一人で暮らしていて、困ったことが起きる。体が思うように動かない、お金の管理が不安になってきた、入院の手続きを頼める人がいない。「誰に相談すればいいんだろう」。調べようとしても、制度もサービスも多すぎて、どこから手をつければいいかわからない。
家族のいる男は、困りごとを全部家族に投げる。妻が役所の手続きをし、子供がサービスを調べる。だが、家族がいなくなったとき、自分では何も調べられない男が残る。
おひとりさまは、自分で、使えるサービスを知っておく必要がある。この記事では、おひとりさまの老後を支える公的な制度と民間のサービスを、暮らし・お金・健康・もしもの4つの場面で一覧にした。そして、最初の相談先をはっきりさせた。困ってから探すのではなく、困る前に知っておけ。
この記事の結論
- 不安や悩みがあっても、行政やNPOの支援を受けていない人は87.0%
- 最初の相談先は、住んでいる地域の地域包括支援センター
- 公的な制度で足りない部分を、民間のサービスで補え
- 判断能力が落ちたときの支えは、元気なうちにしか準備できない
- 民間のサービスは、費用と前払い金の管理を必ず確かめろ
支援を受けていない人は、9割近い
内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)では、日常生活に不安や悩みを感じていることが「ある」と答えた人に、行政機関やNPOなどからの支援を受けているかを聞いている。
不安や悩みに対する行政機関・NPOなどからの支援の状況(令和7年)
Fig. 01支援を受けていない人は87.0%。受けていない理由としては、「支援が必要ではないため」が63.1%で最も多かった。今は必要ないという人が多いのは、悪いことではない。だが、いざ必要になったときに、どこに何があるかを知らないと、困ったまま時間が過ぎていく。支援は、知っている人しか使えない。
最初の相談先は、地域包括支援センター
おひとりさまが老後に困ったとき、最初に相談すべき窓口は、住んでいる地域の地域包括支援センターだ。市区町村が設置する、高齢者のための総合相談の窓口で、おおむね中学校区ごとに置かれている。
- 総合相談:介護、健康、生活の困りごと、何でも相談できる
- 介護保険の手伝い:要介護認定の申請、ケアマネジャーの紹介
- 介護予防:要支援の人のケアプラン、介護予防の教室
- 権利を守る:成年後見制度の相談、詐欺や虐待の相談
- 地域のつなぎ:民生委員、社会福祉協議会、地域の活動へのつなぎ
相談は無料だ。元気なうちに、自分の地域のセンターの場所と電話番号を調べておけ。困ったときに、まずここに電話すればいい。どのサービスを使えばいいかわからなくても、センターが道案内をしてくれる。
場面別・おひとりさまの老後支援サービス一覧
| 場面 | 公的な制度・サービス | 民間のサービス |
|---|---|---|
| 暮らし | 介護保険の訪問介護・デイサービス、自治体の配食・見守り事業、住宅改修の補助 | 家事代行、配食・宅配、見守りサービス、移動の支援 |
| お金 | 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業、成年後見制度(法定後見)、生活困窮の相談 | 任意後見(専門家と契約)、財産管理の委任契約、信託 |
| 健康 | 介護保険、高額療養費・高額介護サービス費、健康診断、介護予防の教室 | 民間の医療保険・介護保険、通院の付き添い |
| もしも | 地域包括支援センターの相談、一部の自治体の終活支援・終活情報の登録、救急医療情報キット | 身元保証サービス、死後事務委任、遺品整理、遺言の作成支援 |
基本の考え方は、まず公的な制度を使い、足りない部分を民間のサービスで補うことだ。公的な制度は費用が安く、相談は無料のことが多い。民間のサービスは、公的な制度ではカバーされない部分(身元保証、死後の手続き、細かな生活の手伝い)を担う。
暮らしの支援
体が弱ってきたとき、一人暮らしを支えるのが暮らしの支援だ。
- 介護保険の在宅サービス:訪問介護(掃除、洗濯、買い物、入浴の介助など)、デイサービス、ショートステイ。要介護・要支援の認定が必要
- 自治体の配食サービス:弁当を届けるときに、安否も確かめる。対象や費用は自治体による
- 自治体の見守り事業:緊急通報装置、民生委員の訪問
- 住宅改修の補助:手すりの設置、段差の解消。介護保険の住宅改修費など
- 民間の家事代行:掃除、料理、片づけ。介護保険の範囲外の家事も頼める
- 民間の配食・宅配:食事の宅配、ネットスーパー
おひとりさまは、家族の手助けがない分、暮らしの支援を早めに使い始めるのがいい。体が動くうちは家事代行や宅配で、介護が必要になったら介護保険の在宅サービスで。「まだ自分でできる」と我慢しすぎると、体を壊して一気に暮らせなくなる。
