「子供が生まれたし、そろそろ家を買おう」。妻の一言で住宅展示場を回り、営業マンの「今が買い時です」に背中を押され、35年ローンの契約書に判を押す。名義は夫。月々の返済は家賃と同じくらいだから大丈夫、と言われた。
10年後。妻から離婚を切り出される。子供は妻が引き取り、家にもそのまま住みたいと言う。お前は家を出て、駅から遠いワンルームを借りる。そして毎月、自分が住んでいない家のローンと、自分の部屋の家賃と、子供の養育費を払う。マイホームの夢を語っていた男が、他人の住む家のローンを払い続ける。これが、家を買った既婚男の最悪のシナリオだ。
この記事では、住宅ローンが残ったまま離婚したときに家とローンがどうなるかを、オーバーローン、ペアローン、連帯保証、住宅ローン控除まで含めて解説する。モデルで、売っても借金が残る期間も試算した。家は資産じゃない。結婚している限り、爆弾だ。
この記事の結論
- ローンが時価を上回るオーバーローンなら、家を売っても借金が残る
- フルローンで新築を買ったモデルでは、オーバーローンが約15年続く
- 妻子が住み続けると、夫はローン・家賃・養育費の三重払いになりやすい
- ペアローンも連帯保証も、離婚しただけでは外れない
- 独身なら、家を買うのも売るのも、自分一人で決められる
離婚したら、家はどうなるのか
住宅ローンが残っている家は、財産分与のときに家の時価とローン残高の関係で扱いが決まる。
| 状態 | 意味 | 財産分与での扱い |
|---|---|---|
| アンダーローン | 家の時価がローン残高を上回る | 時価から残高を引いた額を財産として、原則2分の1ずつ分ける |
| オーバーローン | ローン残高が家の時価を上回る | 家の価値はゼロとして扱われることが多い。ローンの返済義務は名義人に残る |
オーバーローンの家は、財産としては価値がないと扱われる一方で、借金だけは名義人に残る。妻は家の価値を分けてもらえない代わりに借金も負わない。夫は家の価値がゼロなのに、借金だけを背負い続ける。
モデル:売っても借金が残る期間は約15年
では、家を買ってから何年くらいオーバーローンの状態が続くのか。東京近郊で5,500万円の新築マンションを買い、諸費用込みで5,800万円をフルローン(35年・金利1.0%)で借りたモデルで計算してみる。
- 毎月の返済額は約16.4万円
- 新築の住宅は、買った直後に市場での価値が下がりやすい。ここでは購入直後の時価を価格の9割とし、その後は年2%ずつ下がると仮定する
- 売るときには仲介手数料などの費用がかかる。手取りは時価の96%とする
ローン残高と、売ったときの手取り額(モデル)
Fig. 01購入直後は、売っても約1,000万円の借金が残る。その差は少しずつ縮まるが、ローン残高が売却の手取りを下回るのは15年目あたりだ。つまり、結婚してすぐに家を買った夫婦が10年目に離婚すれば、家を売っても数百万円の借金が残る計算になる。
もちろん、都心の人気エリアのように価格が上がっている物件なら、アンダーローンになることもある。だが、値上がりを前提に人生最大の借金をするのは、ギャンブルだ。そして郊外の戸建ては、建物の価値が築20〜25年でほぼゼロになるのが一般的だ。
離婚後の家の、4つの選択肢
住宅ローンが残った家の処理には、大きく四つの選択肢がある。どれを選んでも、夫にとって楽な道はない。
| 選択肢 | 内容 | 夫の負担 |
|---|---|---|
| 売却してローンを完済 | アンダーローンなら残りを分ける。オーバーローンなら差額を自己資金で埋める | オーバーローンだと数百万円の持ち出し |
| 夫が住み続ける | 夫がローンを払い続け、アンダーローンなら妻に財産分与の代償金を払う | ローン+代償金。一人には広すぎる家 |
| 妻子が住み続け、夫が払う | 子供の転校を避けるため、妻子が住み、名義人の夫がローンを払う | ローン+自分の家賃+養育費の三重払い |
| 任意売却・競売 | 返済できなくなり、金融機関の同意を得て売る、または競売になる | 売っても残った借金は返済義務が残る |
最悪のシナリオ:三重払い
最も多く、最も厳しいのが、妻子が家に住み続け、出て行った夫がローンを払うパターンだ。子供の学区を変えたくない、妻に家を出る資金がない、オーバーローンで売るに売れない。理由はさまざまだが、結果は同じだ。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 手取り(月平均) | 約44万円 |
| 妻子が住む家の住宅ローン | 約16.4万円 |
| 自分のワンルームの家賃 | 約8万円 |
| 養育費(子2人、住居費分を考慮した調整後の例) | 約8万円 |
