夜の東京湾に、提灯をともした船が浮かんでいる。座敷では揚げたての天ぷらが運ばれ、冷えたビールが注がれる。船がレインボーブリッジの下に近づくと、屋根の上のデッキに出る。目の前に、光る橋とお台場の夜景。屋形船は、東京でいちばん贅沢な夜の過ごし方の一つだ。
だが、屋形船は団体で貸し切るものだと思われている。会社の忘年会、取引先の接待、町内会の納涼会。一人の男には縁がない。そう思っている男が多い。家族持ちの男なら、屋形船は会社の宴会で上司にお酌をして回り、夜景を見る暇もなく終わる場所だ。
実は、屋形船には知らない客同士が同じ船に乗る「乗合船」がある。乗合船なら、一人でも乗れる。この記事では、屋形船に一人で乗るための船の探し方、料金の目安、船の上での過ごし方、季節の選び方までまとめた。料金や出船の日は変わるので、予約の前に必ず確認してほしい。
この記事の結論
- 屋形船は貸切だけではない。乗合船なら一人でも乗れる
- 1名から予約できる船と、2名からの船がある。人数の条件を必ず確認しろ
- 料金は料理と飲み放題込みで1人1万円台前半が目安
- 船の上では、料理を味わい、景色のいい場所でデッキに出ればいい
- 花火の日は高くて取りにくい。花火を外した夏の平日や秋が狙い目
屋形船とは何か
屋形船は、屋根のついた座敷の船で、川や海を遊覧しながら食事をする。江戸時代には、大名や商人が隅田川で舟遊びを楽しんだ。1733年(享保18年)に始まったとされる両国の川開きの花火は、今の隅田川花火大会の起源と言われ、屋形船や屋根船から花火を眺めるのが、江戸の夏の贅沢だった。
今の東京の屋形船は、品川、浅草、両国、お台場周辺などの船宿から出る。多くは、隅田川を下って東京湾に出て、お台場やレインボーブリッジのあたりで停泊し、夜景を見ながら食事をするコースだ。船内は座敷で、天ぷらや刺身などの料理と、飲み物が出る。
そして、屋形船の多くには屋根の上に出られるデッキがある。船が停泊しているあいだ、デッキに上がって夜景を眺められる。座敷で飲み食いし、デッキで夜風に当たる。この繰り返しが、屋形船の楽しみ方だ。
乗合船なら、一人でも乗れる
屋形船の乗り方には、貸切と乗合の2種類がある。
| 比べること | 貸切船 | 乗合船 |
|---|---|---|
| 乗る人 | 自分たちのグループだけ | 知らない客同士が同じ船に乗る |
| 人数 | 十数人以上の団体向けが多い | 1名から、または2名からの船がある |
| 出船の日 | 予約した日に出る | 船宿が決めた日だけ出る |
| 料金 | 1人あたりの料金×人数(最低人数あり) | 1人あたりの料金 |
| 一人で乗れるか | 実質的に無理 | 1名から予約できる船なら乗れる |
一人で乗るなら、乗合船だ。乗合船は、船宿が決めた日に出る船に、個人やカップル、小さなグループが集まって乗る。船の中は、グループごとに席が分かれていることが多く、一人なら一人分の席が用意される。
注意したいのは、乗合船でも「2名から」の船があることだ。予約サイトや船宿のサイトで、「1名から予約可」「お一人様OK」となっている船を選べ。わからなければ、電話で「一人ですが乗れますか」と聞けばいい。
体験の予約サイトで「乗合屋形船」を探し、人数を1名にして検索すると、一人で予約できる船だけが出てくる。出発地(品川、浅草、両国など)と日程を見比べて、行きやすい船を選べばいい。乗合船は1か月ほど前から受付が始まり、人気の日は早く埋まる。
