80歳。ある朝、立ち上がれなくなる。トイレに行くのもやっと、食事の支度もできない。独身の男は、そのとき誰に助けを求めるのか。介護は、遠い未来の話ではない。そして、介護には金がかかる。
家族のいる男は、「いざとなったら妻が」「子供が」と思っている。だが、妻も同じように年を取り、老老介護に疲れ果てる。子供は遠くに住み、仕事を辞めて介護に戻ってくることを求められる。家族の介護は、家族の人生を削る。
独身の男は、最初から家族の介護に頼らない前提で備えられる。この記事では、介護にかかる費用の目安、介護保険の仕組み、要介護度別の限度額、施設の費用、そして独身男の介護資金の作り方をまとめた。介護費用は、自分で用意しろ。
この記事の結論
- 介護費用の総額は約540万円とされる(一時費用47万円+月9万円×55か月)
- 介護保険の自己負担は原則1割。だが限度額を超えた分と、施設の居住費・食費は自己負担
- 独身の男は家族の介護に頼れない分、サービスと施設に頼る割合が大きい
- 高額介護サービス費など、自己負担を抑える制度を知っておけ
- 介護資金は生活費とは別枠で。身元保証と手続きの代理人も準備しろ
介護には、いくらかかるのか
生命保険文化センターの「生命保険に関する全国実態調査」(2024年度)によると、過去3年間に介護を経験した人が答えた介護費用は、次のとおりとされる。
- 一時費用(住宅改修、介護用ベッドの購入など):平均47万円
- 月々の費用:平均9万円
- 介護期間:平均4年7か月(55か月)
介護費用の総額の目安
Fig. 01単純に合計すると、約542万円。これは平均で、介護期間が10年を超える人もいれば、施設に入って月に20万円以上かかる人もいる。そして、この調査の回答者の多くは、家族が介護を手伝っている人だ。家族の手を借りない独身の男は、サービスを使う量が多くなり、費用がかさみやすい。
介護保険の仕組み
介護費用の多くは、介護保険でまかなわれる。40歳以上の人は全員、介護保険料を払っている。介護が必要になったら、次の流れでサービスを使う。
- 市区町村に要介護認定を申請する本人か家族、または地域包括支援センターなどが代わりに申請できる。
- 調査と審査を受ける調査員が心身の状態を確かめ、主治医の意見書とあわせて審査される。
- 要介護度が決まる要支援1・2、要介護1〜5の7段階。
- ケアプランを作るケアマネジャー(介護支援専門員)が、使うサービスの計画を立てる。
- サービスを使う訪問介護、デイサービス、ショートステイ、施設など。
サービスを使ったときの自己負担は原則1割だ。一定以上の所得がある人は2割、さらに所得の高い人は3割になる。つまり、介護サービスの費用の7〜9割は、介護保険が払ってくれる。
要介護度別の支給限度額
ただし、在宅で使う介護サービスには、要介護度ごとに1か月の上限(区分支給限度額)がある。上限を超えて使った分は、全額が自己負担になる。
要介護度別の区分支給限度額(1か月)
Fig. 02| 要介護度 | 限度額 | 1割負担の場合の自己負担 |
|---|---|---|
| 要支援1 | 約5.0万円 | 約5,000円 |
| 要支援2 | 約10.5万円 | 約1.1万円 |
| 要介護1 | 約16.8万円 | 約1.7万円 |
| 要介護2 | 約19.7万円 | 約2.0万円 |
| 要介護3 | 約27.0万円 | 約2.7万円 |
| 要介護4 | 約30.9万円 | 約3.1万円 |
| 要介護5 | 約36.2万円 | 約3.6万円 |
要介護5で限度額いっぱいまでサービスを使っても、1割負担なら自己負担は月約3.6万円だ。だが、家族の手助けがない独身の男は、限度額の中でサービスが足りなくなることがある。そのときは、限度額を超えた分を全額自分で払うか、施設に入ることになる。
施設に入る場合の費用
一人暮らしで在宅の介護が難しくなったら、施設が選択肢になる。施設の費用は、種類によって大きく違う。
| 施設 | 入れる人 | 入居一時金 | 月額の目安 |
|---|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム(特養) | 原則要介護3以上 | なし | 10万〜15万円程度(部屋の種類や所得で違う) |
| 介護老人保健施設(老健) | 在宅復帰を目指す要介護者 | なし | 10万〜15万円程度 |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設による | 0円〜数千万円 | 15万〜30万円以上 |
| サービス付き高齢者向け住宅 | 自立〜軽度の要介護が中心 | 敷金程度が多い | 10万〜25万円程度(介護サービス費は別) |
