おひとりさま老後と終活 / LATER LIFE

おひとりさまの相続対策。財産は誰に行く?

1,015億円相続人不存在などで国庫に入った遺産(2023年度、報道による)
0きょうだい・甥姪の遺留分(遺言で自由に残せる)
3,900円自筆証書遺言を法務局に預ける手数料

独身のまま、50年、60年と働いて貯めた財産。預金、証券、持ち家。自分が死んだら、これは誰のものになるのか。何年も会っていないきょうだいか。顔も覚えていない甥か。それとも、誰のものにもならず、国に入るのか。

家族のいる男は、「財産は妻と子供に行く」と考えて、何もしない。だが、遺言がないまま亡くなれば、残された妻と子供、ときには前妻の子まで加わって、遺産分割の話し合いが始まる。家庭裁判所の遺産分割の事件は、毎年たくさん申し立てられている。財産を残すことが、家族の争いの種になる。

おひとりさまは、遺言さえあれば、財産の行き先を、ほぼ完全に自分で決められる。この記事では、おひとりさまの財産が誰に行くのかを相続の順番から確かめ、いとこ、国庫、遺留分、税金の基本を整理し、遺言で行き先を決める方法をまとめた。

この記事の結論

  1. 遺言がなければ、財産は親→きょうだい→甥・姪の順に相続される
  2. いとこは相続人にならない。残したいなら遺言で遺贈する
  3. 相続人がいなければ国庫へ。国庫に入った遺産は2023年度に1,015億円余りとされる
  4. きょうだいと甥・姪には遺留分がない。遺言で誰にでも残せる
  5. 公正証書遺言か法務局の保管制度で遺言を作り、遺言執行者を決めろ

財産は、誰に行くのか

遺言がない場合、財産は法定相続人が相続する。配偶者も子もいないおひとりさまの場合、法定相続人は次の順番で決まる。

おひとりさまの法定相続人の順番
順番相続人遺留分相続税の2割加算
第2順位親(直系尊属)。親が亡くなっていれば祖父母あり(財産の3分の1)なし
第3順位きょうだいなしあり
(代襲)きょうだいが先に亡くなっていれば、その子(甥・姪)なしあり
相続人なし相続財産清算人の手続きを経て、特別縁故者への分与、残りは国庫――

配偶者と子(第1順位)がいないので、まず親、親がいなければきょうだい、きょうだいが亡くなっていれば甥・姪だ。甥・姪の子(大甥・大姪)は代襲相続しない。多くのおひとりさまは、親が先に亡くなるので、最終的にはきょうだいか甥・姪が相続人になることが多い。

いとこは、相続人にならない

親しくしているのが、きょうだいよりいとこだ、というおひとりさまもいるだろう。だが、いとこは法定相続人ではない。どれほど親しくても、遺言がなければ、いとこに財産は行かない。

いとこに財産を残したいなら、遺言で「いとこの〇〇に遺贈する」と書くしかない。相続人が一人もいない場合は、生前に療養看護をしていたなど特別な関係があれば、いとこが家庭裁判所に申し立てて特別縁故者として財産の分与を受けられることもある。だが、それは裁判所の判断次第で、時間もかかる。確実に残したいなら、遺言だ。

同じことは、友人、長年のパートナー、世話になった人にも言える。彼らは法定相続人ではない。遺言がなければ、一円も残せない。

相続人がいなければ、財産は国庫に入る

法定相続人が一人もいない、または全員が相続を放棄した場合、家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が、借金や未払いの費用を支払い、特別縁故者への分与を行う。そして、残った財産は国庫に帰属する。

相続人不存在などで国庫に入った遺産

Fig. 01
出典:最高裁判所の集計にもとづく報道による。2022年度は2023年度の値と前年度比32%増から算出した概数

最高裁の集計にもとづく報道によると、相続人がいないなどの理由で国庫に入った遺産は、2023年度に1,015億円余りで、初めて1千億円を超えたとされる。前年度より約3割増えた。おひとりさまが増えるにつれて、誰にも渡らずに国に入る財産も増えている。

国庫に入ることが悪いわけではない。だが、世話になった人や、応援したい活動に残したかったのに、遺言がなかったために国に入るのは、本人の望みではないはずだ。自分の財産の行き先を、国の手続きに任せるか、自分で決めるか。それを分けるのは、遺言があるかどうかだけだ。

きょうだい・甥姪には、遺留分がない

おひとりさまの相続で、最も知っておくべきことがこれだ。きょうだいと甥・姪には、遺留分がない。

遺留分とは、一定の相続人に保障された最低限の取り分だ。配偶者、子、親には遺留分がある。だから、子のいる人が「全財産を友人に」と遺言を書いても、子は遺留分を請求できる。だが、きょうだいと甥・姪には遺留分がない。

つまり、相続人がきょうだいや甥・姪だけのおひとりさまは、遺言で、財産を誰にでも、どんな割合でも残せる。世話になった友人に全部、応援している団体に半分、甥に家を。自分の意思どおりに、自由に決められる。家族のいる人には、ない自由だ。

