金曜の夜9時、駅前の本屋で、意味もなく雑誌をめくっているスーツの男たち。コンビニの前で缶コーヒーを飲み、スマホを見て、時計を見て、まだ帰らない。家に帰りたくない既婚男性は、どの駅にもいる。「フラリーマン」なんて言葉までできた。
結婚式では誰もが幸せそうに笑っていた。だが数年後、その笑顔はどこへ行ったのか。会話のない食卓、別々の寝室、休日の無言の車内。「結婚っていいぞ」と言っていた先輩の目は、まったく笑っていなかった。独身の俺たちを「かわいそう」と言う既婚者に、統計を突きつけてやる。
この記事では、最高裁判所の司法統計で夫が離婚を考える理由を確認し、セックスレスの調査、夫婦喧嘩の種、家庭内別居、そして離婚できない理由まで、既婚男性が幸せそうに見えない実態をデータで示す。結婚生活の現実は、式場のスライドショーには映らない。
この記事の結論
- 夫が婚姻関係の調停を申し立てた動機は「性格が合わない」60.0%が最多
- 2位は「精神的に虐待する」22.1%。夫も家庭で傷ついている
- 夫婦のセックスレスは2020年調査で51.9%、2024年の調査で64.2%
- 不満があっても、子供・ローン・財産分与・世間体が離婚を思いとどまらせる
- 結婚生活の実態を知れば、独身を「かわいそう」と言われる筋合いはない
既婚男性が幸せそうに見えない理由
既婚者の平均的な幸福度は、独身者より高いという調査は多い。俺たちもそれは認める。だが、平均の裏には、結婚生活に不満を抱えながら暮らす多くの男がいる。そして、その不満は外からは見えにくい。SNSに上がるのは家族旅行の笑顔の写真だけで、帰りの車内の重い沈黙は誰も投稿しない。友人の結婚生活が幸せそうに見えるのは、幸せそうな部分しか見せてもらっていないからだ。
- 不満を口にしにくい:「家族の悪口を言う男」と思われたくない
- 逃げ場がない:家に帰れば、不満の相手と顔を合わせる
- やめられない:離婚には金も手間もかかる
だから既婚男性の不満は、統計の中に静かに表れる。最もはっきり表れるのが、家庭裁判所の統計だ。
データ①:夫が調停を申し立てた動機
最高裁判所の「司法統計年報 家事編」(令和6年)には、家庭裁判所に婚姻関係の調停などを申し立てた人の動機が、申立人別に載っている。夫が申し立てた1万5,406件の動機(最大3つまで)を見てみよう。
夫が婚姻関係の調停などを申し立てた動機(令和6年・上位)
Fig. 01最も多いのは「性格が合わない」60.0%。そして2位は「精神的に虐待する」22.1%だ。夫が申し立てた事件の5件に1件以上で、妻からの精神的な虐待(暴言、無視、人格の否定など)が動機に挙げられている。「暴力を振るう」も9.4%ある。
家庭で傷ついているのは、妻だけではない。夫もまた、家庭の中で精神的に追い詰められている。そして多くの男は、それを誰にも言えずに抱えている。
夫が受ける精神的な虐待と、相談先
「精神的に虐待する」とは、具体的にどんなことか。殴る蹴るといった暴力ではなく、言葉や態度で相手を追い詰める行為だ。
- 人格を否定する言葉:「稼ぎが少ない」「役に立たない」「父親失格」と繰り返す
- 無視:何日も口をきかない、子供の前でだけ話さない
- 行動の管理:スマホを勝手に見る、交友関係を制限する、小遣いを極端に絞る
- 子供を使った攻撃:子供に父親の悪口を吹き込む、子供と会わせないと脅す
男性は「妻にやられている」と人に言いにくい。だが、配偶者からの暴力や精神的な攻撃は、性別に関係なく相談できる。国のDV相談窓口「DV相談ナビ(#8008)」では、最寄りの配偶者暴力相談支援センターなどにつながり、男性の相談も受け付けている。一人で抱え込まず、記録を残し、外の窓口を使え。日記やメモ、録音は、後で調停や相談をするときの大事な材料になる。
妻の側から見ると
公平のために、妻が申し立てた4万3,046件の動機も見ておく。
| 動機 | 夫の申し立て | 妻の申し立て |
|---|---|---|
| 性格が合わない | 60.0% | 38.4% |
| 生活費を渡さない | 5.3% | 29.5% |
| 精神的に虐待する | 22.1% | 26.7% |
| 暴力を振るう | 9.4% | 17.9% |
| 異性関係 | 11.8% | 13.4% |
| 浪費する | 11.5% | 8.5% |
| 性的不調和 | 10.5% | 6.6% |