施設の月額には、介護保険の自己負担のほかに、居住費、食費、日常生活費が含まれる。居住費と食費は介護保険の対象外で、全額自己負担だ(所得の低い人には軽減の制度がある)。特養は費用が安いが、原則要介護3以上で、地域によっては入居を待つ人も多い。有料老人ホームは、費用が高いが選択肢が多い。上の金額は目安で、施設ごとに大きく違うので、入居を考えるときは各施設の公式の情報で確かめてほしい。
独身の男の介護は、何が違うのか
- 家族の手助けがない:在宅介護は、家族の手助けを前提にしていることが多い。独身の男は、その分をサービスで埋める必要がある
- 施設に入るのが早くなりやすい:一人で暮らせなくなったら、施設に入るしかない
- 身元保証人の問題:施設や病院に入るとき、身元保証人を求められることが多い
- 手続きの代理人がいない:要介護認定の申請、施設の契約、お金の管理を、誰がするのか
- 判断能力が落ちたとき:認知症になれば、自分で契約やお金の管理ができなくなる
つまり、独身の男の介護の備えは、金だけではない。誰に手続きを頼むか、判断能力が落ちたときに誰が財産を管理するかまで、元気なうちに決めておく必要がある。
自己負担を抑える制度
- 高額介護サービス費:介護保険の自己負担が1か月に一定額を超えたら、超えた分が払い戻される。一般的な所得の人の上限は世帯で月4万4,400円(所得によって違う)
- 高額医療・高額介護合算療養費制度:1年間の医療費と介護費の自己負担の合計が上限を超えたら、払い戻される
- 補足給付(負担限度額認定):所得と資産が一定以下の人は、施設の居住費と食費が軽減される
- 医療費控除:一部の介護サービスの自己負担は、医療費控除の対象になる
これらの制度は、申請しないと使えないものが多い。家族がいれば代わりに調べて申請してくれることもあるが、独身の男は自分でやるか、ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する必要がある。制度があることを、元気なうちに知っておけ。
独身男の介護資金の作り方
- 介護資金を、生活費とは別枠にする老後の生活費の取り崩しと混ぜると、いざというときに足りなくなる。
- 目安は500万〜800万円調査の平均の約540万円に、施設の上乗せや身元保証の費用を加えて考える。
- 現金に近い形で持つ介護はいつ始まるかわからない。すぐに使える預金や、取り崩しやすい資産で。
- 持ち家なら、住み替えや売却も選択肢に施設に入るときに家を売れば、入居の資金になる。
- 介護保険の自己負担の割合を知っておく所得が高いと2〜3割負担になる。年金や働いた収入の額で決まる。
当サイトの老後資金のシミュレーションでは、介護・身元保証・死後事務の予備費として800万円程度を見ている。これは、生活費の取り崩しとは別の財布だ。介護の財布を、老後資金の中に最初から分けておけ。
民間の介護保険は要るのか
民間の保険会社にも、介護保険(要介護状態になったら一時金や年金が出る保険)がある。独身の男に要るかどうかは、介護資金を自分で用意できるかどうかで決まる。
- 預金と資産で500万〜800万円を用意できる:民間の介護保険は必要ないことが多い
- 資産が少なく、介護資金を貯める見込みが立たない:保険で備えるのも一つの方法
- 保険の条件を確かめる:どの要介護度から支払われるか、公的な認定と連動しているか
保険は、払った保険料より多く受け取れるとは限らない。介護が必要にならなければ、保険料は戻ってこない。まずは自分の資産で備え、足りない分だけ保険で補うのが基本の考え方だ。
金以外の備え:誰に頼むか
独身の男の介護の備えで、金と同じくらい大事なのが、誰に頼むかだ。
| 決めること | 方法 |
|---|---|
| 介護の相談先 | 住んでいる地域の地域包括支援センターを、元気なうちに調べておく |
| 身元保証人 | きょうだいや甥・姪に頼む、身元保証サービスを使う |
| 判断能力が落ちたときの財産管理 | 任意後見契約を結んでおく |
| 緊急連絡先 | 倒れたときに連絡してほしい人を、財布とスマホに |
| 介護の希望 | 在宅か施設か、どんな介護を受けたいかを書いておく |
特に任意後見契約は、独身の男にとって大事な備えだ。認知症などで判断能力が落ちたとき、自分が選んだ人に、財産の管理や介護の契約を任せられる。元気なうちに、公正証書で結んでおく必要がある。判断能力が落ちてからでは、結べない。頼める親族がいなければ、弁護士や司法書士などの専門家と契約することもできる。
いちばんの節約は、介護を遅らせること
介護費用のいちばんの節約は、介護が必要になる時期を遅らせることだ。健康で自立して暮らせる期間が長いほど、介護費用は少なくなる。
