75歳。持病が悪化して、入院することになった。病院の受付で、書類を渡される。「身元保証人の欄に、ご家族のお名前を」。家族はいない。親はとうに亡くなり、きょうだいとは何年も連絡を取っていない。誰の名前を書けばいいのか。
家族のいる男は、迷わず妻の名前を書く。だが、その妻も同じように年を取り、入院の付き添いも手続きもままならない。子供は遠くに住み、仕事を休んで駆けつけるのは一苦労だ。家族がいても、保証人の役割を果たせるとは限らない。
この記事では、おひとりさまの老後の保証人問題を整理する。身元保証人に何が求められるのか、身元保証人がいないと本当に入院できないのか、民間の身元保証サービスの中身と費用の考え方、そして2024年6月に国が策定した「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」にもとづく選び方をまとめた。
この記事の結論
- 国は、身元保証人がいないことのみを理由に入院・入所を拒むことは不適当としている
- それでも現実には保証人を求められる場面が多い。元気なうちに備えろ
- 備え方は、親族・身元保証サービス・任意後見と死後事務の組み合わせ
- 身元保証サービスは、費用の内訳と預託金の管理方法を必ず確かめろ
- 寄付や遺贈を契約の条件にする事業者は避けろ
身元保証人には、何が求められるのか
病院への入院や、介護施設への入居のときに求められる「身元保証人」。その役割は、病院や施設によって違うが、だいたい次のようなものだ。
| 役割 | 中身 |
|---|---|
| 費用の支払いの保証 | 本人が入院費や利用料を払えないときに、代わりに払う |
| 緊急時の連絡先 | 容体の急変や事故のときに、連絡を受けて対応する |
| 入退院・入退所の手続き | 入院や退院、施設への入所や退所の手続きと付き添い |
| 治療方針の相談 | 本人が判断できないときに、医師と治療方針について話す |
| 亡くなったときの対応 | 遺体の引き取り、荷物の片づけ、費用の精算 |
家族がいれば、これらは家族が自然に担っている。おひとりさまは、それを誰かに頼むか、仕組みで用意する必要がある。
身元保証人がいないと、入院できないのか
結論から言うと、身元保証人がいないことだけを理由に、入院や入所を断ることは不適当とされている。厚生労働省は2018年4月、「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」という通知を出し、同じ年に介護施設や市区町村の相談対応についても通知を出した。国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」も、医療機関や介護保険施設は正当な理由なくサービスの提供を拒否できず、身元保証人等がいないことのみを理由に入院・入所を拒むことは不適当であると書いている。
だが、現実には、保証人や緊急連絡先を求められる場面は多い。病院や施設にとって、何かあったときに連絡できる人、費用を精算してくれる人、亡くなったときに引き取ってくれる人がいないのは、大きな不安だからだ。保証人がいなくても入院はできるとしても、手続きや入院中の対応で困ることはある。だから、おひとりさまは元気なうちに備えておく必要がある。
保証人問題は、これから増える
国立社会保障・人口問題研究所の推計(2024年)では、65歳以上の一人暮らしの男性に占める未婚者の割合は、2020年の33.7%から2050年には59.7%になる。推計は、近親者のいない高齢単独世帯が急増するとまとめている。
高齢単独世帯に占める未婚者の割合の推計
Fig. 01配偶者も子もいない高齢者が増えれば、身元保証人を頼める人がいない高齢者も増える。だからこそ、国は2024年6月、身元保証や死後の手続きを担う事業者のためのガイドラインを作った。おひとりさまの保証人問題は、個人の問題ではなく、社会の課題として扱われ始めている。
保証人問題への4つの備え方
| 備え方 | 中身 | 注意点 |
|---|---|---|
| 親族に頼む | きょうだい、甥・姪に、身元保証人や緊急連絡先を頼む | 相手が高齢、遠方、疎遠だと難しい。元気なうちに相談しておく |
| 身元保証サービス | 民間の事業者に、保証人の役割や死後の手続きを頼む | 費用と内容が事業者ごとに違う。預託金の管理を確かめる |
| 任意後見と死後事務委任 | 判断能力が落ちたときの財産管理と、亡くなったあとの手続きを、専門家などに頼む | 費用の支払いの保証は含まれないことが多い |
