け取っている世帯の平均月額は5万485円だった。この「受け取れていない」状況を変えるために、国は回収の仕組みを次々と強化している。これから離婚する男は、ほぼ確実に払わされると考えた方がいい。
母子世帯の養育費の取り決めと受給の状況
Fig. 03減額や免除ができるケース
一度決めた養育費も、事情が大きく変われば、家庭裁判所に減額や免除を求める調停を申し立てられる。
| 事情の変化 | 認められる可能性 |
|---|---|
| 払う側が失業・病気で収入が大きく減った | 自分から辞めた場合などは認められにくい |
| 払う側が再婚し、扶養する家族が増えた | 再婚相手や新しい子供の分、減額されることがある |
| 受け取る側が再婚し、子が再婚相手と養子縁組した | 養親が第一次的な扶養義務者になり、減額・免除されることがある |
| 受け取る側の収入が大きく増えた | 減額されることがある |
注意すべきは、自分の判断で勝手に支払いを止めてはいけないことだ。減額が認められるまでは、元の金額を払う義務が続く。止めれば、未払い分をまとめて差し押さえられる。
養育費は、税金の面でも損をする
養育費には、もう一つ見落とされがちな不公平がある。払う側は、養育費を所得から差し引けないということだ。
- 払う側:自分の給料から所得税・住民税・社会保険料を引かれた後の手取りから、養育費を払う。養育費の分、税金が安くなるわけではない
- 受け取る側:子供の生活費として受け取る養育費は、原則として贈与税も所得税もかからない
- 扶養控除:16歳以上の子供の扶養控除は、生計を一にしているなどの条件を満たせば払う側も使える場合があるが、受け取る側と二重には使えない
年収600万円の男が月6.5万円の養育費を払うには、税引き前で月8万円以上を稼ぐ必要がある。税金を払い、さらにその残りから養育費を払う。これが離婚した父親の財布の現実だ。
離婚した父親の、1か月の家計
養育費を払いながら暮らす男の家計は、どうなるのか。年収600万円、子供2人(いずれも14歳以下)、元妻の年収100万円のモデルで、同じ年収の独身男性と1か月の家計を比べてみる。
| 項目 | 離婚して養育費を払う男 | 独身の男 |
|---|---|---|
| 手取り(月平均) | 約38.5万円 | 約38.5万円 |
| 養育費(子2人) | 約9.4万円 | 0円 |
| 家賃 | 8万円 | 8万円 |
| 食費・光熱・通信・日用品 | 8万円 | 8万円 |
| 面会交流の交通費・食事代 | 1万円 | 0円 |
| 財産分与で減った資産の穴埋め・ローン | 5万円 | 0円 |
| 自由に使える金と積立 | 約7.1万円 | 約22.5万円 |
同じ年収で、自由に使える金と積立に回せる金は3倍以上の差だ。しかも離婚した男は、財産分与で貯金の半分を失った状態から、このギリギリの家計で老後資金を作り直さなければならない。40代で離婚した男が、50代になっても貯金がほとんどないのは、珍しい話ではない。
独身の男は、毎月22万円以上を自分の楽しみと将来に回せる。年に270万円だ。離婚した男との差は月約15万円、年に約185万円。それが10年続けば、年4%の運用益を含めて約2,200万円の差になる。
養育費のリスクを、ゼロにする方法
養育費は、子供がいる夫婦が離婚したときに発生する。だから、リスクをゼロにする方法は二つしかない。離婚しないか、子供を持たないかだ。
そして、離婚するかどうかは、自分だけでは決められない。妻が離婚を望み、別居を始めれば、婚姻費用の支払いが始まり、いずれは離婚と養育費の取り決めへと進む。自分がどれだけ誠実でも、離婚のリスクは相手次第だ。
独身・子なし
- 養育費のリスク:ゼロ
- 給料の差し押さえ:なし
- 年収が上がれば、全額が自分の自由
結婚して子供を持った男
- 離婚すれば、子1人で総額1,000万円を超えることも
- 払わなければ給料を差し押さえ
- 年収が上がれば、元妻への支払いも増える
まとめ:子供を持つ前に、離婚後の請求書を見ておけ
養育費は、夫婦の年収と子供の人数・年齢から算定表で決まる。年収600万円の男なら、子1人(14歳以下)で月約6.5万円、子2人で月約9.4万円。子供が0歳のときに離婚すれば、20歳までの総額は子1人で約1,640万円になる。
2026年4月からは、取り決めがなくても子1人月2万円の法定養育費を請求できるようになり、先取特権で回収もしやすくなった。払わなければ給料を差し押さえられ、勤務先にも知られる。そして養育費は、税金を払った後の手取りから払う。
結婚して子供を持つことは、離婚したときに20年ローンを背負う可能性を受け入れることだ。末代で何が悪い。そのローンを背負わない人生を、俺たちは選ぶ。
よくある質問
養育費の相場はいくらですか?
夫婦それぞれの年収と、子供の人数・年齢で決まる。家庭裁判所の標準算定方式で計算すると、夫が年収600万円の会社員、妻が年収100万円、子供1人(14歳以下)なら月約6.5万円、子供2人(いずれも14歳以下)なら月約9.4万円が目安だ。実際の算定表は2万円幅の帯で示されている。
養育費は何歳まで払いますか?
成年年齢は18歳に引き下げられたが、養育費は20歳まで支払うと取り決めるのが一般的だ。大学に進学する場合は、22歳の3月まで支払うと取り決めることもある。
養育費の取り決めをしなかったらどうなりますか?
2026年4月1日以降に離婚した場合は、取り決めがなくても、子と暮らす親は子1人あたり月2万円の法定養育費を請求できるようになった。その後、正式な取り決めをすれば、算定表に基づく金額に置き換わる。
養育費を払わないとどうなりますか?
公正証書や調停調書などがあれば、給料や預金を差し押さえられる。2020年の民事執行法の改正で、勤務先や預金口座の情報を裁判所を通じて取得できるようになった。さらに2026年4月からは、養育費に先取特権が認められ、取り決めの文書があれば一定額まで差し押さえの手続きが簡単になった。
再婚したら養育費は払わなくてよくなりますか?
自動的にはなくならない。支払う側が再婚して扶養家族が増えた場合や、受け取る側が再婚して子供が再婚相手と養子縁組した場合などに、減額や免除を求める調停を申し立てることができる。勝手に支払いを止めると、差し押さえを受けるおそれがある。
出典・参考資料
- 裁判所「平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」(養育費・婚姻費用算定表、令和元年12月)
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)について」(法定養育費・先取特権・共同親権、2026年4月1日施行)
- 法務省「民事執行法の改正について」(2020年4月施行、第三者からの情報取得手続き・財産開示手続き)
- 厚生労働省「令和3年度 全国ひとり親世帯等調査結果報告」
- 国税庁「扶養控除」、相続税法基本通達21の3-5(養育費の贈与税の取扱い)