40代で買ったマンション。ローンも払い終え、自分好みに整えた部屋。だが、ふと考える。「俺が死んだら、この家はどうなるんだ」。妻も子もいない。親は先に逝くだろう。きょうだいとは疎遠だ。この家は、誰のものになり、誰が片づけるのか。
家族のいる男は、「家は子供が継ぐ」と考える。だが、子供は都会で家を買い、実家に戻る気はない。親が亡くなったあと、誰も住まない家が残り、固定資産税と草むしりと売れない悩みだけが、子供に引き継がれる。家を残すことが、家族の重荷になることは珍しくない。
この記事では、おひとりさまの持ち家が、死後にどうなるかを、相続の順番、相続人がいない場合、空き家の問題、相続登記の義務化から整理する。そして、家を放置させず、誰にも負担を残さないために、元気なうちにやるべき5つの選択をまとめた。
この記事の結論
- 遺言がなければ、家は親→きょうだい→甥・姪の順に相続される
- 相続人がいなければ、相続財産清算人の手続きを経て、最終的に国庫に入ることがある
- 全国の空き家は900万戸。使う予定のない空き家は385万戸ある
- 2024年4月から相続登記が義務。相続人に手続きの負担がかかる
- 遺言、生前売却、リースバックなど、元気なうちに家の行き先を決めろ
家は、誰のものになるのか
おひとりさまが亡くなると、遺言がなければ、家は法定相続人が相続する。配偶者も子もいない場合、法定相続人は次の順番で決まる。
- 親(直系尊属)親が健在なら、親が相続する。
- きょうだい親がすでに亡くなっていれば、きょうだいが相続する。複数いれば、共有になるか、話し合いで分ける。
- 甥・姪きょうだいが先に亡くなっていれば、その子(甥・姪)が代わりに相続する(代襲相続)。甥・姪の子までは代襲しない。
- 相続人がいない法定相続人がいなければ、家庭裁判所の手続きを経て、最終的に国庫に入ることがある。
多くのおひとりさまの場合、家はきょうだいか甥・姪に行く。そして、その人たちは、すでに自分の家を持っていることが多い。相続した家に住む人はおらず、売るか、貸すか、空き家のまま置いておくかを決めなければならない。きょうだいが複数いれば、話し合いがまとまらず、家が放置されることもある。
相続人がいない場合、家はどうなるか
法定相続人が一人もいない、または全員が相続を放棄した場合、家は次の流れをたどる。
- 相続財産清算人が選ばれる:利害関係人(債権者など)や検察官の申し立てで、家庭裁判所が選ぶ
- 債務の支払い:借金や未払いの費用などがあれば、財産から支払われる
- 特別縁故者への分与:生前に療養看護をしていた人など、特別な関係があった人が申し立てれば、財産の一部または全部が分与されることがある
- 残りは国庫へ:最終的に残った財産は、国のものになる
この手続きには、時間がかかる。そして、申し立てる人がいなければ、手続きそのものが始まらない。その間、家は空き家のまま残る。部屋の荷物も、片づけられないまま残る。自分が大事にしてきた家が、誰にも顧みられずに朽ちていく。それを避けたいなら、遺言で行き先を決めておくしかない。
空き家は、900万戸に達した
総務省の住宅・土地統計調査(2023年)によると、全国の空き家は900万戸で、住宅全体の13.8%だった。過去最多だ。そのうち、賃貸用や売却用、別荘などではない、使う予定のない空き家は385万戸ある。
全国の空き家の数
Fig. 01使う予定のない空き家の多くは、持ち主が亡くなったあと、相続した人が住まずに放置している家だと考えられる。おひとりさまの持ち家は、相続人が遠くに住んでいることが多いので、この空き家の予備軍になりやすい。
空き家を放置すると、建物が傷み、近隣に迷惑をかける。倒壊の危険がある、衛生上有害、景観を損なうなどの「特定空家」に指定されると、固定資産税の軽減がなくなることもある。2023年の法改正で、その手前の「管理不全空家」も対象に加わった。相続した人に、税金と管理の負担が重くのしかかる。
2024年4月から、相続登記が義務になった
2024年4月1日から、相続登記の申請が義務になった。相続で不動産を取得した人は、相続を知った日から3年以内に、法務局に相続登記を申請しなければならない。正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の対象になる。義務化の前に相続した不動産も対象だ。
これは、相続した人にとって手間と費用がかかる。相続人全員の戸籍を集め、遺産分割の話し合いをし、登記を申請する。おひとりさまの家をきょうだいや甥・姪が相続すれば、彼らがこの手続きをすることになる。相続人が多いほど、戸籍集めも話し合いも大変になる。
遺言で家を誰に残すかを決めておけば、遺産分割の話し合いが不要になり、相続人の負担は大きく減る。おひとりさまが家を持つなら、遺言は、相続人への最大の思いやりだ。
