現役時代に住む街は、通勤の便利さで選ぶ。会社に近い、乗り換えが少ない、終電が遅い。だが、仕事を辞めたあと、その街は自分にとって住みやすいだろうか。駅前は飲み屋とオフィスばかりで、病院は遠く、坂がきつい。老後に住みやすい街は、別の基準で選ぶ必要がある。
家族のいる男は、子供の学区で住む街を選び、子供が独立したあとも、広い家と郊外の坂の上の住宅地に残される。駅までバスで20分、スーパーまで車で10分。車の運転をやめたら、買い物にも行けなくなる。家族のために選んだ街が、老後の足かせになる。
おひとりさまは、自分一人の老後に合った街を、自分で選び直せる。この記事では、東京とその周辺の街を、都心・下町・多摩・近県・地方都市の5つのタイプに分け、老後の暮らしやすさの7つの基準で比べた。特定の街の名前を挙げて順位をつけるのではなく、自分に合う街の見つけ方を示す。
この記事の結論
- 現役時代に住みやすい街と、老後に住みやすい街は違う
- 基準は7つ:病院・買い物・住居費・交通・居場所・坂と災害・行政サービス
- 下町は、居場所と生活の便利さと家賃のバランスがいい
- 住居費を下げたいなら、多摩・近県・地方都市。ただし孤立に注意
- 決める前に、平日と休日、昼と夜に歩いて確かめろ
東京は、おひとりさまの男が最も多い街だ
国立社会保障・人口問題研究所の人口統計資料集によると、2020年の男性の50歳時未婚割合は、東京都が32.15%で全国最高だった。全国の28.25%を大きく上回る。
男性の50歳時未婚割合(2020年)
Fig. 01東京と、その周りの埼玉・神奈川・千葉は、独身の男が多い地域だ。それは、おひとりさまが暮らしやすい仕組みが、他の地域より整っているということでもある。一人で入れる店、一人向けの住まい、24時間の店、一人で使えるサービス。東京は、一人で生きることを前提にした街だと言っていい。
だが、東京の中でも、老後の暮らしやすさは街によって大きく違う。
老後に住みやすい街の7つの基準
| 基準 | 確かめること |
|---|---|
| 1. 病院 | 内科のかかりつけ医と、大きな病院に通いやすいか |
| 2. 買い物 | スーパー、ドラッグストアに歩いて行けるか |
| 3. 住居費 | 家賃や住居費が、年金と資産で払い続けられるか |
| 4. 交通 | 車がなくても、電車やバスで移動できるか |
| 5. 居場所 | 一人で入れる喫茶店、食堂、銭湯、図書館、公園があるか |
| 6. 坂と災害 | 坂や階段が少ないか。水害や土砂災害の危険は |
| 7. 行政サービス | 高齢者向けの見守りや支援、地域包括支援センターの体制 |
現役時代の街選びでは、通勤と家賃と飲み屋が中心だった。老後の街選びでは、病院と買い物と居場所が中心になる。そして、車を運転しなくても暮らせることが、何より大事になる。70代、80代で車を手放したとき、歩いて暮らせる街かどうかで、暮らしの質がまるで変わる。
5つの街のタイプを比べる
| タイプ | 病院・買い物・交通 | 住居費 | 居場所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 都心 | ◎ | ×(高い) | ○ | 家賃が年金では払えないことが多い |
| 下町 | ◎ | ○ | ◎ | 地域によっては水害の危険。古い建物が多い |
| 多摩の中核都市 | ○ | ○ | ○ | 駅から離れると坂やバス便の地域もある |
| 近県の中核都市 | ○ | ◎ | ○ | 都内の知り合いと距離ができる |
| 地方の中核都市 | ○ | ◎(安い) | △〜○ | 知り合いがいないと孤立しやすい。冬の寒さ |
5つの街のタイプの総合点(編集部の評価、7基準×5点満点)
Fig. 02| 基準 | 都心 | 下町 | 多摩 | 近県 | 地方都市 |
|---|---|---|---|---|---|
| 病院 | 5 | 5 | 4 | 4 | 4 |
| 買い物 | 4 | 5 | 4 | 4 | 3 |
| 住居費 | 1 | 3 | 4 | 4 | 5 |
| 交通 | 5 | 5 | 3 | 4 | 2 |
| 居場所 | 3 | 5 | 3 | 3 | 3 |
| 坂と災害 | 3 | 2 | 3 | 3 | 3 |
| 行政サービス | 3 | 4 | 4 | 4 | 3 |
| 合計 | 24 | 29 | 25 | 26 | 23 |
この評価は、一つの見方にすぎない。資産に余裕があれば都心がいちばん便利だし、知り合いがいれば地方都市も暮らしやすい。大事なのは、7つの基準で、自分にとっての点数をつけることだ。
都心:便利だが、高い
都心は、病院、交通、店がすべてそろっている。大きな病院に近く、電車は数分おき、深夜まで店が開いている。一人で入れる店も多い。暮らしの便利さでは、都心に勝る場所はない。