| 自分の生活費 | 約8万円 |
| 残る金 | 約3.6万円 |
年収700万円あっても、手元に残るのは月3万円台。貯金も積立もできない。病気や失業で収入が途絶えれば、すぐに返済が滞る。そして、このパターンにはさらに落とし穴がある。
- 住宅ローン控除が使えなくなる:住宅ローン控除は、ローンを組んだ本人がその家に住んでいることが条件だ。離婚で夫が出て行けば、原則として控除は受けられなくなる
- 契約違反のおそれ:住宅ローンは、本人が住むための家を買う前提で低い金利が設定されている。名義人が住んでいないことが金融機関に知られると、契約の見直しを求められるおそれがある
- 家はいずれどうするのか:子供が独立した後、家を売るのか、妻に渡すのか。名義は夫のままでも、元妻が住んでいる家を売るのは簡単ではない
資産? 名義はお前、住んでるのは元妻と元妻の新しい男、ローンを払うのはお前。それを資産と呼ぶなら、俺は資産なんかいらない。俺のワンルームの賃貸は、出て行きたくなったら1か月前に連絡するだけで終わる。
ペアローンと連帯保証の落とし穴
最近は、共働き夫婦が二人で借りるペアローンや、妻を連帯保証人や連帯債務者にする借り方も増えている。借入額を増やせるのは魅力だが、離婚したときには大きな落とし穴になる。
| 借り方 | 仕組み | 離婚したとき |
|---|---|---|
| ペアローン | 夫婦がそれぞれ別々のローンを組み、互いに相手のローンの連帯保証人になる | 二つのローンはそのまま残る。片方が返済をやめると、もう片方も保証人として請求される |
| 連帯債務 | 一つのローンを夫婦が連帯して返済する | 夫婦ともに全額の返済義務を負い続ける |
| 連帯保証 | 夫が債務者、妻が連帯保証人 | 離婚しても保証人から外れない。夫が返せなければ妻に請求が行く |
どの借り方でも、離婚は金融機関との契約を変えない。ローンを一本化したり、保証人を外したりするには金融機関の同意が必要で、残る側に一人で返せるだけの収入がなければ、まず認められない。別れた相手と、何十年も借金でつながり続けることになる。
名義を妻に変えられるか
「家は妻にあげるから、ローンも妻の名義にしてくれ」。夫ならそう考えるだろう。だが、ローンの名義変更は、金融機関から見れば新しい人にお金を貸し直すことと同じだ。
- 妻に、残りのローンを一人で返せるだけの安定した収入が必要
- 多くの場合、妻名義での借り換えという形になり、審査を通る必要がある
- 専業主婦やパートだった妻が、数千万円の借り換え審査に通るのは難しい
結局、名義もローンも夫に残り、家にだけ妻が住む。家を買った時点で、離婚後の選択肢はほとんど決まっていたということだ。
財産分与との関係
家の扱いは、財産分与全体の中で決まる。アンダーローンなら、家の純資産も預金や株と同じように2分の1ずつ分ける。夫が家に住み続けるなら、妻の取り分に当たる金額を代償金として現金で払う必要がある。
例えば、時価4,000万円、ローン残高3,000万円の家なら、純資産は1,000万円。夫が住み続けるには、妻に500万円を払わなければならない。家に住み続けるために、自分の家の半分を買い直すようなものだ。
家を買う前に考えるべきこと
すでに結婚している男が、これから家を買うなら、最低限これだけは考えておけ。
- フルローンを避ける頭金を入れて借入額を減らせば、オーバーローンの期間は短くなる。
- ペアローンと連帯保証は慎重に借入額を増やすための夫婦の共同借入は、離婚したときに外せない鎖になる。
- 売りやすい物件を選ぶ駅に近い、需要のあるエリアの物件は、いざというときに売りやすく、値下がりもしにくい。
- 買わないという選択肢賃貸なら、離婚しても解約すれば終わる。住宅ローンという35年の鎖を、そもそも背負わない。
賃貸と購入を、離婚リスク込みで比べる
「家賃を払い続けるのはもったいない」。家を買う理由として、必ず出てくる言葉だ。だが、その比較には離婚のリスクが入っていない。結婚3組に対して離婚が約1組の割合で起きている今、離婚した場合を含めて比べてみる。
| 項目 | 賃貸に住んでいた場合 | ローンで購入していた場合 |
|---|---|---|
| 離婚時の手続き | 解約するか、どちらかが契約を引き継ぐ | 売却・住み続ける・名義の扱いを決める必要がある |
| 借金 | なし | オーバーローンなら、売っても数百万円以上残る |
| 引っ越しの自由 | 1〜2か月前の連絡で退去できる | 売れるまで動けない。売れても借金が残ることも |
| 夫の毎月の住居費 | 自分の部屋の家賃だけ | 自分の家賃+住まない家のローンの二重払いも |