相続した土地を国に引き取ってもらう制度
2023年4月には、相続土地国庫帰属制度も始まった。相続した土地を、一定の要件を満たせば、国に引き取ってもらえる制度だ。
- 建物がある土地は対象外:家を解体して、更地にする必要がある
- 費用がかかる:審査手数料と、10年分の管理費相当の負担金(原則20万円)
- 要件がある:境界がはっきりしている、土壌汚染がない、担保が設定されていないなど
- 相続人が使う制度:生前の本人は使えない
一戸建てを相続した人がこの制度を使うには、家の解体費用と負担金がかかる。おひとりさまが一戸建てを持っているなら、相続人にこの負担を残すかどうかを考えておけ。マンションは、この制度の対象にならない。
元気なうちにやるべき5つの選択
| 選択 | 中身 | 向いている男 |
|---|---|---|
| 1. 遺言で行き先を決める | 家を誰に残すか、売って現金で分けるかを遺言で指定する | 家を残したい相手がいる男 |
| 2. 生前に売却して住み替える | 元気なうちに家を売り、老後に暮らしやすい賃貸や施設に移る | 家が広すぎる、立地が不便な男 |
| 3. リースバック | 家を売って、その家に賃料を払って住み続ける | 住み慣れた家を離れたくない男 |
| 4. リバースモーゲージ | 家を担保に資金を借り、亡くなったあと家で返す | 老後の資金が足りない男 |
| 5. 遺贈寄付 | 遺言で、家や売却代金を団体や自治体に寄付する | 応援したい活動がある男 |
1. 遺言で、家の行き先を決める
いちばん基本の選択は、遺言だ。遺言があれば、家を相続人でない人(世話になった友人、甥・姪、団体)にも残せる。遺言がなければ、法定相続人の話し合いで決まるか、相続人がいなければ国庫に入る。
- 公正証書遺言:公証人が作る。形式の不備で無効になりにくく、原本が公証役場に保管される
- 自筆証書遺言の法務局保管制度:自分で書いた遺言を法務局に預ける。家庭裁判所の検認が不要になる
- 遺言執行者を指定する:遺言の内容を実行する人を決めておく。家の売却や登記の手続きをしてもらう
- 「売って現金で渡す」も選べる:家そのものではなく、売却代金を分ける遺言(清算型遺贈)もある
家をもらっても困る相続人は多い。「家は売って、その代金を〇〇に」という遺言にすれば、受け取る人は家の管理に悩まずに済む。遺言執行者を、弁護士や司法書士にしておけば、売却まで進めてもらえる。
2. 生前に売却して、住み替える
おひとりさまの持ち家は、老後に暮らしにくくなることがある。一人には広すぎる一戸建て、階段の多い家、駅から遠い家。元気なうちに売って、老後に暮らしやすい住まいに移るのは、合理的な選択だ。
- 売るなら、早い方が有利:建物は年々古くなり、価値が下がる。自分で売る手続きができるうちに
- 売却代金を、老後の住まいと介護の資金に:サ高住や有料老人ホームの入居資金になる
- 死後に家が残らない:相続人に、空き家と相続登記の負担を残さない
家を売れば、死後の家の問題がなくなる。そして、手元に現金が残る。おひとりさまにとって、家より現金の方が、老後の介護にも、死後の手続きにも使いやすい。
3・4. リースバックとリバースモーゲージ
住み慣れた家を離れたくないなら、家に住み続けながら、家を現金に変える方法もある。
| リースバック | リバースモーゲージ | |
|---|---|---|
| 仕組み | 家を事業者に売り、賃料を払って住み続ける | 家を担保に資金を借り、亡くなったら家を売って返す |
| 家の持ち主 | 事業者に移る | 本人のまま |
| 注意点 | 売却価格が相場より低いことがある。賃料が続く。契約期間の確認 | 対象の物件や地域が限られる。金利の上昇、担保価値の下落 |
どちらも、条件とリスクが事業者ごとに大きく違い、トラブルの相談も寄せられている。契約する前に、複数の事業者を比べ、売却価格や賃料、契約期間、解約の条件を必ず確かめろ。家族の同意が求められないおひとりさまだからこそ、一人で決めずに、専門家や消費生活センターに相談してから決めろ。
5. 遺贈寄付:家を社会に残す
家を残したい親族がいない、または親族には財産を残す必要がない。そういうおひとりさまは、遺言で家や売却代金を、団体や自治体に寄付する(遺贈寄付)こともできる。
ただし、不動産のままの寄付は、受け付けない団体が多い。管理や売却の手間がかかるからだ。遺贈寄付をするなら、「家を売って、その代金を寄付する」形にするのが現実的だ。寄付先の団体に、事前に受け入れの条件を確かめておけ。
今やること:家の情報を整理しろ
- 自分の法定相続人を確かめる親、きょうだい、甥・姪。誰が相続人になるか。
