80歳。最近、物忘れがひどい。通帳をどこに置いたか忘れ、同じものを何度も買い、知らない業者と契約していた。判断能力が落ちていく。そのとき、自分の財産を守り、介護や施設の契約をしてくれるのは、誰なのか。
家族のいる男は、「妻か子供がなんとかしてくれる」と考える。だが、家族でも、本人の預金を勝手に引き出したり、施設と契約したりはできない。判断能力が落ちたあとは、家族でも家庭裁判所の手続きが必要になる。そして、家族の誰が後見人になるかで、きょうだいが揉める。
おひとりさまは、元気なうちに、自分で後見人を選んでおける。この記事では、成年後見制度の任意後見と法定後見の違いを整理し、最高裁判所の統計で利用の実態を確かめる。そして、家族のいないおひとりさまこそ任意後見を使うべき理由と、費用、手続き、注意点をまとめた。
この記事の結論
- 任意後見は元気なうちに自分で選ぶ、法定後見は判断能力が落ちてから家庭裁判所が選ぶ
- 成年後見制度の利用者は25万9,901人。任意後見はわずか2,833人
- 法定後見では、83.6%が弁護士・司法書士などの親族以外だった(2025年)
- おひとりさまこそ、信頼できる人を任意後見で選んでおけ
- 任意後見は判断能力があるうちにしか結べない。先送りするな
成年後見制度とは何か
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が十分でない人を、法律の面で支える制度だ。後見人などが、本人に代わって財産を管理し、介護や施設、医療などの契約を結ぶ。悪質な契約を取り消すこともできる。
| 項目 | 任意後見 | 法定後見 |
|---|---|---|
| 始めるとき | 判断能力があるうちに契約。判断能力が落ちたら効力が生じる | 判断能力が落ちたあとに申し立てる |
| 後見人を選ぶ人 | 本人 | 家庭裁判所 |
| 任せる内容 | 本人が契約で決める | 法律と家庭裁判所の判断で決まる |
| 手続き | 公正証書で契約→判断能力が落ちたら任意後見監督人の選任を申し立て | 家庭裁判所に後見・保佐・補助の開始を申し立て |
| 監督 | 家庭裁判所が選ぶ任意後見監督人が監督 | 家庭裁判所が監督(監督人が選ばれることも) |
| 取消権 | なし | あり(本人の不利な契約を取り消せる) |
いちばん大きな違いは、誰が後見人を選ぶかだ。任意後見なら、本人が元気なうちに、自分で選ぶ。法定後見なら、判断能力が落ちたあとに、家庭裁判所が選ぶ。おひとりさまにとって、この違いは決定的だ。
成年後見制度の利用の実態
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」(令和7年)によると、2025年12月末時点の成年後見制度の利用者は25万9,901人だった。
成年後見制度の利用者数(2025年12月末)
Fig. 01利用者の多くは、判断能力が落ちてから使う法定後見(成年後見・保佐・補助)だ。任意後見の利用者は、わずか2,833人。全体の約1%にすぎない。多くの人は、判断能力が落ちてから、慌てて家庭裁判所に申し立てている。
同じ概況では、成年後見関係事件の申立人は、本人が約24.8%で最も多く、次いで市区町村長が約23.7%(1万139件)だった。市区町村長の申し立ては、申し立てる親族がいない、または協力が得られないときに行われることが多い。家族のいない高齢者の後見を、自治体が申し立てている現実がある。
法定後見では、誰が後見人になるのか
成年後見人等と本人との関係(2025年)
Fig. 022025年に成年後見人等に選ばれたうち、親族以外が約83.6%、親族は約16.4%だった。親族以外では、司法書士1万1,966件、弁護士8,903件、社会福祉士7,280件が多い。つまり、法定後見になると、多くの場合、家庭裁判所が選んだ専門家が後見人になる。
専門家が後見人になること自体は、悪いことではない。だが、本人が会ったこともない人が、財産を管理し、施設を選び、暮らしの大事なことを決めることになる。自分の好みや希望を知らない人に、人生の最後を任せることになるかもしれない。それを避けたいなら、任意後見で、自分で選んでおくしかない。
おひとりさまこそ、任意後見を使え
- 判断能力が落ちたとき、代わりに動く家族がいない:預金の管理、介護や施設の契約、入院の手続き
- 法定後見になると、誰が選ばれるかわからない:申し立てる人がいなければ、市区町村長が申し立てることになる
- 自分の希望を伝えておける:どんな施設に入りたいか、どう暮らしたいかを契約に書ける
- 信頼できる人を自分で選べる:甥や姪、長年の友人、信頼できる専門家
家族のいる人なら、家族が申し立てて、家族が後見人になることもある。おひとりさまには、それがない。だからこそ、元気なうちに、自分で後見人を選んでおくことが、家族のいる人以上に大事になる。
