おひとりさま老後と終活 / LATER LIFE

おひとりさまの死後事務委任契約。費用と依頼先

160万円死後事務にかかる費用のモデル(報酬・葬儀・納骨・片づけ)
5分野死後事務で頼める主な手続き
4つ依頼先の選択肢(親族・専門家・事業者・自治体など)

一人暮らしのおひとりさまが、亡くなった。そのあと、誰が何をするのか。警察から遺体を引き取り、火葬し、お骨を納める。役所に死亡届を出し、年金と健康保険を止める。賃貸の部屋を解約し、荷物を片づけ、電気やガスや携帯電話を止める。家族がいれば家族がやることを、誰もやる人がいない。

家族のいる男は、「死んだあとのことは家族がやってくれる」と何も決めない。だが、家族と疎遠なら、家族は遺体の引き取りを拒むこともある。家族が引き受けても、葬儀の希望も、契約しているサービスも何もわからず、何か月も手続きに追われる。

おひとりさまは、亡くなったあとのことを、生前に契約で頼んでおける。それが死後事務委任契約だ。この記事では、死後事務委任契約で頼める手続き、費用の考え方、依頼先の選び方、注意点を、国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」に沿ってまとめた。

この記事の結論

  1. 死後事務委任契約は、亡くなったあとの手続きを生前に頼んでおく契約だ
  2. 遺言では葬儀や片づけを頼めず、後見は亡くなると終わる。その空白を埋める
  3. 頼めるのは、葬儀・納骨、役所の届け出、住まいの片づけ、各種の解約、連絡
  4. 費用は報酬と実費。このモデルで約160万円。預託金の管理を必ず確かめろ
  5. 任意後見・遺言と同じ人にまとめて頼めば、引き継ぎに漏れがない

なぜ、死後事務委任契約が必要なのか

おひとりさまの終活では、遺言と任意後見が二本の柱になる。だが、この二つだけでは埋まらない空白がある。

遺言・任意後見・死後事務委任契約の役割の違い
書類・契約使われるときできることできないこと
任意後見契約判断能力が落ちたとき(生きている間)財産の管理、介護・施設・医療の契約亡くなったあとの手続き(原則として終わる)
遺言亡くなったとき財産の行き先、遺言執行者の指定葬儀・片づけ・解約などの手続きを法的に頼むこと
死後事務委任契約亡くなったとき葬儀、納骨、役所の届け出、片づけ、解約、連絡財産の行き先を決めること

後見人は、本人が亡くなると原則として仕事が終わる。遺言は財産の行き先を決めるもので、葬儀や部屋の片づけを頼む力はない。だから、亡くなった瞬間から、財産の分配が終わるまでの間の手続きを誰がやるのかが、空白になる。死後事務委任契約は、その空白を埋める契約だ。

死後事務委任契約で頼める手続き

国の「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」は、死後事務サービスとして、次のような事務を挙げている。

死後事務委任契約で頼める主な手続き
分野中身
1. 葬送遺体の引き取り、葬儀、火葬、埋葬・納骨、供養・法要
2. 行政の届け出死亡届の提出、年金の停止、健康保険・介護保険の資格喪失、税金の納付
3. 住まい賃貸住宅の契約の解除、部屋の明け渡し、遺品の整理
4. 各種の解約電気・ガス・水道などの公共料金、携帯電話、サブスク、クレジットカード
5. 連絡と支払い親族や友人への連絡、入院費や施設の利用料の精算

死亡届は、法律で届け出ができる人が決まっていて、親族や同居者のほか、家主、地主、家屋管理人、後見人、任意後見人なども届け出られる。死後事務を受任した人が自分で届け出られない場合もあるので、誰が死亡届を出すかも、契約のときに確かめておけ。

費用の考え方

死後事務委任契約の費用は、大きく2つに分かれる。

  • 受任者への報酬:手続きをしてもらう手間への対価。契約書の作成費用も含む
  • 実際にかかる費用(実費):葬儀、火葬、納骨、遺品整理、未払いの費用の精算など

死後事務にかかる費用のモデル

Fig. 01
編集部によるモデル。依頼先、葬儀の形、納骨先、部屋の広さと荷物の量によって大きく変わる。報酬の体系も依頼先ごとに違う

このモデルでは約160万円になる。葬儀を火葬のみにする、部屋の荷物を生前に減らしておく、などで費用は下がる。逆に、一般的な葬儀を望む、持ち家で荷物が多い、などの場合は上がる。自分の希望に合わせて、見積もりを取れ。

当サイトの老後資金のシミュレーションでは、介護・身元保証・死後事務の予備費として800万円程度を見ている。死後事務の費用は、その中に含めて考えればいい。

費用の支払い方:預託金

死後事務の費用は、本人が亡くなったあとに支払われる。そのため、生前に預託金を預けておくことが多い。国のガイドラインは、預託金について次のような点を示している。

  • 預託金の額と、その根拠を明らかにする:何にいくらかかる見込みかを説明する
  • 事業者の財産と分けて管理する:信託銀行や信託会社に預ける、弁護士などが関わる別の法人に管理を委託する、などの方法
  • 使われ方を報告する:預託金から何に支払ったかの明細
  • 残った預託金の扱いを決める:返還するのか、誰に返すのか