- 家の書類をまとめる登記の情報、購入時の契約書、ローンの完済証明、固定資産税の通知。
- 家の行き先を決める誰かに残すか、売って現金にするか、生前に売るか。
- 遺言を作る公正証書遺言か、法務局の保管制度。遺言執行者も指定する。
- 鍵と書類の場所を伝える遺言執行者や死後事務を頼む人に、家の鍵と書類の場所を伝えておく。
特に5番目は大事だ。おひとりさまが亡くなったとき、家に入れる人がいないと、片づけも売却も始められない。鍵を誰が持っているか、書類がどこにあるかを、信頼できる人に伝えておけ。エンディングノートにも書いておけ。
家の行き先を決める独身と、家を残すだけの既婚
家の行き先を決めるおひとりさま
- 遺言で、家を売って代金を甥に渡すと決めた
- 遺言執行者に、売却と登記を任せてある
- 鍵と書類の場所を、信頼できる人に伝えた
- 死後、誰にも空き家の負担を残さない
「家は子供が継ぐ」と考える既婚の男
- 子供は都会に家を買い、実家に戻る気はない
- 遺言はなく、子供同士で話し合いがまとまらない
- 誰も住まない実家に、固定資産税と草むしり
- 相続登記の手間と、売れない家の悩みを子供に残す
家を残すことは、必ずしも相続人のためにならない。使わない家は、相続人にとって負担になる。おひとりさまは、家の行き先を自分で決め、誰にも負担を残さないことができる。それが、家を持つおひとりさまの最後の責任だ。
継ぐ人がいなくても、行き先は決めてある。遺言で売却して、代金は世話になった甥に渡す。お前の家は、子供が継ぐのか? 都会に住む子供が、田舎の実家に戻ってくるのか? 継ぐ人がいるかどうかより、家の始末を決めているかどうかの方が大事だ。
まとめ:家の行き先は、元気なうちに決めろ
おひとりさまの持ち家は、遺言がなければ、親→きょうだい→甥・姪の順に相続される。相続人がいなければ、相続財産清算人の手続きを経て、最終的に国庫に入ることがあり、その間、家は空き家のまま残る。全国の空き家は900万戸、使う予定のない空き家は385万戸ある(2023年)。2024年4月からは相続登記が義務になり、相続人に手続きの負担がかかる。
元気なうちに、家の行き先を決めろ。遺言で残す相手や売却を指定し、遺言執行者を決める。家が老後に暮らしにくいなら、生前に売って住み替える。住み続けたいなら、リースバックやリバースモーゲージも選択肢だが、条件とリスクを必ず確かめろ。鍵と書類の場所は、信頼できる人に伝えておけ。相続や登記の制度、空き家の扱いは個別の状況で変わるので、司法書士や弁護士などの専門家に確認してほしい。
家を残すのではなく、家を始末する。それが、家を持つおひとりさまの責任だ。末代で何が悪い。
よくある質問
独身者が亡くなったら、持ち家は誰のものになる?
遺言がなければ、法定相続人が相続する。配偶者も子もいない場合、親が健在なら親、親がすでに亡くなっていればきょうだい、きょうだいが亡くなっていればその子(甥・姪)が相続人になる。遺言があれば、遺言で指定した人や団体に引き継がれる。
相続人がいない場合、家はどうなる?
家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が、債務の支払いや、特別縁故者(生前に特別な関係があった人)への分与の手続きを進め、残った財産は最終的に国庫に帰属する。手続きには時間がかかり、その間、家は空き家のまま残ることが多い。
相続登記の義務化とは?
2024年4月1日から、相続で不動産を取得した人は、相続を知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務になった。正当な理由なく申請しないと、10万円以下の過料の対象になる。義務化の前に相続した不動産も対象だ。
おひとりさまが持ち家についてやっておくべきことは?
遺言で家の行き先を決める、生前に売却して住み替える、リースバックやリバースモーゲージを検討する、家の書類と鍵の場所を伝えておく、死後の片づけを頼む先を決めておく、などだ。
いらない土地を国に引き取ってもらえる?
2023年4月に始まった相続土地国庫帰属制度で、相続した土地を、一定の要件を満たせば国に引き取ってもらえる。ただし建物がある土地は対象外で、審査手数料と負担金(原則20万円)がかかる。相続人が使う制度なので、生前の本人は使えない。
出典・参考資料
- 総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査」(空き家数、空き家率)
- 法務省「相続登記の申請義務化」「相続土地国庫帰属制度」「自筆証書遺言書保管制度」
- 裁判所「相続財産清算人の選任」「特別縁故者に対する相続財産分与」
- 国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」