出発地で選ぶ:品川か、浅草・両国か
乗合屋形船は、どこから乗るかでコースの景色が変わる。東京の屋形船の船宿は、大きく分けて品川の周辺と、隅田川沿いの浅草・蔵前・両国の周辺に多い。
品川の周辺から出る船は、運河を抜けてすぐに東京湾に出る。お台場やレインボーブリッジのあたりで停泊する時間が長く、海の上から湾岸の夜景をたっぷり見られる。北品川には、旧東海道の品川宿の面影が残る町並みもあり、乗る前に散歩するのにちょうどいい。
浅草・蔵前・両国の周辺から出る船は、隅田川を下りながら、いくつもの橋をくぐって東京湾へ向かう。ライトアップされた橋と、川沿いの街の灯り、振り返ればスカイツリー。川の景色と海の景色を両方楽しめる。一人で何度も乗るなら、出発地を変えてみるのもいい。同じ東京湾でも、たどる道が違えば見える景色が変わる。家から行きやすい出発地を選ぶのが基本だが、帰りの電車の便も考えておけ。
料金の目安
乗合屋形船の料金は、料理と飲み放題込みで1人1万円台前半が目安だ。予約サイトの掲載例を見ると、北品川発や蔵前発のお台場周遊のコースで、大人1人1万円台前半の料金が並んでいる。
乗合屋形船の料金の掲載例(大人1人、料理・飲み放題込み)
Fig. 011万円台と聞くと高く感じるかもしれない。だが、2時間半の遊覧と、コース料理と、飲み放題がすべて込みだ。夜景の見える店でコース料理と酒を頼めば、一人でも1万円を超えることは珍しくない。それが、東京湾の上で、動く夜景を見ながら味わえる。
船の上の料理:揚げたての天ぷら
屋形船の料理の定番は、天ぷらだ。船の中で揚げた天ぷらが、揚げたてのまま運ばれてくる。江戸前の天ぷらを、船の上で食べる。屋形船ならではの贅沢だ。
- 刺身:最初に出てくることが多い。ビールと一緒に
- 天ぷら:エビ、キス、野菜などを、揚げたてで何回かに分けて運んでくる
- 寿司や小鉢:コースによって、寿司や季節の小鉢がつく
- 締めのご飯や汁物:天茶漬けや味噌汁など
一人の利点は、料理を誰とも分けなくていいことだ。大皿の料理を取り分ける気づかいもいらない。自分の前に出された料理を、揚げたてのうちに、自分のペースで食べればいい。
船の上での過ごし方
乗合屋形船は、約2時間半のコースが多い。一人の時間の使い方の目安を示す。
乗合屋形船2時間半の過ごし方(目安)
Fig. 02- 乗船したら、まず一杯席に案内されたら、最初のビールが出てくる。船が出るまでの時間を、川の景色を眺めながら過ごす。
- 料理を楽しむ船が隅田川を下るあいだ、刺身と天ぷらを食べる。揚げたてが次々と運ばれてくる。
- 停泊したら、デッキへお台場やレインボーブリッジの近くで船が停まったら、屋根の上のデッキに上がる。夜景を一人でじっくり眺める。
- 座敷に戻って、もう一杯デッキで夜風に当たったら、座敷に戻って締めの料理と酒。
- 帰りの景色を楽しむ帰りの航行も、窓から夜景が見える。最後まで景色を楽しむ。
いちばん大事なのは、デッキに出る時間だ。グループの客は、座敷で話し込んで、デッキに出るのが遅れがちだ。一人なら、船が停まった瞬間にデッキに上がれる。いちばんいい場所を、いちばん長く使えるのは、一人の客だ。
一人で乗る気まずさは、ほとんどない
乗合船に一人で乗ると、周りはグループやカップルばかりで、気まずいのではないか。そう心配する男は多い。だが、実際にはそれほど気まずくない。
- 席はグループごとに分かれている:知らない人と向かい合わせになることは少ない
- みんな料理と景色に夢中:一人の客を気にしている人はいない