| 公的な支援 | 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業、自治体の終活支援、地域包括支援センターへの相談 | 地域によって中身が違う |
一つの方法で全部をまかなう必要はない。緊急連絡先は甥に、判断能力が落ちたときの財産管理は任意後見で専門家に、亡くなったあとの手続きは死後事務委任で、というように組み合わせるのが現実的だ。
身元保証サービスの中身
国のガイドラインでは、身元保証や死後の手続きなどを提供する事業者を「高齢者等終身サポート事業者」と呼び、そのサービスを大きく3つに分けている。
- 身元保証等サービス:入院・退院、施設への入所・退所の支援、緊急連絡先の受託など
- 死後事務サービス:葬儀・火葬・埋葬・供養、役所への届け出、賃貸住宅の契約の解除、公共料金や携帯電話の解約など
- 日常生活支援サービス:通院の送迎や付き添い、買い物の支援、日常の金銭管理など
事業者によって、どこまでのサービスを、いくらで提供するかは大きく違う。身元保証だけの事業者もあれば、死後事務や日常生活の支援までまとめて引き受ける事業者もある。自分に必要なサービスは何かを先に考えてから、事業者を比べろ。
費用の考え方
身元保証サービスの費用は、事業者と契約の内容で大きく違う。一般に、次のような費用がかかる。
| 費用 | 中身 |
|---|---|
| 入会金・契約時の費用 | 契約を結ぶときに払う |
| 月会費・年会費 | 見守りや相談などの基本サービスの費用 |
| サービスごとの費用 | 入院の付き添い、施設の手続きなど、使った分だけ払う |
| 預託金 | 死後事務や将来の費用のために、前もって預けておく金 |
合計で数十万円から数百万円になることもあるとされる。当サイトの老後資金のシミュレーションでは、介護・身元保証・死後事務の予備費として800万円程度を見ている。費用は「総額でいくらか」より、「何にいくらかかり、預けた金がどう管理されるか」で比べろ。
いちばん大事なのは、預託金の管理だ
身元保証サービスで最も注意すべきなのが、預託金だ。死後の手続きなどのために、数十万円から百万円以上を前もって預けることがある。国のガイドラインも、契約が長期にわたり、サービスの提供の前に費用の一部が前払いされるため、契約がきちんと守られているかを確かめにくいことを課題として挙げている。
事業者が経営に行き詰まれば、預けた金が戻ってこないおそれがある。ガイドラインは、預託金について、事業者自身の運転資金と分けて管理すること、たとえば信託銀行や信託会社に預ける方法や、弁護士などの専門家が関わる別の法人に管理を委託する方法などを示している。
- 預託金の額と、その根拠:なぜその額が必要なのか、説明されているか
- 預託金の管理方法:事業者の財産と分けて、信託などで管理されているか
- 使われ方の報告:預託金から支払った費用の明細を、確かめられるか
- 残った預託金の扱い:亡くなったあと、残りはどうなるのか(相続人に返るのか)
寄付や遺贈を、契約の条件にする事業者は避けろ
国のガイドラインは、死因贈与や寄付(贈与)を契約の条件にすることや、遺贈を受けることを契約の条件にすることは、本当に利用者の意思にもとづくものか疑いが残るため、避けることが重要だとしている。
「財産を当社に遺贈すれば、サービスを安くします」「契約するなら、死後に残った財産を寄付してください」。こういう条件を出す事業者は、利用者の財産を目当てにしているおそれがある。おひとりさまは、相続人がいない、または疎遠なことが多く、財産の行き先を狙われやすい。財産を誰に残すかは、サービスの契約とは切り離して、自分の意思で、遺言で決めろ。
契約前のチェック
国のガイドラインの考え方をもとに、身元保証サービスと契約する前に確かめることをまとめた。当てはまるものにチェックしてみろ。
身元保証サービスと、ほかの備えの組み合わせ
身元保証サービスだけで、おひとりさまの老後の不安が全部消えるわけではない。ほかの備えと組み合わせて使え。
- 任意後見契約:判断能力が落ちたとき、財産の管理と、施設や介護の契約を任せる。公正証書で結ぶ
- 死後事務委任契約:葬儀、片づけ、役所の手続きを頼む。身元保証サービスに含まれていることもある
- 遺言:財産の行き先は、遺言で自分の意思で決める
- 見守りサービス:倒れたときに、早く気づいてもらう
- 緊急連絡先:財布とスマホに、連絡してほしい人を入れておく
迷ったら、相談しろ
身元保証サービスの契約は、長く続き、まとまった金が動く。迷ったら、一人で決めずに相談しろ。
- 地域包括支援センター:高齢者の生活の困りごとの相談窓口。身元保証の相談にも対応する
