独身の男が「老後」という言葉を聞くと、胸のどこかがざわつく。「一人で年を取って、どうなるんだろう」。病気になったら、介護が必要になったら、死んだら。誰が何をしてくれるのか。考えるほど、不安が膨らむ。
家族のいる男は、「家族がいるから大丈夫」と考える。だが、妻が先に亡くなれば一人になり、子供は遠くに住み、熟年離婚で家を出ることもある。家族がいたはずの男が、何の準備もないまま、一人で老後を迎える。準備をしていない「おひとりさま予備軍」は、既婚者の中にもたくさんいる。
おひとりさまの老後を安心に変えるのは、家族ではなく、準備だ。この記事では、おひとりさまの老後に必要な準備を、お金・住まい・健康・つながり・死後の5つに分け、それぞれで何をいつまでにやるかを、年代別のチェックリストとともに一冊にまとめた。各分野の詳しい記事への入口にもなっている。
この記事の結論
- 2050年には65歳以上男性の独居率は26.1%、男性の高齢単独世帯の約6割が未婚になると推計される
- おひとりさまの老後は、もう少数派の問題ではない
- 準備は5つ:お金・住まい・健康・つながり・死後
- 家族が担う部分を、仕組みと契約で自分で用意しろ
- 判断能力があるうちにしか結べない契約がある。元気なうちに始めろ
おひとりさまの高齢者は、これから急増する
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の世帯数の将来推計(全国推計)」(2024年推計)によると、65歳以上の人のうち一人で暮らす人の割合(独居率)は、こう変わると推計されている。
65歳以上の独居率の推計
Fig. 0165歳以上男性の独居率は、2020年の16.4%から、2050年には26.1%になる。高齢の男の4人に1人が、一人で暮らす時代が来る。特に男性で、一人暮らしが大きく増える。
高齢単独世帯に占める未婚者の割合の推計
Fig. 02そして、一人暮らしの高齢男性に占める未婚者の割合は、2020年の33.7%から、2050年には59.7%になる。推計は、これを「近親者のいない高齢単独世帯が急増する」とまとめている。配偶者も子もいない、おひとりさまの老後は、2050年には高齢の一人暮らし男性の多数派になる。
つまり、おひとりさまの老後は、もう例外ではない。社会の仕組みも、それに合わせて変わりつつある。身元保証、見守り、終活支援。家族の代わりになるサービスと制度は、年々増えている。それを知り、使いこなした男から、安心な老後を手に入れる。
おひとりさまの老後、5つの準備
| 準備 | 家族がいれば家族が担うこと | おひとりさまの備え方 |
|---|---|---|
| お金 | 夫婦の年金、子供の援助 | 老後資金と介護資金を、自分で積み立てる |
| 住まい | 家族と住む家、子供の家への同居 | 終の住まいを決め、借りられる部屋か持ち家を確保する |
| 健康 | 家族が異変に気づく、通院に付き添う | 健康診断、かかりつけ医、見守りサービス |
| つながり | 家族との会話 | 友人・地域・趣味の仲間・相談先 |
| 死後 | 家族が葬儀・片づけ・相続をする | 身元保証、任意後見、死後事務委任、遺言、お墓 |
おひとりさまの老後の準備は、家族が担う部分を、仕組みと契約で自分で用意することだ。それは、家族に頼るより手間がかかる。だが、家族の都合や関係に左右されない、自分で選んだ老後になる。
準備1:お金──老後資金と介護資金を分けろ
総務省の家計調査(2024年)では、65歳以上の単身無職世帯は、可処分所得が月12万1,469円、消費支出が月14万9,286円で、毎月約2万8千円の赤字だった。賃貸なら、これに家賃が上乗せされる。
- 老後の生活費の不足分:年金と生活費の差×老後の年数
- 介護資金:総額の目安は約540万円とされる。生活費とは別枠で
- 身元保証・死後事務の費用:家族の代わりに頼むサービスの費用
- 住まいの費用:賃貸なら家賃、持ち家なら修繕費
当サイトの老後資金のシミュレーションでは、65歳から95歳までの必要額の目安を、持ち家の会社員で約1,500万円、賃貸の会社員で約3,900万円(介護・身元保証などの予備費800万円程度を含む)と試算している。
準備2:住まい──終の住まいを、60代前半までに
おひとりさまの老後で、意外と大きな問題になるのが住まいだ。賃貸なら、高齢になると借りにくくなることがある。持ち家なら、修繕費や、一人には広すぎる問題がある。そして、介護が必要になったら、施設に移るのか、在宅で暮らすのか。
- 60代前半までに、終の住まいを決める:年齢が上がるほど、選択肢は狭くなる
- 病院、スーパー、駅に近い場所:車がなくても暮らせること
- 段差が少なく、エレベーターのある建物:体が弱っても住み続けられること