妻の申し立てでは「生活費を渡さない」が29.5%と多い。妻にとって夫は、まず生活費を出す存在として見られているということでもある。夫は家計を支える責任を負い、それを果たせないと申し立ての理由になる。一方で、夫が「浪費する」と訴える割合は妻より高い。夫が稼いだ金を、妻が使いすぎることに不満を持つ夫も少なくない。
そして申し立ての件数そのものは、妻が夫の約2.8倍だ。結婚生活に見切りをつけ、行動に移すのは、多くの場合妻の側だ。
データ②:夫婦のセックスレスは、半数から6割超へ
夫婦関係の冷え込みを表す指標の一つが、セックスレスだ。日本では、1か月以上性交渉がない状態をセックスレスと定義するのが一般的だ。
夫婦のセックスレスの割合(調査別)
Fig. 022020年の調査で51.9%、2023年11月に実施された別の調査で64.2%。対象の年齢層が違うので単純比較はできないが、夫婦の半数以上がセックスレスという点は共通している。司法統計で夫の申し立て動機に「性的不調和」が10.5%あるのも、この実態と無関係ではないだろう。
結婚すれば親密な関係が続く、というのは幻想だ。結婚は、親密さの保証ではない。
お前の夜はどうだ? 隣の布団で背中を向けて寝る妻、子供が寝た後の無言のリビング、別々の寝室。統計上、夫婦の過半数がセックスレスだ。少なくとも俺は、隣の人間の機嫌をうかがいながら眠りにつく必要はない。
夫婦喧嘩の種は、尽きない
結婚生活には、喧嘩の種がいくらでもある。よくあるものを並べてみる。
| テーマ | よくある対立 |
|---|---|
| 家事分担 | 夫は「以前よりやっている」、妻は「まだ足りない」。やり方の違いでも揉める |
| お金 | 夫の小遣い、妻の買い物、教育費、住宅ローン。何にいくら使うか |
| 子育て | しつけ、習い事、中学受験、スマホの使わせ方 |
| 義実家 | 帰省の頻度、親の介護、親からの口出し |
| 休日の使い方 | 家族で出かけたい妻と、休みたい夫。一人の時間の取り合い |
| 仕事 | 残業、転勤、転職。夫の仕事の都合が家庭に影響する |
どれも、二人で一つの生活を回す以上、避けられない対立だ。独身なら、これらはすべて自分一人で決められる。誰とも対立しない。金の使い道も、休日の過ごし方も、親との付き合い方も、自分の判断だけで完結する。対立がないことは、それだけで大きなストレスの削減だ。
家庭内別居という「選択」
喧嘩が続き、会話がなくなり、それでも離婚しない夫婦がたどり着くのが家庭内別居だ。同じ家に住みながら、食事も寝室も別、会話は子供のことと事務連絡だけ。法律上の定義も公的な統計もないが、珍しい話ではない。
- 食事は別々:夫は外で済ませるか、家族が食べ終わった後に一人で食べる
- 寝室は別:夫はリビングのソファか、物置になった小部屋で寝る
- 会話は事務連絡:子供の予定、家計の支払い、親戚の行事だけ
- 休日は別行動:妻と子供は出かけ、夫は家に残るか、一人で外に出る
家庭内別居の夫は、家族のために働き、家族の住む家のローンを払いながら、家族と暮らしていない。これほど割に合わない状態はない。それでも離婚しないのは、離婚するコストがそれ以上に大きいからだ。家庭内別居は、結婚という契約の出口が狭すぎることが生んだ、行き場のない男たちの待合室だ。
離婚できない理由
不満があっても、多くの既婚男性は離婚しない。いや、できない。
| 理由 | 中身 |
|---|---|
| 子供 | 子供と離れて暮らしたくない。親権の多くは母親が持つ |
| 財産分与 | 婚姻中に築いた財産は、原則2分の1ずつ分ける |
| 養育費 | 子供が20歳になるまで、毎月の支払いが続く |
| 住宅ローン | 家を売っても借金が残ることがある。出て行っても返済は続く |
| 婚姻費用 | 別居すれば、離婚が成立するまで妻子の生活費を払う |
| 世間体・手続き | 職場や親戚への説明、調停や裁判の手間と時間 |
結婚は、入るのは簡単で、出るのは難しい契約だ。出口に高い通行料がかかるから、不満があっても中に留まり続ける。幸せだから結婚生活を続けているのではなく、出られないから続けている男も少なくない。
帰りたくない夫たち
家に帰りたくない既婚男性は、仕事が終わっても寄り道をして時間をつぶす。そんな男たちは「フラリーマン」と呼ばれるようになった。
- 駅前の本屋やカフェ:意味もなく雑誌をめくり、時間をつぶす