- 市区町村の窓口・社会福祉協議会:地域によっては、終活の相談や支援の事業がある
- 消費生活センター(消費者ホットライン188):契約のトラブルや、勧誘の不安の相談
- 弁護士・司法書士:契約書の中身、任意後見や遺言との関係
保証人に備えるおひとりさまと、家族に頼る既婚
保証人に備えるおひとりさま
- 緊急連絡先は甥に、元気なうちに頼んである
- 預託金が信託で管理される事業者を選んだ
- 任意後見と死後事務を、組み合わせて用意した
- 財産の行き先は、契約と切り離して遺言で決めた
「家族がいるから」と考える既婚の男
- 保証人の欄には、迷わず妻の名前
- その妻も高齢で、付き添いも手続きもままならない
- 子供は遠くに住み、駆けつけるのは一苦労
- 妻が先に亡くなったら、何の備えもない
保証人の問題は、家族がいても、いずれ多くの人が直面する。配偶者に先立たれ、子供と疎遠になれば、誰でもおひとりさまになる。早くから備えるおひとりさまは、家族のいる人より先に、この問題の答えを持っている。
困らないように、もう手は打ってある。緊急連絡先、任意後見、死後事務、預託金を信託で管理する保証サービス。お前は妻の名前を書けば済むと思っているだろうが、その妻が先に倒れたら? 入院した妻の保証人は、誰がやる?
まとめ:保証人は、仕組みで用意しろ
入院や施設入居で求められる身元保証人には、費用の保証、緊急連絡先、手続き、治療方針の相談、亡くなったときの対応といった役割がある。国は、身元保証人がいないことのみを理由に入院・入所を拒むことは不適当としているが、現実には保証人を求められる場面は多い。近親者のいない高齢の一人暮らしは、これから急増すると推計されている。
備えは、親族、身元保証サービス、任意後見と死後事務委任、公的な支援の組み合わせだ。身元保証サービスを選ぶなら、サービスの中身と費用の内訳、預託金の額と根拠と管理方法、解約料、判断能力が落ちたときの扱いを確かめ、寄付や遺贈を契約の条件にする事業者は避けろ。迷ったら、地域包括支援センターや消費生活センターに相談しろ。サービスの内容と費用は事業者ごとに大きく違うので、国のガイドラインのチェックリストも使って、必ず確認してほしい。
家族の代わりを、仕組みで用意しろ。末代で何が悪い。
よくある質問
身元保証人がいないと入院できない?
国は、医療機関や介護保険施設が、身元保証人等がいないことのみを理由に入院・入所を拒むことは不適当だとしている(2018年の厚生労働省の通知)。ただ、実際には身元保証人や緊急連絡先を求められることが多いので、親族に頼むか、身元保証サービスや任意後見などで備えておくと安心だ。
身元保証人はどんな役割を求められる?
入院費や施設の利用料の支払いの保証、緊急時の連絡先、入院や退院・入所や退所の手続きと付き添い、治療方針の相談、亡くなったときの遺体や荷物の引き取りなどだ。医療や施設によって求められる範囲は違う。
身元保証サービスの費用は?
事業者や契約の内容によって大きく違う。入会金、月会費、サービスごとの費用、死後事務などのための預託金などがあり、合計で数十万円から数百万円になることもあるとされる。費用の内訳と、預託金がどう管理されるかを契約前に必ず確かめるべきだ。
身元保証サービスを選ぶときの注意点は?
国のガイドラインでは、契約内容と費用の説明、預託金の額と根拠、預託金の管理方法、解約料、判断能力が落ちたときの扱いを明らかにすること、死因贈与や寄付を契約の条件にしないことなどが示されている。これらを確かめ、急かされても即決しないことだ。
身元保証サービスの代わりになるものは?
親族や友人に緊急連絡先を頼む、任意後見契約で財産管理と契約を任せる、死後事務委任契約で亡くなったあとの手続きを頼む、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業を使う、などを組み合わせる方法もある。
出典・参考資料
- 内閣官房・内閣府・金融庁・消費者庁・総務省・法務省・厚生労働省・経済産業省・国土交通省「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)
- 厚生労働省医政局医事課長通知「身元保証人等がいないことのみを理由に医療機関において入院を拒否することについて」(2018年4月)
- 厚生労働省老健局通知「市町村や地域包括支援センターにおける身元保証等高齢者サポート事業に関する相談への対応について」(2018年8月)
- 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数の将来推計(全国推計)令和6年推計」