- 介護が必要になったときの移り先を考えておく:サービス付き高齢者向け住宅、有料老人ホーム、特養
準備3:健康──倒れない体と、気づいてもらう仕組み
おひとりさまの健康の備えは、倒れない体を作ることと、倒れたときに気づいてもらう仕組みを作ることの両方だ。
- 健康診断と、要再検査の受診:一人の男は、体の不調を我慢しがちだ
- かかりつけ医:自分の体の経過を知っている医者を持つ
- 筋力と社会参加:足腰の筋力と、人との交流が、介護を遅らせる
- 見守りサービス・安否確認アプリ:倒れても、何日も気づかれないことを防ぐ
内閣府の推計(報道による)では、2025年に自宅で亡くなった一人暮らしの人のうち、死後8日以上たって見つかった人は2万2,222人とされ、その約8割が男性だった。一人で亡くなることより、何日も気づかれないことを防げ。
準備4:つながり──家族の代わりになる人の輪
おひとりさまの老後を支えるのは、家族ではなく、ゆるいつながりだ。
- 友人:月に一度会う、連絡を取り合う。お互いの安否を気にかける
- 地域:近所の顔見知り、行きつけの店、町内会
- 趣味の仲間:サークル、教室、趣味の店の常連
- 親族:きょうだい、甥・姪。死後のことを頼む相手になることも
- 相談先:地域包括支援センター、社会福祉協議会、かかりつけ医
特に、住んでいる地域の地域包括支援センターの場所は、元気なうちに調べておけ。高齢者の介護、健康、生活の困りごとの相談窓口だ。困ってから探すのではなく、困る前に知っておく。
準備5:死後と、判断能力が落ちたとき
おひとりさまの老後で、家族がいる人といちばん違うのがここだ。家族がいれば、入院の保証人、判断能力が落ちたときの財産管理、葬儀、部屋の片づけ、相続の手続きを、家族がしてくれる。おひとりさまは、それを契約で用意する。
| 場面 | 備え |
|---|---|
| 入院・施設入居の保証人 | 親族に頼む、身元保証サービスを使う |
| 判断能力が落ちたとき | 任意後見契約、財産管理の委任契約 |
| 亡くなったあとの手続き | 死後事務委任契約(葬儀、片づけ、役所の手続き) |
| 財産の行き先 | 遺言(公正証書遺言、または法務局の保管制度) |
| お墓・供養 | 永代供養墓、樹木葬、散骨など |
| 希望を伝える | エンディングノート |
この中で最も大事なのは、任意後見契約だ。認知症などで判断能力が落ちると、自分で契約を結ぶことも、財産を管理することもできなくなる。そうなる前に、信頼できる人を選んで、任せる契約を結んでおく。判断能力が落ちてからでは、結べない。
年代別のチェックリスト
| 年代 | お金 | 住まい・健康 | つながり・死後 |
|---|---|---|---|
| 40代 | 新NISA・iDeCoで積立を本格化。生活防衛資金 | 住まいの方針(買うか借りるか)。健康診断の習慣 | 仕事以外のつながりを作る。緊急連絡先を財布に |
| 50代 | 老後の目標額を数字で出す。介護資金を別枠に | 終の住まいの候補を決める。かかりつけ医 | 親の介護の段取り。財産と契約の一覧を作る |
| 60代前半 | 取り崩しの計画。年金の受け取り方を決める | 終の住まいに移る。見守りサービスを始める | 任意後見・死後事務・遺言の検討と契約 |
| 60代後半〜 | 取り崩しを毎年見直す | 地域包括支援センターとつながる | エンディングノートを更新。お墓・供養を決める |
このチェックリストを、年に一度、誕生日に見直せ。できたことに印をつけ、次にやることを一つ決める。一度に全部やる必要はない。毎年一つずつ進めれば、60代の半ばには、ほとんどの準備が整っている。
家族の代わりになる、サービスと制度
おひとりさまが増えるにつれて、家族の代わりになるサービスと制度も増えている。
- 身元保証サービス:入院や施設入居のときの保証人の役割を担う民間のサービス
- 見守りサービス:安否確認アプリ、電気・ガスの使用量での見守り、訪問や電話
- 成年後見制度:任意後見と法定後見。判断能力が落ちたときの財産管理と契約
- 死後事務委任契約:弁護士、司法書士、専門の事業者などに、死後の手続きを頼む
- 自治体の終活支援:エンディングノートの配布、終活の相談、一部の自治体では死後の手続きの支援
- 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業:判断能力に不安がある人の、福祉サービスの利用や日常のお金の管理を手伝う
民間のサービスは、費用と内容が事業者ごとに大きく違い、トラブルの相談も寄せられている。契約する前に、内容、費用、預けるお金の管理方法、解約のときの扱いを必ず確かめろ。自治体の窓口や、消費生活センターに相談することもできる。