- デッキに出れば、全員が夜景を見ている:一人かどうかは関係なくなる
- 船宿の人が気を配ってくれる:一人客にも、料理や飲み物を運んでくれる
話しかけられたら、軽く応じればいい。乗合船では、隣のグループから声をかけられることもある。だが、無理に話す必要はない。一人で来たのは、料理と景色を楽しむためだ。それを堂々と楽しめばいい。
季節の選び方
| 季節 | 楽しみ | 一人で乗るなら |
|---|---|---|
| 春 | 隅田川沿いの桜を、川から眺める | 桜の時期は人気。平日を狙う |
| 夏 | 夕涼みと夜景。花火大会の日は特別 | 花火の日は料金が高く、すぐ埋まる。花火を外した平日に |
| 秋 | 涼しい夜風と、澄んできた夜景 | いちばん快適。一人で落ち着いて乗れる |
| 冬 | 空気が澄んで、夜景が最もきれい | 船内は暖かい。デッキは寒いので上着を |
屋形船といえば夏の花火だが、花火大会の日は特別料金になり、予約は早くに埋まる。一人で落ち着いて乗るなら、秋がいちばんいい。暑すぎず、夜風が気持ちよく、夜景も澄んでくる。冬の屋形船は、船内の暖かい座敷と、デッキの冷たい空気の対比が楽しい。
飲み放題でも、飲みすぎるな
乗合屋形船の多くは飲み放題だ。ビール、日本酒、焼酎、ソフトドリンクが、時間内なら好きなだけ飲める。一人だと、止める人がいない。そして、船の上で飲みすぎると、つらいことになる。
- 船の揺れで酔いが回る:酒の酔いと船酔いが重なると、気分が悪くなりやすい
- デッキは危ない:酔ってデッキに上がると、足元がふらつく。手すりにつかまれ
- トイレが限られる:船のトイレは一つか二つ。混むこともある
- 水を一緒に飲む:酒と同じくらい、水やお茶を飲め
元を取ろうとして飲みすぎるのは、いちばん損な飲み方だ。屋形船で味わうべきは、酒の量ではなく、料理と夜景と夜風だ。
乗る前の準備
- 出船時間に遅れない:船は時間どおりに出る。遅れると乗れないことがある。船宿には早めに着け
- 脱ぎやすい靴で:屋形船の座敷は、靴を脱いで上がることが多い
- 上着を一枚:夏でもデッキは風が強い。冬は防寒をしっかり
- 船酔いの対策:心配なら、乗る前に酔い止めを飲む。東京湾の中は比較的穏やかだが、風の強い日は揺れる
- 天気を確認する:強風や悪天候の日は欠航することがある。船宿からの連絡を確認しろ
屋形船以外にも、一人で乗れる船はある
屋形船のほかにも、東京には一人で乗れる船がたくさんある。
| 船 | 特徴 |
|---|---|
| 水上バス(隅田川) | 浅草からお台場方面へ。乗船券だけで気軽に乗れる |
| レストラン船・夜景クルーズ | 大型船で、ディナーやバーを楽しみながら東京湾を回る |
| 水上バスの夜のクルーズ | 夜景を見るための短いクルーズ。料金も手頃 |
| 東京湾の離島への船 | 竹芝から伊豆諸島へ。一人旅の入り口 |
屋形船は、和の座敷と、江戸前の料理が魅力だ。もう少し手軽に船に乗りたいなら、水上バスや夜景クルーズから始めてもいい。
屋形船の夜、モデルプラン
- 17:00 船宿の近くを散歩北品川なら、旧東海道の品川宿の町並みを歩く。浅草なら、浅草寺を参拝する。
- 18:00 船宿で受付出船の30分前には着いて、受付を済ませる。
- 18:30 出船最初のビールと刺身。船が川を下っていく。
- 19:30 停泊、デッキへレインボーブリッジとお台場の夜景を、デッキで一人で眺める。