介護保険は、こうして使い始める
暮らしの支援の柱になる介護保険は、待っていても始まらない。自分から申請する必要がある。
- 地域包括支援センターか市区町村の窓口に相談する「最近、家事がつらい」「足腰が弱ってきた」という段階で相談していい。
- 要介護認定を申請する本人が行けなければ、センターが代わりに申請を手伝ってくれる。
- 訪問調査と主治医の意見書調査員が自宅に来て、心身の状態を確かめる。かかりつけ医がいると話が早い。
- 要介護度が決まり、ケアプランを作る要支援ならセンター、要介護ならケアマネジャーが計画を立てる。
おひとりさまは、調査のときに困りごとを遠慮なく話せ。一人暮らしで家族の手助けがないことは、必要なサービスを決めるうえで大事な情報だ。見栄を張って「何でも一人でできます」と答えると、必要な支援が受けられなくなる。困っていることを、前もって紙に書いて渡すのもいい。
お金の管理の支援
年を取ると、お金の管理が不安になってくる。通帳をどこに置いたか忘れる、支払いを忘れる、詐欺の電話にだまされそうになる。
| 本人の状態 | 支援 | 中身 |
|---|---|---|
| 元気(判断能力がある) | 任意後見契約・財産管理の委任契約 | 将来に備えて、任せる人を自分で選び、契約しておく |
| 少し不安がある | 日常生活自立支援事業(社会福祉協議会) | 福祉サービスの利用の手続き、日常のお金の出し入れ、書類の預かり |
| 判断能力が大きく落ちた | 成年後見制度(任意後見の開始・法定後見) | 後見人などが、財産の管理と契約を行う |
大事なのは、任意後見契約は、元気なうちにしか結べないことだ。判断能力が落ちてからでは、自分で任せる人を選べない。その場合は、家庭裁判所が後見人を選ぶ法定後見になる。おひとりさまは、元気なうちに、任せる人を自分で選んでおけ。
日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が行う事業で、判断能力に不安がある人の、福祉サービスの利用や日常のお金の管理を手伝う。利用には契約が必要で、費用がかかる(金額は地域による)。住んでいる地域の社会福祉協議会に問い合わせてみろ。
健康と医療・介護の支援
- 介護保険:要介護認定を受ければ、サービスの自己負担は原則1割
- 高額療養費制度:医療費の自己負担に月の上限がある
- 高額介護サービス費:介護保険の自己負担に月の上限がある
- 健康診断と介護予防:自治体の健診、介護予防の体操教室など
- 通院の付き添い:民間の事業者や、身元保証サービスの一部
医療と介護の費用には、自己負担を抑える制度がある。だが、多くは申請しないと使えない。家族がいれば代わりに調べてくれることもあるが、おひとりさまは自分で知っておくか、地域包括支援センターやケアマネジャーに聞く必要がある。
もしものときの支援
入院、施設への入居、そして亡くなったあと。家族がいれば家族が担うことを、おひとりさまは仕組みで用意する。
- 身元保証サービス:入院や施設入居のときの保証人、緊急連絡先の受託
- 死後事務委任契約:葬儀、火葬、納骨、役所の届け出、賃貸の解約、公共料金の解約
- 遺品整理:部屋の荷物の片づけ
- 遺言:公正証書遺言、自筆証書遺言の法務局保管制度
- 自治体の終活支援:エンディングノートの配布、終活の相談、一部の自治体では終活情報の登録や、葬儀・納骨の支援
国は2024年6月、身元保証や死後事務を担う事業者のための「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」を作った。民間のサービスを選ぶときは、このガイドラインのチェックリストを使って、費用の内訳、預託金の管理、解約の条件を確かめろ。
困ったときの相談窓口
| 窓口 | 相談できること |
|---|---|
| 地域包括支援センター | 介護、健康、生活の困りごと全般。最初の相談先 |
| 市区町村の高齢者福祉の窓口 | 見守り、配食、緊急通報などの自治体の事業 |
| 社会福祉協議会 | 日常生活自立支援事業、地域の支え合い、ボランティア |
| 消費生活センター(188) | 契約のトラブル、悪質な勧誘、詐欺の不安 |
| 法テラス・弁護士会・司法書士会 | 遺言、相続、後見、契約の法律の相談 |
| 公証役場 | 公正証書遺言、任意後見契約の作成 |
この中で、最初の一本の電話は地域包括支援センターだ。そこで解決しなければ、ほかの窓口につないでもらえばいい。相談先を一つ知っていれば、そこから全部の扉が開く。
民間のサービスを選ぶときの注意
- 何を頼みたいのかを先に決める必要のないサービスまでまとめて契約しない。