親が健在なら、遺留分に注意

親が生きている間は、親が相続人で、親には財産の3分の1の遺留分がある。親より先に亡くなる可能性も考えて遺言を作るなら、親の遺留分に配慮した内容にするか、専門家に相談しておくといい。

相続税の基本

相続税は、遺産の総額が基礎控除を超えた場合にかかる。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」だ。

法定相続人の数と相続税の基礎控除

Fig. 02
出典:国税庁「相続税の基礎控除」をもとに編集部が作成
  • 基礎控除以下なら、相続税はかからない:多くのおひとりさまは、ここに収まる
  • きょうだい、甥・姪、友人などが受け取ると、相続税額が2割加算される
  • 相続人でない人への遺贈には、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)は使えない
  • 国や地方公共団体、一定の公益法人などへの遺贈は、相続税がかからないことがある

持ち家や大きな資産があるおひとりさまは、税理士に相続税の見込みを確かめておけ。遺言の内容によって、相続人や受け取る人の税金が変わることがある。

遺言の作り方

おひとりさまに向いた遺言の作り方
方式作り方長所注意点
公正証書遺言公証役場で、公証人が作る形式の不備で無効になりにくい。原本が公証役場に保管される公証人の手数料がかかる。証人2人が要る(公証役場で紹介を受けられることも)
自筆証書遺言(法務局の保管制度)自分で書き、法務局に預ける手数料は3,900円。家庭裁判所の検認が不要。死亡時に指定した人に通知できる形式の不備で無効になるおそれ。内容の相談はできない

おひとりさまには、公正証書遺言をすすめたい。公証人が関わるので、形式の不備で無効になりにくく、本人が亡くなったあとに遺言を探してもらう心配も少ない。費用を抑えたいなら、自筆証書遺言を法務局に預ける保管制度もいい。法務局の保管制度では、本人が亡くなったときに、あらかじめ指定した人に、遺言が保管されていることを通知する仕組みもある。

遺言に書いておくこと

  1. 財産を誰に、何を、どれだけ残すか預金、証券、不動産、それぞれの行き先。
  2. 家をどうするか誰かに残すか、売って代金を分けるか(清算型遺贈)。
  3. 遺言執行者を指定する遺言の内容を実行する人。手続きに詳しい専門家か、信頼できる人。
  4. 死後事務の費用の扱い葬儀や片づけの費用を、財産から払うことを書いておく。
  5. 予備的な指定受け取る人が先に亡くなった場合に、誰に渡すかも書いておく。

特に遺言執行者は必ず指定しろ。おひとりさまの遺言は、遺言を実行してくれる家族がいない。遺言執行者がいれば、預金の解約、不動産の売却や登記、受け取る人への引き渡しまで進めてもらえる。死後事務を頼んだ人と同じ人にすると、葬儀から財産の分配まで、一つの流れで任せられる。

誰に残すかを、考えてみろ

  • 世話になった親族:甥や姪、いとこ。特に、老後の手助けを頼む人
  • 友人やパートナー:法定相続人でない人には、遺言でしか残せない
  • 死後事務や後見を頼んだ人:報酬とは別に、感謝として残すこともできる
  • 応援している団体や活動:NPO、母校、研究機関、地域。遺贈寄付
  • 自治体:住んでいた町に寄付する

遺贈寄付をするなら、寄付先に事前に受け入れの条件を確かめておけ。不動産のままの寄付は受け付けない団体が多い。「売って現金にしてから寄付する」形にしておくと、受け入れてもらいやすい。

遺言は、何度でも書き直せる

遺言は、一度書いたら終わりではない。財産が増えたり減ったりする、残したい相手が変わる、頼んだ遺言執行者が引退する。そういうときは、新しい遺言を作り直せばいい。遺言は、いつでも撤回でき、内容が食い違う場合は日付の新しいものが優先される。

  • 受け取る人が先に亡くなった:その人に残す部分は効力を失う。予備的な指定がなければ書き直す
  • 家を売った、住み替えた:家についての内容を見直す
  • 新しく世話になる人ができた:その人への遺贈を加える
  • 寄付先の団体が変わった:寄付先を変える

おすすめは、5年ごと、または大きな変化があったときに見直すことだ。そして、書き直せるのは判断能力があるうちだけだ。認知症が進んでからの書き直しは、無効だと争われるおそれがある。70代の前半までに、最終版の遺言を作っておくつもりでいろ。早めに作り、こまめに直す。それがいちばん確実だ。

借金がある場合は

財産だけでなく、借金やローンも相続される。相続人は、相続を知ったときから原則3か月以内に、相続放棄や限定承認を選べる。おひとりさまに借金があると、きょうだいや甥・姪が、その手続きに追われることになる。