任意後見の流れ
- 任意後見人になってくれる人を決める親族、友人、弁護士・司法書士などの専門家、法人。
- 任せる内容を決める預金の管理、不動産の管理、介護や施設の契約、医療の契約、税金や公共料金の支払いなど。
- 公証役場で公正証書の契約を結ぶ任意後見契約は、公正証書でなければならない。契約は法務局で登記される。
- 判断能力が落ちたら、家庭裁判所に申し立てる任意後見監督人の選任を申し立てる。本人、任意後見人になる人、親族などが申し立てられる。
- 任意後見監督人が選ばれたら、任意後見が始まる任意後見人が、契約で決めた内容を代わりに行う。監督人が、それを監督する。
注意すべきは、契約を結んだだけでは任意後見は始まらないことだ。判断能力が落ちたときに、誰かが気づいて、申し立てる必要がある。一人で暮らすおひとりさまは、判断能力が落ちても、誰も気づかないことがある。そのため、見守りや財産管理の契約を、任意後見と組み合わせることが多い。
任意後見と組み合わせる契約
| 契約 | いつ使うか | 中身 |
|---|---|---|
| 見守り契約 | 元気なうち | 定期的に連絡や訪問をして、判断能力の変化に気づく |
| 財産管理等委任契約 | 体が弱ったが、判断能力はあるとき | 預金の出し入れや支払いを代わりに行う |
| 任意後見契約 | 判断能力が落ちたとき | 財産管理と、介護・施設・医療の契約を行う |
| 死後事務委任契約 | 亡くなったあと | 葬儀、片づけ、役所の手続き。後見は亡くなると終わるため |
| 遺言 | 亡くなったあと | 財産の行き先を決める |
この組み合わせを、同じ信頼できる人に頼めば、元気なうちから亡くなったあとまで、切れ目なく支えてもらえる。特に大事なのは、後見は本人が亡くなると終わることだ。後見人は、葬儀や死後の手続きを原則として行えない(一部の例外を除く)。だから、死後事務委任契約と遺言も一緒に準備しておけ。
任意後見人の選び方
| 候補 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|
| 甥・姪などの親族 | 本人をよく知っている。報酬を抑えられる | 相手の負担。相手が先に病気になることも |
| 長年の友人 | 本人の好みや考えをよく知っている | 友人も同じように年を取る |
| 弁護士・司法書士などの専門家 | 法律と手続きに詳しい。長く頼める | 報酬がかかる。人柄と相性を確かめる |
| 法人(社会福祉法人、専門家の法人など) | 担当者が変わっても続く | 報酬がかかる。法人の信頼性を確かめる |
おひとりさまの場合、自分より若い人か、法人や専門家を選ぶのが安心だ。同年代の友人に頼むと、自分が助けを必要とするころには、友人も同じように年を取っている。甥や姪に頼むなら、専門家と組み合わせる(財産管理は専門家、身の回りの相談は甥)のも一つの方法だ。
費用の目安
- 任意後見契約の作成:公証役場の手数料と、登記の費用などで数万円程度。専門家に契約書の作成を頼めば、その報酬もかかる
- 任意後見人の報酬:契約で決める。親族なら無報酬のこともある。専門家なら月数万円程度が多いとされる
- 任意後見監督人の報酬:家庭裁判所が決め、本人の財産から支払われる
- 法定後見の報酬:家庭裁判所が、財産の額や仕事の内容に応じて決め、本人の財産から支払われる
後見人の報酬は、本人が亡くなるまで続く。月数万円でも、10年続けば数百万円になる。老後資金の中に、後見の費用も見込んでおけ。当サイトでは、介護・身元保証・死後事務の予備費として800万円程度を見ている。
任意後見契約に書いておくこと
任意後見の強みは、任せる内容を自分で決められることだ。だからこそ、具体的に書いておけ。
- 財産の管理:預金口座、証券口座、不動産。どれを、どう管理してほしいか
- 住まいの希望:できるだけ自宅で暮らしたいのか、どんな施設に入りたいのか、予算はいくらまでか
- 医療と介護の希望:かかりつけ医、介護サービスの使い方
- 暮らしの楽しみ:趣味を続けたい、好きな店の食事を届けてほしい、外出の機会を作ってほしい
- 報告の方法:財産の管理の状況を、どのくらいの頻度で、誰に報告するか
契約書とは別に、エンディングノートに希望を詳しく書いておくのもいい。後見人は、本人の意思を尊重して仕事をすることが求められる。希望が書いてあれば、後見人はそれに沿って動ける。何も書いていなければ、後見人は本人の好みを推し量るしかない。
任意後見の注意点
- 判断能力があるうちにしか結べない:認知症が進んでからでは、契約できない
- 取消権がない:本人が結んだ不利な契約を、任意後見人は取り消せない。悪質な契約の被害が心配なら、法定後見に切り替えることも考える
- 判断能力の低下に気づく仕組みが要る:見守り契約と組み合わせる
- 後見人を監督する仕組みがある:任意後見監督人が付くので、後見人の使い込みなどを防げる
