おひとりさま老後と終活 / LATER LIFE

おひとりさまの老後移住。国内・海外のおすすめ先

4タイプ老後移住の先(地方都市・温泉地・海辺の町・海外)
7万円/月東京の賃貸と地方都市の生活費の差の目安(モデル)
1年移住の前に短期滞在で試したい期間(夏と冬)

定年を迎えた朝。満員電車に乗る必要は、もうない。「この街に住み続ける理由は、何だろう」。通勤のために選んだ街だった。もう、どこに住んでもいい。温泉の町、海の見える町、物価の安い地方都市、南国の海外。老後に住む場所を、ゼロから選び直せる。

家族のいる男は、「妻は友達と離れたくないと言う」「子供と孫の近くにいたい」「親の介護がある」。老後に住む場所も、家族の事情で決まる。住みたい場所があっても、言い出せずに終わる。

おひとりさまは、誰にも相談せずに、住む場所を決められる。この記事では、老後移住の先を地方都市・温泉地・海辺の町・海外の4つのタイプに分けて比べ、生活費のモデル、移住で失敗しないための試し方、年金・健康保険・住民票の手続きまでまとめた。

この記事の結論

  1. 老後移住は、家族に縛られないおひとりさまの特権だ
  2. 住居費と物価が下がれば、同じ年金でゆとりのある暮らしができる
  3. 失敗の多くは、孤立・車社会・医療の遠さ・気候のギャップ
  4. 移住の前に、短期滞在で夏と冬の両方を経験しろ
  5. 海外は、健康保険と医療、言葉、為替を十分に調べてから

なぜ、老後に移住するのか

老後に移住する理由は、人によって違う。

  • 生活費を下げたい:家賃と物価が安い地方なら、同じ年金でゆとりのある暮らしができる
  • 好きな環境で暮らしたい:温泉、海、山、温暖な気候
  • 人生の最後の章を、新しい土地で始めたい:知らない町で、新しい日常を作る
  • 都会の混雑から離れたい:静かで、ゆっくりした暮らし

家族のいる高齢者が移住するには、配偶者の同意が要る。子供や孫の近く、配偶者の友人の近く。住む場所は、家族の事情の妥協点で決まる。おひとりさまは、自分の好みだけで決められる。老後移住は、おひとりさまが最も自由を発揮できる選択の一つだ。

老後移住の4つのタイプ

老後移住の4つのタイプ
タイプ魅力注意点
地方の中核都市病院・商業施設がそろい、家賃が安い。歩いて暮らせる中心部がある中心部から外れると車社会。知り合いがいない
温泉地毎日温泉に入れる。観光客向けの店が多い坂が多い。冬の寒さ。観光の閑散期は店が閉まる
海辺の町海の景色と魚。温暖な地域も多い津波や高潮の危険。湿気と塩害。小さな町は医療が遠い
海外物価の安い国や、温暖な気候。新しい文化健康保険と医療、言葉、ビザ、為替、治安、家族から遠い

おひとりさまの老後移住で、いちばん失敗が少ないのは、地方の中核都市の中心部だ。病院と買い物と交通がそろっていて、車がなくても暮らせる。温泉地や海辺の町は魅力的だが、小さな町ほど医療と交通が弱い。海外は、いちばん自由で、いちばんリスクが大きい。

移住で、生活費はどれだけ下がるか

おひとりさまの1か月の生活費(モデル)

Fig. 01
編集部によるモデル。家賃と生活費は地域や暮らし方で大きく変わる。小さな町では車の維持費がかかることが多く、それを生活費に含めている

このモデルでは、東京で賃貸に住むと月22万円、地方の中核都市なら月15万円。月7万円、年84万円の差だ。年金の手取りが月15万円なら、地方の中核都市では年金だけでほぼ暮らせる。東京では、毎月7万円を資産から取り崩すことになる。

ただし、小さな町ほど安くなるわけではない。車がないと暮らせない地域では、車の維持費(ガソリン、保険、車検、駐車場)がかかる。そして、80代で車を手放したら、暮らせなくなる。生活費の安さだけで選ぶと、あとで困る。