| 財産分与 | 住まいは対象外 | アンダーローンなら純資産の半分を分ける |
購入が得になるのは、離婚せず、ローンを最後まで払い終え、家の価値もそれなりに残った場合だ。どれか一つでも崩れれば、購入は一気に不利になる。結婚生活の35年間、この三つの条件がそろい続けると、自信を持って言える夫婦がどれだけいるだろうか。
しかも、家族向けの家を買う理由の多くは、子供の部屋や学区だ。子供が独立すれば、広い家は夫婦二人には持て余す。家族のための家は、家族が形を変えた瞬間に、重荷に変わる。
独身男の住まいの選び方
では、独身の男は住まいをどう考えればいいか。基本は、身軽さと立地を最優先にすることだ。
- 若いうちは賃貸で身軽に:転職、昇進、趣味の変化に合わせて、住む場所を変えられる。職場に近い場所を選べば、通勤時間が自由な時間に変わる
- 買うなら一人用の売りやすい物件:駅に近いコンパクトなマンションは、単身者や投資家の需要があり、売りやすく貸しやすい
- 借りるなら頭金を入れて控えめに:収入に対して無理のない借入額にすれば、オーバーローンの期間は短く、いつでも身動きが取れる
- 老後の住まいは早めに方針を決める:高齢の単身者は賃貸の入居審査で不利になることがある。持ち家にするか、資産を厚くして賃貸を続けるか、50代までに決めておく
独身の住まい選びで大事なのは、自分の人生の変化に、住まいを合わせられることだ。家族の事情に住まいを合わせ、離婚でその住まいに縛られる既婚男とは、出発点がまるで違う。
独身なら、家は自分一人で決められる
住宅ローンと離婚の問題は、二人の人生を、一つの借金で縛ることから生まれる。独身なら、この問題は最初から存在しない。
独身の男と家
- 買うか借りるかを自分一人で決める
- 一人に合った広さと立地を選べる
- 売りたくなったら、自分の判断で売れる
- 借金を他人と共有しない
既婚の男と家
- 学区と広さで、高い家を買わされる
- 名義もローンも夫、決定権は家族
- 離婚すれば、住まない家のローンが残る
- ペアローンなら、元妻と借金でつながり続ける
独身の男は、都心の便利な場所に一人用の部屋を借りて身軽に暮らすことも、自分のペースで一人用のマンションを買うこともできる。どちらを選んでも、その決定を誰かに覆されることはない。
まとめ:家は資産じゃない、結婚している限り爆弾だ
住宅ローンが残ったまま離婚すると、家はアンダーローンなら財産として分けられ、オーバーローンなら価値ゼロのまま借金だけが名義人に残る。フルローンで新築を買ったモデルでは、売っても借金が残る状態が約15年続いた。
妻子が住み続け、出て行った夫がローンを払うパターンでは、ローン・自分の家賃・養育費の三重払いになり、住宅ローン控除も受けられなくなる。ペアローンや連帯保証は、離婚しただけでは外れない。
家を買うかどうかは、自分一人で決めるべきことだ。末代で何が悪い。誰にも覆されない住まいを、自分の金で選べ。
よくある質問
住宅ローンが残っている家は離婚のときどうなりますか?
家の時価とローン残高の関係で扱いが変わる。時価が残高を上回るアンダーローンなら、差額を財産として夫婦で分ける。残高が時価を上回るオーバーローンなら、家の価値はゼロとして扱われることが多く、ローンの返済義務は名義人に残る。
離婚後に妻と子が家に住み続けることはできますか?
できるが、ローンの名義人である夫が返済を続けることになるケースが多い。夫が返済をやめれば家は競売にかけられ、妻子も住めなくなる。また、名義人が住んでいないことは、住宅ローン契約の条件に反するおそれがあり、住宅ローン控除も原則として受けられなくなる。
ペアローンで家を買った夫婦が離婚するとどうなりますか?
夫婦それぞれが自分のローンの債務者であり続ける。離婚しても、金融機関が認めない限り、どちらかのローンをなくしたり、名義を一本化したりすることは難しい。片方が返済できなくなると、家全体が競売にかけられるおそれがある。
連帯保証人になっている妻は離婚すれば外れますか?
外れない。連帯保証は金融機関との契約であり、離婚という夫婦間の事情では解除されない。外すには、代わりの保証人を立てる、借り換えるなど、金融機関の同意が必要になる。
オーバーローンの家はどうすれば処分できますか?
売却代金でローンを完済できない場合、差額を自己資金で埋めて売るか、金融機関の同意を得て任意売却するかになる。任意売却でも残った借金は返済しなければならない。返済が止まれば、最終的には競売になる。
出典・参考資料
- 民法第768条(財産分与)
- 国税庁「住宅借入金等特別控除」(No.1211-1)
- 住宅金融支援機構「フラット35利用者調査」
- 不動産経済研究所「首都圏 新築分譲マンション市場動向」
- 国税庁「耐用年数表」(木造住宅22年)