預託金を預ける代わりに、遺言で遺言執行者に、財産から死後事務の費用を払ってもらう方法もある。どちらにしても、費用の出どころを決めておかないと、受任者は動けない。

依頼先の選び方

死後事務の依頼先
依頼先長所注意点
親族(甥・姪など)・友人本人をよく知っている。報酬を抑えられる手続きの負担が大きい。相手が先に亡くなることも
弁護士・司法書士・行政書士手続きに詳しい。遺言執行や後見とまとめて頼める報酬がかかる。個人なら引退や死亡のリスク
身元保証・死後事務の事業者生前の身元保証から死後までまとめて頼める費用と預託金の管理を必ず確かめる。事業者の継続性
自治体・社会福祉協議会の支援費用が抑えられることがある対象に条件がある。地域によってない

選ぶときに大事なのは、「自分が亡くなるとき、その人や組織が確実に存在しているか」だ。同年代の友人や、高齢の専門家個人に頼むと、相手が先に亡くなったり、引退したりすることがある。自分より若い人か、法人として続く専門家の事務所や事業者を選ぶと安心だ。

任意後見・遺言と、まとめて頼め

死後事務委任契約は、任意後見契約と遺言とセットで考えるのが基本だ。

  1. 元気なうち:見守り・財産管理信頼できる人が、変化に気づき、手続きを手伝う。
  2. 判断能力が落ちたら:任意後見同じ人が任意後見人として、財産と契約を管理する。
  3. 亡くなったら:死後事務同じ人が、葬儀、届け出、片づけ、解約を行う。
  4. 財産の分配:遺言執行同じ人が遺言執行者として、遺言のとおりに財産を分ける。

これを一人の信頼できる人か、一つの専門家の事務所に頼めば、元気なうちから財産の分配が終わるまで、切れ目なく任せられる。引き継ぎのたびに情報が抜け落ちる心配もない。

契約に書いておくこと

  • 葬儀の形:一般葬、家族葬、火葬のみ。宗教・宗派。知らせる人
  • 納骨先:先祖の墓、永代供養墓、樹木葬、散骨。契約先
  • 住まい:賃貸の解約、持ち家の扱い(遺言執行者と連携)、荷物の処分と残す物
  • 解約するもの:公共料金、携帯電話、サブスク、カード。エンディングノートの一覧を参照
  • 連絡する人:亡くなったことを知らせてほしい人の一覧
  • ペット:引き取り先
  • デジタル:スマホやパソコンの中身、SNSのアカウントの扱い
  • 費用の支払い方:預託金か、遺言執行で財産から払うか

契約は、公正証書にしておくと、内容がはっきりし、後で争いになりにくい。そして、エンディングノートに契約先と契約書の保管場所を書き、緊急連絡先の人にも伝えておけ。契約があっても、亡くなったことが受任者に伝わらなければ、何も始まらない。

ペットを飼っているなら

一人暮らしでペットを飼っているおひとりさまは、ペットのことも決めておけ。飼い主が亡くなったとき、ペットは誰にも気づかれずに部屋に残されることがある。引き取ってくれる人や施設を決め、そのための費用も用意し、死後事務の契約に書いておく。ペットの世話を頼むための信託の仕組みを用意している専門家もいる。自分より長生きするかもしれない家族の行き先を、自分で決めておくのが飼い主の責任だ。

亡くなったことが、受任者に伝わる仕組みを

死後事務委任契約で見落とされがちなのが、本人が亡くなったことを、受任者がどうやって知るかだ。一人暮らしの部屋で亡くなれば、受任者は何日も知らないままかもしれない。

  • 見守りサービスの通知先に受任者を入れる:異変があれば、受任者に連絡が行く
  • 緊急連絡先を受任者にする:病院や警察から、受任者に連絡が来る
  • 財布やスマホに受任者の連絡先を入れる:外出先で倒れたときのために
  • 自治体の終活情報の登録:制度があれば、受任者の情報を登録する

死後事務は、生前に減らせる

死後事務の費用と手間は、生前の準備で大きく減らせる。頼む人の負担を軽くすることは、費用を下げることでもある。

  • 物を減らす:遺品整理の費用は、荷物の量で大きく変わる。元気なうちに減らしておく
  • 口座とカードをまとめる:解約の手続きが減る
  • 使っていないサブスクを今解約する:死後に解約するより、今やる方がずっと簡単だ
  • 葬儀と納骨を生前に契約しておく:受任者は、契約先に連絡するだけで済む
  • 持ち家なら、行き先を遺言で決める:売却か、誰かに残すか。決まっていないと片づけも売却も止まる

死後事務を頼む前に、自分でできる片づけは自分でやっておけ。それが、受任者への最大の思いやりであり、費用の節約でもある。

見積もりの取り方

  1. 頼みたいことを一覧にする葬儀の形、納骨先、住まい、解約するもの、連絡する人。
  2. 複数の依頼先に見積もりを取る専門家の事務所と事業者を、少なくとも2〜3か所比べる。
  3. 報酬と実費を分けて出してもらう総額だけでなく、何にいくらかかるのか。
  4. 預託金の額と管理方法を書面で確かめる口頭の説明だけで決めない。
  5. 急かされたら、その場で決めない「今だけ」「すぐに契約を」と言う依頼先は避ける。