- 筋力を保つ:足腰の筋力が落ちると、転倒やけがから寝たきりになりやすい。散歩とスクワット
- 人と話す:人との交流は、認知機能の維持に役立つとされる
- 持病を管理する:高血圧や糖尿病は、脳卒中などの原因になる
- 住まいを安全に:段差をなくし、手すりをつけ、冬の寒さを防ぐ
- 聞こえと見え方を保つ:補聴器や眼鏡で、生活の質と人との交流を保つ
独身の男は、自分の体に時間と金を使える。ジムに通い、健康診断を受け、うまいものを適量食べ、人と話す。健康への投資は、介護費用への最大の備えだ。
介護に自分で備える独身と、家族に頼る既婚
介護に自分で備える独身の男
- 介護資金を、生活費とは別枠で用意している
- 地域包括支援センターの場所を知っている
- 任意後見と身元保証を、元気なうちに準備した
- 健康に投資して、介護を遅らせている
「家族がいるから」と頼る既婚の男
- 「いざとなったら妻が」と思っている
- 妻も年を取り、老老介護に疲れ果てる
- 遠くに住む子供が、仕事を辞めて戻ってくる
- 介護資金も、後見の準備も考えていない
もちろん、家族で支え合いながら介護をしている家庭もある。だが、家族の介護は、家族の人生を削る。独身の男は、最初から家族に頼らない前提で、金と制度と人の準備ができる。それは、誰の人生も削らない介護の備えだ。
介護してくれる人は、金と制度で用意する。介護資金を別枠で貯め、任意後見を結び、地域包括支援センターも調べてある。お前は「妻がいるから」と言うが、妻が先に倒れたら? 子供に仕事を辞めさせて介護させるのか? 家族の人生を削る介護と、自分で用意した介護。どっちが大変だ?
まとめ:介護費用は、自分で用意しろ
介護費用は、一時費用が平均47万円、月額が平均9万円、期間が平均4年7か月で、総額は約540万円とされる。介護保険を使えば自己負担は原則1割で、要介護5でも限度額いっぱいの自己負担は月約3.6万円だが、限度額を超えた分や施設の居住費・食費は自己負担だ。独身の男は家族の介護に頼れない分、サービスと施設に頼る割合が大きく、費用がかさみやすい。
介護資金は、生活費とは別枠で500万〜800万円を目安に用意しろ。高額介護サービス費などの制度を知り、地域包括支援センターを調べ、任意後見と身元保証を元気なうちに準備しろ。そして、健康に投資して、介護が必要になる時期を遅らせろ。介護保険の限度額や自己負担、施設の費用は制度改正や地域で変わるので、市区町村や施設の最新の情報を確認してほしい。
家族の人生を削らない介護を、自分の手で用意しろ。末代で何が悪い。
よくある質問
介護費用は平均でいくらかかる?
生命保険文化センターの生命保険に関する全国実態調査(2024年度)では、介護にかかった費用は、住宅改修や介護用ベッドの購入などの一時費用が平均47万円、月々の費用が平均9万円、介護期間が平均4年7か月(55か月)とされる。単純に合計すると、約542万円になる。
介護保険の自己負担はどれくらい?
介護保険のサービスを使うと、自己負担は原則1割(一定以上の所得がある人は2割または3割)だ。ただし、要介護度ごとに決められた支給限度額を超えて使った分は全額自己負担になる。施設の居住費や食費、日常生活費も、別に自己負担になる。
独身の介護は何が大変?
家族の介護に頼れないことだ。在宅での介護は、家族の手助けがあることを前提にしていることが多い。独身の男は、介護サービスや施設に頼る割合が大きくなり、その分費用がかさみやすい。施設に入るときの身元保証人や、手続きを代わりにしてくれる人の確保も課題になる。
介護費用の自己負担に上限はある?
ある。介護保険の自己負担が1か月に一定額を超えると、超えた分が払い戻される「高額介護サービス費」の制度がある。一般的な所得の人の上限は、世帯で月4万4,400円だ(所得によって違う)。医療費と合算する「高額医療・高額介護合算療養費制度」もある。
独身男は介護資金をいくら用意すればいい?
目安として、調査の平均総額の約540万円に、施設に入る場合の上乗せや、身元保証などの費用を加えて考えるといい。当サイトの老後資金のシミュレーションでは、介護・身元保証・死後事務の予備費として800万円程度を見ている。
出典・参考資料
- 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」(2024年度、介護費用。解説による)
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」「サービスにかかる利用料」(区分支給限度基準額、自己負担割合、高額介護サービス費)
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算療養費制度」
- 法務省「成年後見制度・任意後見制度」