- 費用の内訳を確かめる入会金、月額、サービスごとの費用、前払い金。総額だけで判断しない。
- 前払い金・預託金の管理方法を確かめる事業者の財産と分けて管理されているか。
- 解約の条件を確かめる途中でやめたとき、いくら戻るのか。
- その場で契約しない書面を持ち帰り、地域包括支援センターや消費生活センターに相談してから。
おひとりさまは、相談する家族がいない分、一人で決めてしまいがちだ。そして、そこにつけ込む業者もいる。「一人で決めない」というルールを、自分で作っておけ。
元気なうちにやること
- 地域包括支援センターの場所と電話番号を調べるスマホとエンディングノートに書いておく。
- 自治体の高齢者向けサービスの一覧を手に入れる多くの自治体が、冊子やサイトで案内している。
- 任意後見と死後事務を誰に頼むかを考える親族、友人、専門家。
- 見守りの仕組みを一つ持つ安否確認アプリから始める。
- エンディングノートに、使っているサービスと契約先を書くもしものときに、誰かが引き継げるように。
サービスを知っているおひとりさまと、知らない男
サービスを知っているおひとりさま
- 地域包括支援センターの電話番号がスマホに入っている
- 任意後見と死後事務の頼み先を決めてある
- 家事代行と配食で、体が動くうちから楽をしている
- 民間のサービスは、一人で決めずに相談してから契約する
家族に任せきりの既婚の男
- 役所の手続きもサービス探しも、全部妻任せ
- 妻が先に亡くなったら、何も調べられない
- 困っても、どこに相談すればいいか知らない
- 支援があることを知らないまま、一人で困り続ける
支援は、知っている人しか使えない。おひとりさまは、家族に頼れない分、自分で知り、自分で使う力を持っている。それは、家族に任せきりの男より、ずっと強い老後の備えだ。
頼れる人がいなければ、頼れる仕組みを使う。地域包括支援センター、社会福祉協議会、後見、死後事務。俺は、困ったときにどこに電話すればいいか知っている。お前は知っているか? 妻がいなくなったら、役所の書類一枚、自分で書けるのか?
まとめ:支援は、知っている人だけが使える
日常生活に不安や悩みがある人のうち、行政機関やNPOなどからの支援を受けていない人は87.0%(令和7年)。今は必要ないという人も多いが、いざというときに、どこに何があるかを知らなければ使えない。おひとりさまの老後を支えるサービスは、暮らし・お金・健康・もしもの4つの場面にわたって、公的なものと民間のものがある。
最初の相談先は、住んでいる地域の地域包括支援センターだ。まず公的な制度を使い、足りない部分を民間のサービスで補え。任意後見は元気なうちにしか結べない。民間のサービスは、費用の内訳、前払い金の管理、解約の条件を確かめ、一人で決めずに相談してから契約しろ。サービスの中身と費用は、自治体と事業者で大きく違うので、必ず窓口で確認してほしい。
困る前に、扉の場所を知っておけ。末代で何が悪い。
よくある質問
おひとりさまの老後で、最初に相談する窓口は?
住んでいる地域の地域包括支援センターだ。高齢者の介護、健康、生活の困りごと、権利を守る相談まで、まとめて受け付けている。介護保険の申請の手伝いや、ほかのサービスへのつなぎもしてくれる。
お金の管理が不安になったら、どんな支援がある?
社会福祉協議会の日常生活自立支援事業で、福祉サービスの利用の手続きや、日常のお金の出し入れを手伝ってもらえる。判断能力が大きく落ちた場合は、成年後見制度(任意後見・法定後見)を使う。
一人暮らしの高齢者が使える生活の支援は?
介護保険の訪問介護やデイサービス、自治体の配食サービスや見守り事業、民間の家事代行、配食、移動の支援などがある。要介護認定を受けていなくても使えるサービスもある。
亡くなったあとのことを頼めるサービスは?
死後事務委任契約(弁護士、司法書士、専門の事業者など)、身元保証サービスに含まれる死後事務、遺品整理の事業者、一部の自治体の終活支援事業などがある。契約の内容と費用を必ず確かめたい。
民間のサービスを選ぶときの注意は?
費用の内訳、前払い金や預託金の管理方法、解約の条件、事業者の実績を確かめることだ。急かされても即決せず、地域包括支援センターや消費生活センター(188)に相談するといい。
出典・参考資料
- 内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)」(行政機関・NPO等からの支援の状況)
- 厚生労働省「地域包括支援センターの概要」「日常生活自立支援事業」「介護保険制度の概要」
- 法務省「成年後見制度・任意後見制度」
- 内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)