見積もりを比べると、同じ内容でも依頼先によって費用が大きく違うことがわかる。安ければいいわけではないが、相場を知らずに一社で決めるのは危ない。比べて、納得してから契約しろ。

死後事務委任契約の注意点

  • 判断能力があるうちに結ぶ:認知症が進んでからでは結べない
  • 費用の内訳と預託金の管理を確かめる:事業者の財産と分けて管理されているか
  • 寄付や遺贈を条件にする契約は避ける:国のガイドラインも、避けることが重要だとしている
  • 解約の条件を確かめる:途中で解約したとき、預託金や費用がどうなるか
  • 相続人との関係:相続人がいる場合、死後事務の内容が相続人の権利とぶつからないよう、遺言と合わせて整理する
  • 一人で決めない:契約の前に、地域包括支援センターや専門家に相談する

死後事務を頼んでおくおひとりさまと、丸投げの男

死後事務を頼んでおくおひとりさま

  • 葬儀、納骨、片づけ、解約を、公正証書で頼んである
  • 預託金は信託で管理され、使い道の報告もある
  • 任意後見と遺言執行も、同じ事務所にまとめた
  • 見守りの通知先に、受任者を入れてある

「家族がやる」と丸投げする既婚の男

  • 葬儀の希望も、納骨先も、誰にも伝えていない
  • 疎遠な家族が、遺体の引き取りに困る
  • 家族は、どのサービスを解約すればいいかわからない
  • 後始末に、家族が何か月も追われる

亡くなったあとの手続きは、誰かが必ずやらなければならない。家族がいれば家族が、いなければ自治体や家主が。おひとりさまは、それを自分が選んだ人に、自分の希望どおりにやってもらえるように、生前に決めておける。それは、誰にも迷惑をかけない、一人で生きる男の最後の段取りだ。

「独身が死んだら、誰が始末するんだ」と言う奴へ

始末する人は、もう契約で決めてある。葬儀の形も、納骨先も、部屋の片づけも、解約するサブスクも、全部書いてある。お前の始末は誰がやる? 家族がやるなら、家族はお前の希望を知っているか? 何も決めずに家族に丸投げすることを、俺は始末とは呼ばない。

まとめ:亡くなったあとのことは、生前に頼んでおけ

死後事務委任契約は、亡くなったあとの葬儀・納骨、役所の届け出、住まいの片づけ、各種の解約、連絡を、生前に頼んでおく契約だ。遺言では手続きを頼めず、後見は亡くなると終わる。その空白を埋めるのが死後事務委任契約だ。

費用は受任者への報酬と実費で、このモデルでは約160万円。預託金を預けるなら、額の根拠、事業者の財産と分けた管理、使い道の報告、残りの扱いを確かめろ。依頼先は、自分が亡くなるときに確実に存在している人や組織を選び、任意後見・遺言執行とまとめて頼め。そして、亡くなったことが受任者に伝わる仕組みを作れ。費用や契約の内容は依頼先ごとに大きく違うので、複数の見積もりを取り、専門家に相談してから契約してほしい。

自分の後始末は、自分で頼んでおく。末代で何が悪い。

よくある質問

死後事務委任契約とは?

自分が亡くなったあとの事務手続き(葬儀・火葬・納骨、役所への届け出、賃貸の解約と片づけ、公共料金や携帯電話の解約、関係者への連絡など)を、生前に信頼できる人や専門家、事業者に頼んでおく契約だ。

遺言や後見と何が違う?

遺言は財産の行き先を決めるもので、葬儀や片づけなどの手続きを頼むことはできない(遺言に書いても法的な拘束力は限られる)。後見は本人が亡くなると原則として終わり、後見人は死後の手続きを基本的に行えない。死後事務委任契約は、その空白を埋める。

死後事務委任契約の費用は?

依頼先への報酬と、実際にかかる費用(葬儀、火葬、納骨、遺品整理など)がある。内容によって大きく変わるが、この記事のモデルでは約160万円とした。費用の支払いのために、預託金を預けることが多い。

死後事務は誰に頼めばいい?

親族や友人、弁護士・司法書士などの専門家、身元保証や死後事務の事業者、一部の自治体や社会福祉協議会の支援などがある。若くて長く頼める人か、組織として続く専門家・事業者を選ぶと安心だ。

死後事務委任契約で気をつけることは?

頼む内容を具体的に決めること、費用の内訳と預託金の管理方法を確かめること、遺言執行者や任意後見人と連携させること、寄付や遺贈を契約の条件にされないこと、そして契約の存在をエンディングノートなどで伝えておくことだ。

出典・参考資料

  1. 内閣官房ほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」(2024年6月)
  2. 法務省「死亡届」(届出義務者・届出資格者)、「成年後見制度」
  3. 日本公証人連合会「公正証書」
  4. 費用は、編集部によるモデル