- 契約の内容は具体的に:どの財産を、どう管理するか。介護や施設の希望も書いておく
最も大事なのは、先送りしないことだ。「まだ早い」と思っているうちに、判断能力は少しずつ落ちていく。60代のうちに、少なくとも任意後見人の候補だけは決めておけ。
どこに相談すればいいか
- 地域包括支援センター:成年後見制度の相談、専門家の紹介
- 市区町村の成年後見制度の相談窓口(中核機関):多くの自治体に、成年後見の利用を支援する窓口がある
- 公証役場:任意後見契約の作成
- 弁護士会・司法書士会・社会福祉士会:後見人の候補となる専門家の紹介
- 法テラス:法律の相談
後見人を自分で選ぶおひとりさまと、家族で揉める既婚
後見人を自分で選ぶおひとりさま
- 60代のうちに、信頼できる甥と専門家を選んだ
- 見守り・任意後見・死後事務を、切れ目なく契約した
- 入りたい施設の希望も、契約に書いてある
- 判断能力が落ちても、自分が選んだ人に守られる
「家族がなんとかする」と考える既婚の男
- 判断能力が落ちたあと、家族でも預金を下ろせない
- 誰が後見人になるかで、きょうだいが揉める
- 結局、家庭裁判所が見知らぬ専門家を選ぶ
- 自分の希望を、誰にも伝えていなかった
任意後見の利用者が2,833人しかいないのは、多くの人が「家族がなんとかする」と考えて、準備をしていないからだろう。だが、判断能力が落ちたあとは、家族でも自由には動けない。おひとりさまは、最初から家族に頼らない前提で、自分で選んでおける。それは、家族のいる人より確実な備えだ。
終わらないように、もう任意後見で後見人を選んである。お前はどうだ? ボケたら、妻が預金を下ろせると思っていないか? 判断能力が落ちたら、家族でも勝手には動けない。誰が後見人になるかで、子供たちが揉めるかもしれない。準備していないのは、お前の方だ。
まとめ:後見人は、元気なうちに自分で選べ
成年後見制度は、判断能力が落ちたときに、後見人などが財産の管理や契約を代わりに行う制度だ。任意後見は元気なうちに自分で後見人を選んで契約し、法定後見は判断能力が落ちてから家庭裁判所が選ぶ。2025年末の利用者は25万9,901人で、そのうち任意後見はわずか2,833人。法定後見では、成年後見人等の83.6%が弁護士や司法書士などの親族以外だった。
家族のいないおひとりさまこそ、任意後見で、信頼できる人を自分で選んでおけ。見守り契約、財産管理等委任契約、死後事務委任契約、遺言と組み合わせれば、元気なうちから亡くなったあとまで、切れ目なく支えてもらえる。任意後見は判断能力があるうちにしか結べない。60代のうちに、少なくとも候補を決めろ。契約の内容や費用は個別の状況で違うので、公証役場や専門家、自治体の相談窓口に確認してほしい。
自分の最後を任せる人は、自分で選べ。末代で何が悪い。
よくある質問
任意後見と法定後見の違いは?
任意後見は、判断能力があるうちに、自分で後見人(任意後見人)を選び、任せる内容を決めて公正証書で契約しておく制度だ。法定後見は、判断能力が落ちたあとに、家庭裁判所が後見人などを選ぶ制度だ。任意後見なら誰に何を任せるかを自分で決められるが、法定後見では家庭裁判所が決める。
おひとりさまに任意後見が必要な理由は?
家族がいないと、判断能力が落ちたときに、財産の管理や介護・施設の契約をしてくれる人がいないからだ。法定後見になると、家庭裁判所が見知らぬ専門家を選ぶことが多い。2025年には、成年後見人等の83.6%が親族以外だった。任意後見なら、信頼できる人を自分で選べる。
任意後見の費用は?
契約を公正証書にするための公証役場の手数料などがかかる。後見が始まったら、任意後見人への報酬(契約で決める。親族なら無報酬のことも)と、家庭裁判所が選ぶ任意後見監督人への報酬がかかる。法定後見でも、後見人の報酬が本人の財産から支払われる。
任意後見はいつ始まる?
契約を結んだだけでは始まらない。本人の判断能力が落ちたときに、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立て、選任されたときから効力が生じる。そのため、判断能力が落ちる前の見守りや財産管理を別の契約で頼んでおくことも多い。
後見人には誰がなれる?
任意後見なら、信頼できる親族や友人、弁護士や司法書士などの専門家、法人など、自分で選べる。法定後見では家庭裁判所が選び、親族、弁護士、司法書士、社会福祉士、市民後見人などが選ばれる。
出典・参考資料
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月」
- 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」「任意後見制度」
- 日本公証人連合会「任意後見契約」
- 厚生労働省「成年後見制度の利用促進」