- コンビニや公園:缶コーヒーを飲みながら、スマホを眺める
- ジムやサウナ:「健康のため」という名目で、家に帰る時間を遅らせる
- 会社に残る:急ぎでもない仕事を片付けるふりをする
皮肉なことに、彼らが寄り道で求めているのは、独身の男が毎日当たり前に持っている「一人の時間」だ。家族を持った男が、家族から逃げて、一人の時間を求めている。独身の男は、その一人の時間を、寄り道ではなく自分の家で、好きなだけ過ごせる。
独身と、家庭内別居の既婚男性を比べる
独身男性の夜
- 帰りたい時間に、自分の家に帰る
- 好きな物を食べ、好きなことをする
- 給料は全部、自分の裁量で使う
- 誰とも対立しない
- 一人の時間は、毎日たっぷりある
家庭内別居の既婚男性の夜
- 帰りたくなくて、駅前で時間をつぶす
- 家族が食べ終わった後に、一人で食べる
- 給料は家計に入り、小遣いは月3万円台
- 無言の空気が、家中に漂っている
- 一人の時間は、寄り道の30分だけ
どちらも、夜は一人だ。だが、独身の一人は自分で選んだ一人、家庭内別居の一人は逃げ場としての一人だ。前者は自由で、後者は孤独だ。
結婚を考えている男が、知っておくべきこと
これから結婚を考えている男がいるなら、式場の見学より先に、これを確認しろ。
- 金の話をする家計の管理、小遣いの額、教育費、住宅ローン。結婚後の金の流れを具体的に話し合う。
- 時間の話をする家事・育児の分担、休日の使い方、一人の時間の確保。曖昧なまま結婚しない。
- 離婚の話をする財産分与、養育費、婚姻費用、住宅ローン。最悪の場合に何が起きるかを知っておく。
- 計算する結婚で得られるものと失うものを並べる。割に合わないと思うなら、結婚しない選択もある。
まとめ:結婚生活の現実は、スライドショーに映らない
司法統計(令和6年)で、夫が婚姻関係の調停を申し立てた動機は「性格が合わない」60.0%、「精神的に虐待する」22.1%。夫婦のセックスレスは2020年の調査で51.9%、2023年11月実施の調査で64.2%と報告されている。家事分担、金、子育て、義実家。夫婦喧嘩の種は尽きない。
不満があっても、子供、財産分与、養育費、住宅ローン、世間体が離婚を思いとどまらせ、家庭内別居や「帰りたくない夜」が生まれる。既婚男性が寄り道で求めているのは、独身の男が毎日持っている一人の時間だ。
独身を「かわいそう」と言う既婚者には、このデータを見せてやれ。末代で何が悪い。
よくある質問
夫が離婚を考える理由で多いものは何ですか?
最高裁判所の司法統計(令和6年)で、夫が家庭裁判所に婚姻関係の調停を申し立てた動機(最大3つまで)は、「性格が合わない」60.0%が最も多く、「精神的に虐待する」22.1%、「異性関係」11.8%、「浪費する」11.5%、「家族親族と折り合いが悪い」11.1%、「性的不調和」10.5%が続いた。
夫婦のセックスレスはどれくらいありますか?
日本家族計画協会などが2020年に行った調査では、婚姻関係にあるカップルの51.9%がセックスレスだった。ジェクスの「ジャパン・セックスサーベイ」(2023年11月実施)では、夫婦の64.2%がセックスレスと報告されている。調査対象の年齢層が異なるため単純比較はできないが、夫婦の半数以上がセックスレスという点は共通している。
家庭内別居とは何ですか?
同じ家に住みながら、夫婦としての会話や生活の共有がほとんどない状態を指す。法律上の定義はなく、公的な統計もないが、子供、住宅ローン、経済的な理由、世間体などから、離婚せずに家庭内で距離を置く夫婦は少なくないとされる。
既婚男性はなぜ離婚しないのですか?
子供への影響、住宅ローン、財産分与や養育費などの経済的な負担、世間体、手続きの面倒さなどが理由として挙げられる。離婚には多くのコストがかかるため、不満があっても結婚生活を続ける男性は多い。
結婚を後悔しないためには、どうすればいいですか?
結婚前に、金、時間、家事・育児の分担、住まい、子供、離婚した場合のことまで具体的に考えることだ。それらを計算したうえで割に合わないと感じるなら、結婚しないという選択も十分に合理的だ。
出典・参考資料
- 最高裁判所事務総局「令和6年 司法統計年報 3 家事編」第19表
- 日本家族計画協会ほか「男女の生活と意識に関する調査」(2020年)
- ジェクス「ジャパン・セックスサーベイ」(2023年11月実施)
- 民法第768条、第760条、第766条