準備は、老後を楽しむためにある
ここまで、準備の話ばかりしてきた。だが、準備は、不安を消すためだけのものではない。準備が整えば、老後を思いきり楽しめる。
金の計画があれば、旅に出られる。住まいが決まっていれば、町に根を下ろせる。健康なら、趣味を続けられる。つながりがあれば、笑って過ごせる。死後の準備ができていれば、「その日」のことを考えずに、今日を生きられる。おひとりさまの老後は、家族の世話も、孫の守りも、家族の介護もない。全部の時間が、自分のものだ。準備は、その時間を楽しむための土台だ。
準備するおひとりさまと、準備しない既婚者
準備するおひとりさまの男
- 老後資金と介護資金を、別枠で数字にしている
- 60代前半で終の住まいに移った
- 見守り、任意後見、死後事務、遺言を整えた
- 準備ができたから、老後の時間を全部楽しめる
「家族がいるから」と準備しない既婚の男
- 老後資金は「なんとかなる」
- 妻が先に亡くなり、初めて一人暮らしになる
- 子供は遠くに住み、もしものときの手続きは丸投げ
- 何の準備もないまま、おひとりさまの老後を迎える
2050年には、男性の高齢単独世帯の約6割が未婚になると推計されている。だが、残りの約4割は、配偶者と死別したり離婚したりした男だ。家族がいても、最後は一人になることがある。おひとりさまの老後の準備は、独身の男だけでなく、すべての男に必要な準備だ。独身の男は、それに最初から気づいている。
悲惨になるのは、準備をしない老後だ。俺は金も住まいも見守りも、後見も死後の手続きも、自分で整えている。お前は「家族がいるから」と何もしていないだろう。妻が先に逝ったら、お前は何の準備もないおひとりさまだ。悲惨かどうかを決めるのは、肩書きじゃない。準備だ。
まとめ:家族の代わりに、準備を持て
65歳以上の男性の独居率は2020年の16.4%から2050年には26.1%に上がり、男性の高齢単独世帯に占める未婚者は33.7%から59.7%になると推計されている。おひとりさまの老後は、もう例外ではない。そして、家族の代わりになるサービスと制度は、年々増えている。
準備は5つ。お金(老後資金と介護資金を別枠で)、住まい(60代前半までに終の住まい)、健康(倒れない体と見守り)、つながり(友人・地域・相談先)、死後(身元保証、任意後見、死後事務、遺言、お墓)。年代別のチェックリストを年に一度見直し、毎年一つずつ進めろ。判断能力が落ちてからでは結べない契約がある。元気なうちに始めろ。民間のサービスは内容と費用が事業者ごとに違うので、契約の前に必ず確認してほしい。
家族の代わりに、準備を持て。準備ができたら、老後の時間を全部楽しめ。末代で何が悪い。
よくある質問
おひとりさまの老後で必要な準備は?
お金(老後資金と介護資金)、住まい(終の住まいと借りられる部屋)、健康(介護を遅らせる体づくりと見守り)、つながり(友人・地域・相談先)、死後(身元保証、任意後見、死後事務、遺言、お墓)の5つだ。家族がいれば家族が担う部分を、自分で仕組みとして用意する必要がある。
おひとりさまの高齢者はどれくらい増える?
国立社会保障・人口問題研究所の推計(2024年)では、65歳以上男性の独居率は2020年の16.4%から2050年には26.1%に、女性は23.6%から29.3%になる。男性の高齢単独世帯に占める未婚者の割合は、33.7%から59.7%に上がる。
老後の準備は何歳から始めればいい?
早いほど楽だ。お金は40代から積立を本格化し、50代で住まいと働き方を決め、60代で見守りと後見・死後の契約を整えるのが一つの目安だ。判断能力が落ちてからでは結べない契約もあるので、元気なうちに始めるべきだ。
おひとりさまの老後資金はいくら必要?
住まいと年金で大きく変わる。当サイトのシミュレーションでは、65歳から95歳までの必要額の目安を、持ち家の会社員で約1,500万円、賃貸の会社員で約3,900万円(介護・身元保証などの予備費を含む)としている。
家族に頼れない老後で困ることは?
入院や施設入居のときの身元保証人、判断能力が落ちたときの財産管理、亡くなったあとの葬儀や部屋の片づけ、役所の手続きだ。身元保証サービス、任意後見契約、死後事務委任契約、遺言などで、元気なうちに用意しておく。
出典・参考資料
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6年推計」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年」
- 内閣府 孤独・孤立対策推進室「令和7年の孤立死者数の推計について」(報道による)
- 法務省「成年後見制度・任意後見制度」、各自治体の地域包括支援センター・終活支援の案内