だが、家賃が高い。年金の手取りが月15万円前後なら、都心の家賃を払い続けるのは難しい。都心で老後を過ごすなら、持ち家があるか、家賃を払い続けられる資産があることが条件になる。また、都心の駅前は、オフィスと飲み屋が中心で、平日の昼間に一人で過ごす居場所が意外と少ない地域もある。
下町:居場所と便利さと家賃のバランス
おひとりさまの老後に、いちばんバランスがいいのが下町だ。
- 商店街:八百屋、肉屋、総菜屋。少量で買えて、店の人と顔なじみになれる
- 銭湯:東京の銭湯は大人600円。常連と天気の話をする、毎日の居場所になる
- 喫茶店と食堂:一人で入れる、昔ながらの店が多い
- 地域のつながり:町内会や祭りが残っていて、顔見知りができやすい
- 都心に近い:大きな病院や繁華街にも出やすい
家賃は都心より抑えやすく、古い建物なら手ごろな物件も見つかる。ただし、下町には川や低地が多く、地域によっては水害の危険がある。住む前に、自治体のハザードマップで、浸水の想定を必ず確かめろ。古い建物は、耐震性やエレベーターの有無も確かめる必要がある。
多摩の中核都市:都心より安く、自然もある
多摩地域の中核都市(駅前に商業施設と病院が集まる街)は、都心より住居費を抑えつつ、生活の便利さも保てる。駅前には大型のスーパー、病院、図書館がそろっていることが多い。公園や川沿いの散歩道など、自然が近いのも魅力だ。
注意すべきは、駅から離れた地域だ。多摩には、丘陵地に開発された住宅地が多く、坂がきつく、バス便に頼る地域もある。老後に住むなら、駅から歩ける平らな場所を選べ。
近県の中核都市:住居費を下げる
神奈川、埼玉、千葉の中核都市は、住居費を下げたいおひとりさまに向いている。都内より家賃が安く、駅前には商業施設と病院がそろっている。都内にも電車で出られる。
近県に移るときに気をつけるのは、都内の知り合いや居場所との距離だ。行きつけの店、趣味の仲間、友人。それらが遠くなると、人と会う回数が減る。移るなら、新しい街で居場所を作ることを意識しろ。
地方の中核都市:安いが、孤立に注意
老後に東京を離れ、地方の中核都市に移る選択もある。家賃や物価が安く、同じ年金でゆとりのある暮らしができる。県庁所在地クラスの都市なら、病院や商業施設もそろっている。
だが、知り合いがいない土地に移ると、孤立しやすい。地方は、車の暮らしが前提の地域も多い。冬の寒さも、体にこたえる。地方に移るなら、中心部の、歩いて暮らせる場所を選び、移る前に短期滞在で暮らしを試せ。ワーケーションや長期滞在で、その街の夏と冬を経験しておくといい。
おひとりさまにとって、居場所がある街がいちばんだ
7つの基準の中で、おひとりさまにとって特に大事なのが「居場所」だ。家族のいる高齢者は、家族との会話がある。おひとりさまは、家の外に居場所がなければ、一日誰とも話さないことになる。
- 喫茶店:毎朝通えば、店主と顔なじみになる
- 銭湯:毎日の楽しみと、常連との会話
- 図書館:無料で一日いられる
- 公園と川沿い:散歩の道があれば、毎日歩ける
- 公民館や地域の集まり:サークルや講座で、地域の仲間ができる
内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)では、孤独を「しばしば・常に」感じる人は、気軽に話せる相手がいない人で25.0%、いる人で2.5%だった。居場所のある街は、孤独を防ぐ街だ。街を選ぶときは、「この街で、毎日どこに行くか」を想像してみろ。
住居費は、年金から逆算しろ
老後の街選びで、最後に効いてくるのは住居費だ。総務省の家計調査(2024年)では、65歳以上の単身無職世帯の消費支出は月14万9,286円で、そのうち住居費は1万2,693円だった。この数字が小さいのは、持ち家の人が多いからだ。賃貸なら、この上に家賃がまるごと乗る。
- 年金の手取りから、住居以外の生活費を引く:残りが、年金で払える家賃の上限だ
- 足りない分は、資産の取り崩しで埋める:家賃と年金の差×老後の年数が、住まいのために必要な資産だ
- 家賃を1万円下げれば、25年で300万円:街を少し変えるだけで、老後資金の必要額が大きく変わる
都心と下町、多摩、近県で、同じ広さの部屋の家賃は大きく違う。便利さをどこまで求め、どこで住居費を下げるか。その判断が、老後の街選びの核心だ。病院と買い物と居場所がそろっていれば、駅の格を一つ下げても、暮らしの質はほとんど変わらない。
住む前に確かめること
- 平日と休日、昼と夜に歩く街の雰囲気は、時間で変わる。平日の昼間に、高齢者がどう過ごしているかを見る。
- 家から病院・スーパー・駅まで歩いてみる距離だけでなく、坂、歩道、信号の多さも。
- ハザードマップを見る浸水、土砂災害、地震の揺れやすさ。