借金は生前に整理し、財産の一覧に借金も書いておけ。何も書いていなければ、相続人は財産と借金のどちらが多いかもわからず、判断に困る。

最期まで、財産の行き先を自分で決めろ

おひとりさまの相続対策の流れを、まとめておこう。

  1. 法定相続人を確かめる親、きょうだい、甥・姪。戸籍で確かめておくと確実だ。
  2. 財産の一覧を作る預金、証券、保険、不動産、借金。エンディングノートにも書く。
  3. 誰に何を残すかを決める相続人、友人、団体。遺留分は親にだけある。
  4. 遺言を作る公正証書遺言か、法務局の保管制度。遺言執行者を指定する。
  5. 保険の受取人をそろえる遺言の内容と、保険の受取人が食い違わないように。
  6. 遺言の存在を伝える遺言執行者、死後事務を頼んだ人、エンディングノートに。
  7. 数年ごとに見直す財産や人間関係が変わったら、遺言を書き直す。

財産の行き先を決めるおひとりさまと、争わせる既婚

財産の行き先を決めるおひとりさま

  • 公正証書遺言で、世話になった甥と団体に残す
  • 遺留分のない相続人なので、意思どおりに決められる
  • 遺言執行者と死後事務を、同じ専門家に頼んだ
  • 財産が、望まない形で国庫に入ることはない

「家族に行くから」と遺言を書かない既婚の男

  • 遺言がなく、遺産分割の話し合いが始まる
  • 家をどうするかで、子供同士が対立する
  • 前妻の子が現れ、相続人が増える
  • 財産を残したことが、家族の争いの種になる

家族のいる人の相続は、遺留分と相続人の多さで、思いどおりにならないことが多い。おひとりさまは、遺留分のない相続人しかいないことが多く、遺言さえあれば、財産の行き先をほぼ完全に自分で決められる。それは、家族を持たなかった男が手にする、最後の大きな自由だ。

「独身の財産は国に取られるだけだ」と言う奴へ

取られるのは、遺言を書かなかった場合だけだ。俺は遺言で、世話になった甥と、応援している団体に残すと決めた。きょうだいに遺留分はないから、誰にも文句は言わせない。お前の財産はどうだ? 遺言がなければ、子供たちが分け方で揉めるかもしれない。財産の行き先を決められないのは、むしろお前の方だ。

まとめ:財産の行き先は、遺言で自分が決めろ

おひとりさまの財産は、遺言がなければ、親、きょうだい、甥・姪の順に相続される。いとこ、友人、パートナーは相続人にならない。相続人が一人もいなければ、相続財産清算人の手続きを経て、最終的に国庫に入る。国庫に入った遺産は、2023年度に1,015億円余りと、初めて1千億円を超えたとされる。

きょうだいと甥・姪には遺留分がないので、相続人がきょうだいや甥・姪だけなら、遺言で財産を誰にでも自由に残せる。公正証書遺言か、法務局の保管制度で遺言を作り、遺言執行者を指定し、家の扱いと死後事務の費用も書いておけ。保険の受取人と遺言をそろえ、遺言の存在を頼んだ人に伝え、数年ごとに見直せ。相続や税金の扱いは個別の状況で大きく変わるので、公証役場や弁護士、司法書士、税理士などの専門家に確認してほしい。

自分が築いた財産の行き先は、最期まで自分で決めろ。末代で何が悪い。

よくある質問

独身者の財産は誰が相続する?

遺言がなければ、法定相続人が相続する。配偶者も子もいない場合、親が健在なら親、親がすでに亡くなっていればきょうだい、きょうだいが先に亡くなっていればその子(甥・姪)が相続人になる。

いとこは相続人になる?

ならない。いとこは法定相続人ではない。いとこに財産を残したいなら、遺言で遺贈する必要がある。相続人がいない場合、生前に療養看護をしていたなど特別な関係があれば、家庭裁判所に申し立てて特別縁故者として財産の分与を受けられることはある。

相続人がいないと、財産はどうなる?

家庭裁判所が選ぶ相続財産清算人が、債務の支払いや特別縁故者への分与を行い、残った財産は国庫に帰属する。最高裁の集計にもとづく報道では、相続人不存在などで国庫に入った遺産は、2023年度に1,015億円余りとされる。

遺言で、財産を誰にでも残せる?

親が相続人の場合、親には遺留分(最低限の取り分)がある。だが、きょうだいと甥・姪には遺留分がない。そのため、相続人がきょうだいや甥・姪だけなら、遺言で財産を誰にでも、どんな割合でも残せる。友人、団体、自治体への遺贈もできる。

おひとりさまの相続対策で、まずやることは?

自分の法定相続人を確かめ、財産の一覧を作り、誰に何を残したいかを決めて、遺言を作ることだ。公正証書遺言か、自筆証書遺言を法務局に預ける保管制度を使い、遺言執行者も指定しておく。

出典・参考資料

  1. 民法(法定相続人、代襲相続、遺留分)、裁判所「相続財産清算人の選任」「特別縁故者に対する相続財産分与」
  2. 国税庁「相続税の基礎控除」「相続税額の2割加算」
  3. 法務省「自筆証書遺言書保管制度」、日本公証人連合会「公正証書遺言」
  4. 最高裁判所の集計にもとづく、相続人不存在等で国庫に帰属した財産額の報道(2023年度)