老後移住で失敗する5つの原因

老後移住の失敗の原因と対策
失敗の原因対策
知り合いがいなくて孤立する移住前から地域の集まりや趣味の場を調べる。通う場所を三つ作る
車がないと暮らせない中心部の、歩いて暮らせる場所を選ぶ
病院が遠いかかりつけ医と大きな病院の場所と距離を確かめる
気候が想像以上夏と冬の両方を、短期滞在で経験する
地域の人間関係になじめない小さな集落より、人の出入りがある中核都市を選ぶ

おひとりさまの移住でいちばん怖いのは、孤立だ。東京では、長年の友人や行きつけの店があった。移住先には、何もない。新しい土地で一から居場所を作るのは、思ったより大変だ。内閣府の孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)では、気軽に話せる相手がいない人の25.0%が孤独を強く感じていた。移住で孤独を手に入れては、元も子もない。

移住の前に、試してから決めろ

老後移住で失敗しないいちばんの方法は、移る前に試すことだ。

  1. 旅行で何度か訪れる観光地としてではなく、暮らす目で見る。スーパー、病院、駅、住宅地を歩く。
  2. 1か月の短期滞在をするマンスリーマンションや長期滞在向けの宿で、暮らすように過ごす。
  3. 夏と冬の両方を経験する温暖なイメージの土地も、冬は寒いことがある。雪国の冬、南国の夏の暑さと湿気。
  4. 地域の集まりに顔を出す短期滞在中に、サークルや地域の行事に参加してみる。
  5. 自治体の移住相談を使う移住の相談窓口や、お試し住宅を用意している自治体もある。

現役のうちにワーケーションで試すのもいい。平日は働きながら、候補の町で1週間、2週間と暮らしてみる。独身の男は、家族の都合を気にせずに、何度でも試せる。

国内移住:選び方のポイント

  • 中心部の、歩いて暮らせる場所:駅、病院、スーパーが徒歩圏
  • 医療:かかりつけ医と、救急対応のある大きな病院が近いか
  • 交通:東京や大きな都市に出やすいか。友人に会いに行ける、来てもらえる
  • 災害:ハザードマップで、津波、浸水、土砂災害を確かめる
  • 自治体の高齢者向けサービス:見守り、配食、地域包括支援センター
  • 賃貸の物件:高齢者が借りられる物件があるか。地方は単身向けの賃貸が少ないこともある

地方は、単身向けの賃貸物件が少ないことがある。家族向けの一戸建てやアパートが中心で、一人向けの手ごろな部屋が見つかりにくい。物件探しも、短期滞在中に地元の不動産会社で相談しておけ。

温泉地と海辺の町を選ぶなら

毎日温泉に入れる暮らし、窓から海が見える暮らし。老後移住の憧れの上位に来るのが、温泉地と海辺の町だ。おひとりさまにとって、毎日の温泉は体を温め、常連と顔なじみになれる居場所になり、海辺の散歩は毎日歩く理由になる。

だが、選ぶときは、観光で訪れたときとは別の目で見る必要がある。

  • 坂と階段:温泉地は山あいの斜面にあることが多い。80代でその坂を上れるか
  • 観光の閑散期:観光客の少ない季節は、店が閉まり、町が静まり返ることがある
  • 医療:小さな温泉地や漁港の町は、大きな病院が遠いことがある
  • 津波と高潮:海辺の町は、ハザードマップで津波の想定を必ず確かめる
  • 湿気と塩害:海の近くは、建物や家電の傷みが早いことがある

おすすめは、温泉や海のある、ある程度の規模の町の中心部だ。日帰り温泉や海岸の遊歩道に歩いて行けて、病院とスーパーもそろっている。憧れと暮らしやすさの両方を満たす場所を探せ。

移住先で、居場所を作る

移住がうまくいくかどうかは、最初の1年で居場所を作れるかで決まる。

  1. 毎日通う場所を三つ決める朝の喫茶店、昼の散歩道、夕方の温泉や図書館。同じ時間に通えば、顔を覚えられる。
  2. 地域の集まりに一つ入る公民館のサークル、町内会、ボランティア。移住者を歓迎する集まりもある。
  3. 移住者同士でつながる同じように移ってきた人とは、話が合いやすい。
  4. 東京の友人を呼ぶ移住先に遊びに来てもらえば、古いつながりも続く。