- 自治体の高齢者向けサービスを調べる見守り、配食、緊急通報、地域包括支援センターの場所。
- 一人で入れる店を探す喫茶店、食堂、銭湯。実際に入ってみる。
- 家賃の相場を調べる年金と資産で、何年払えるか。
移るなら、60代前半までに
老後の街に移るなら、60代前半までが目安だ。年齢が上がるほど、賃貸を借りにくくなり、新しい街で人間関係を作るのも難しくなる。60代前半に移り、元気なうちに新しい街で居場所を作る。そうすれば、70代、80代になっても、その街で顔なじみに囲まれて暮らせる。
移ったら、最初の1年で、毎日の行き先を三つ作れ。朝の喫茶店、昼の散歩道、夕方の銭湯や図書館。同じ時間に同じ場所に通えば、半年もすれば顔を覚えられ、一言二言の会話が生まれる。新しい街に根を下ろすのに、特別なことは要らない。通い続けることが、街に受け入れられるいちばんの近道だ。そして、住所が決まったら、その地域の地域包括支援センターに一度顔を出しておけ。困ったときに相談できる窓口を、元気なうちに知っておくことも、新しい街での大事な準備だ。窓口の担当者に顔を覚えてもらえれば、いざというときの安心がまるで違う。
街を選び直す独身と、街に縛られる既婚
老後の街を選び直すおひとりさま
- 60代前半で、商店街と銭湯のある下町に移った
- 病院もスーパーも駅も、歩いて行ける
- 毎朝の喫茶店と夕方の銭湯が、居場所になった
- 車がなくても、80代まで暮らせる
子供の学区で選んだ街に残る既婚の男
- 子供が独立しても、郊外の坂の上の家に残る
- 駅までバス、スーパーまで車
- 車を手放したら、買い物にも行けない
- 近所に、一人で入れる店も居場所もない
家族のために選んだ街は、家族が去ったあとも、そのまま残る。おひとりさまは、人生の段階に合わせて、住む街を選び直せる。現役時代は通勤の便利な街、老後は歩いて暮らせて居場所のある街。その自由を、老後の街選びに生かせ。
俺は60代で、銭湯と商店街と喫茶店のある街に移る。病院もスーパーも歩いて行ける。お前の家は、駅からバスで20分の坂の上だろう? 車を手放したら、お前はどうやって買い物に行くんだ? 住む場所に困るのは、選び直せない方だ。
まとめ:歩いて暮らせて、居場所のある街を選べ
東京都の男性の50歳時未婚割合は32.15%で全国最高で、東京はおひとりさまの男が最も多く暮らす街だ。だが、現役時代に住みやすい街と、老後に住みやすい街は違う。老後の街選びは、病院・買い物・住居費・交通・居場所・坂と災害・行政サービスの7つの基準で考えろ。
都心は便利だが高く、下町は居場所と便利さと家賃のバランスがよく、多摩や近県は住居費を下げられ、地方都市は安いが孤立に注意が要る。決める前に、平日と休日、昼と夜に歩き、病院やスーパーまでの距離、ハザードマップ、自治体のサービス、一人で入れる店を確かめろ。移るなら60代前半までに。この記事の評価は一つの見方で、家賃や行政サービスは街ごとに違うので、自分の目で確かめてほしい。
歩いて暮らせて、居場所のある街で、老後を過ごせ。末代で何が悪い。
よくある質問
おひとりさまが老後に住みやすい街の条件は?
病院とスーパーに歩いて行けること、家賃や住居費が年金で払える範囲であること、駅やバスで移動できること、一人で入れる店や居場所があること、坂や階段が少ないこと、災害の危険が小さいこと、行政の高齢者向けサービスが整っていることだ。
東京の都心はおひとりさまの老後に向いている?
病院、交通、店がそろっていて便利だが、家賃が高い。年金だけで都心の家賃を払うのは難しいことが多い。持ち家がある人、資産に余裕がある人に向いている。
東京の下町はおひとりさまに向いている?
向いていることが多い。商店街や銭湯、喫茶店など、一人で立ち寄れる店が多く、地域のつながりも残っている。都心に近く、家賃も都心よりは抑えやすい。ただし地域によっては水害の危険があるので、ハザードマップを確かめるといい。
老後は東京を離れた方がいい?
家賃や生活費を下げたいなら、東京の郊外や近県、地方の中核都市に移るのも選択肢だ。ただし、知り合いのいない土地に移ると孤立しやすい。移る前に、短期滞在で暮らしを試すといい。
住む街を決めるとき、何を確かめればいい?
家から病院、スーパー、駅までの距離、坂の多さ、家賃の相場、ハザードマップ、自治体の高齢者向けサービス、地域包括支援センターの場所、一人で入れる店や居場所があるかだ。平日と休日、昼と夜の両方に歩いてみるといい。
出典・参考資料
- 国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(都道府県別50歳時未婚割合)
- 内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)」
- 国土交通省「ハザードマップポータルサイト」
- 街のタイプの評価は、編集部による一つの見方