- 20:30 帰港締めの料理を食べて、帰りの夜景を窓から眺める。
- 21:00 下船夜風に当たりながら駅まで歩く。まだ飲み足りなければ、近くの店で一杯。
一人の屋形船と、会社の宴会の屋形船
一人の屋形船
- 揚げたての天ぷらを、揚げたてのうちに食べる
- 船が停まった瞬間に、デッキへ上がる
- 夜景を、誰にも邪魔されずに眺める
- 帰りは夜風に当たりながら、のんびり駅まで
会社の宴会の屋形船
- 上司と取引先にお酌をして回る
- 天ぷらは冷めてから食べる
- 夜景の時間も、宴会の司会と余興
- 帰りは二次会に連行される
屋形船を「仕事の宴会の場所」としてしか知らない男は多い。だが、同じ屋形船でも、一人で乗れば、料理と景色を楽しむための船になる。宴会で夜景を見られなかった男ほど、一人で乗ってみる価値がある。
お前が屋形船に乗ったのは、会社の忘年会だけだろう。上司のグラスが空かないか見張り、天ぷらは冷めてから食べ、デッキに出たのは煙草を吸う上司のお供だった。俺は一人で乗合船に乗って、揚げたての天ぷらと夜景を、2時間半まるごと自分のために使った。同じ船でも、乗った意味がまるで違う。
まとめ:乗合船で、東京湾の夜を一人で味わえ
屋形船は貸切だけではない。知らない客同士が同じ船に乗る乗合船なら、一人でも乗れる。1名から予約できる船と2名からの船があるので、人数の条件を必ず確認しろ。料金は料理と飲み放題込みで1人1万円台前半が目安で、約2時間半の遊覧とコース料理がついている。
揚げたての天ぷらを味わい、船が停まったらデッキに上がって夜景を眺める。飲み放題でも飲みすぎない。花火の日は高くて取りにくいので、花火を外した夏の平日や秋が狙い目だ。料金や出船の日、人数の条件は変わるので、予約の前に必ず確認してほしい。
宴会の船ではなく、自分のための船に、一人で乗れ。末代で何が悪い。
よくある質問
屋形船に一人で乗ることはできる?
乗合船(相乗りの船)なら乗れる。屋形船の多くは団体の貸切だが、船宿によっては、知らない客同士が同じ船に乗る乗合船を出している。1名から予約できる乗合船もあるが、2名からの船もあるので、予約サイトや船宿に人数の条件を確認してほしい。
乗合屋形船の料金はいくら?
料理と飲み放題込みで、1人1万円台前半が目安だ。予約サイトの掲載例では、北品川発や蔵前発のお台場周遊の乗合船で、大人1人1万円台前半の料金が見られる。料理の内容や季節、船宿によって違うので、予約前に確認してほしい。
一人で乗合船に乗ると気まずくない?
それほど気まずくない。乗合船は、席がグループごとに分かれていることが多く、一人なら一人分の席が用意される。料理と酒を楽しみ、景色のいい場所に来たら屋根の上のデッキに出て夜景を眺めればいい。周りのグループに無理に話しかける必要はない。
屋形船のいちばんいい季節は?
夏の夜がいちばん人気だ。隅田川の花火大会の日は特別な料金になり、すぐに予約が埋まる。春は桜、秋は涼しい夜風、冬は空気が澄んだ夜景が楽しめる。一人で落ち着いて乗るなら、花火の日を外した夏の平日や、秋がいい。
屋形船に乗るときの注意点は?
船宿の出船時間に遅れないこと、船の中は靴を脱ぐことが多いこと、デッキに出るときは手すりにつかまることだ。飲み放題でも飲みすぎないこと。船酔いが心配なら、事前に酔い止めを飲んでおくといい。
出典・参考資料
- 各船宿・体験予約サイトの乗合屋形船の掲載情報(料金・人数の条件は変更されることがあるため、予約前に確認のこと)
- 墨田区「隅田川花火大会の歴史」