移住先でも、地域包括支援センターの場所は最初に調べておけ。新しい土地で困ったとき、最初に相談できる窓口だ。

海外移住:自由と、大きなリスク

物価の安い東南アジアの都市、温暖なオーストラリアやハワイ、ヨーロッパの町。海外で老後を過ごすことに憧れるおひとりさまもいるだろう。海外移住は、いちばん自由で、いちばんリスクが大きい選択だ。

海外移住で確かめること
項目確かめること
ビザ長期滞在できるビザの条件(年齢、収入、預金額など)。国によって大きく違い、変わることもある
健康保険と医療日本の国民健康保険の扱い、現地の医療保険、民間の保険。医療費の水準と医療の質
年金日本の公的年金は海外でも受け取れる。受け取りの手続きと方法、為替の影響
税金日本と現地の税金の扱い。年金への課税
言葉病院、役所、契約で困らないか
治安と政治治安、政治の安定、自然災害
帰国の道介護が必要になったとき、日本に戻るのか、現地で過ごすのか

特に大きいのが健康保険と医療だ。日本に住民票がなくなると、原則として国民健康保険の対象外になる。現地の医療保険や民間の保険で備える必要があるが、高齢になるほど民間の保険に入りにくく、保険料も高くなる。医療費が非常に高い国もある。

そして、介護が必要になったときどうするかも考えておけ。現地で介護を受けるのか、日本に戻るのか。日本に戻るなら、住まいと介護の手配を、誰がするのか。海外移住は「行く」より「最後をどうするか」を先に考えろ。

海外は、まず「長期滞在」から

いきなり住民票を移して移住するのではなく、長期滞在(ロングステイ)から始めるのが安全だ。

  • 1〜3か月の滞在を繰り返す:日本に住民票を残したまま、冬の間だけ温暖な国に住む、など
  • 海外旅行保険で備える:滞在中の病気やけがに
  • 日本の住まいはそのまま:合わなければ、すぐに戻れる
  • 現地の日本人コミュニティを調べる:困ったときに相談できる人

長期滞在を何度か繰り返して、「ここなら最後まで暮らせる」と確信できたら、本格的な移住を考えればいい。日本と海外を行き来する二拠点の暮らしも、おひとりさまならではの選択肢だ。

移住のときの手続き

  1. 住民票の異動国内なら転出・転入の届け出。海外なら転出届(住民票がなくなる)。
  2. 年金国内の移住なら住所の変更は原則として自動。海外なら日本年金機構で受け取りの手続きを確かめる。
  3. 健康保険と介護保険国内なら新しい市区町村の国民健康保険と介護保険へ。海外なら現地の保険を用意する。
  4. かかりつけ医の引き継ぎ紹介状と、服薬や持病の記録を持っていく。
  5. 緊急連絡先と見守り新しい土地でも、倒れたときに気づいてもらえる仕組みを作る。
  6. 遺言や契約の見直し遺言執行者、死後事務を頼む人に、新しい住所を伝える。

移住は、60代前半から半ばまでに

老後移住は、体力と気力があるうちにすべきだ。新しい土地で居場所を作る、物件を探す、手続きをする。70代、80代になってからでは、どれも大変になる。

目安は、60代前半から半ばだ。定年を迎え、まだ体が動くうちに移り、新しい土地で10年、20年かけて根を下ろす。そうすれば、80代になっても、その土地で顔なじみに囲まれて暮らせる。

住む場所を選ぶ独身と、選べない既婚

老後の住まいを選ぶおひとりさま

  • 候補の町で、夏と冬に1か月ずつ暮らしてみた
  • 病院と商店街が近い中心部の部屋に移った
  • 生活費が月7万円下がり、年金でほぼ暮らせる
  • 毎朝の温泉と喫茶店が、新しい居場所になった

住む場所を選べない既婚の男

  • 海の近くに住みたいと言い出せない
  • 妻の友人と子供の家の近くから動けない
  • 通勤のために選んだ街に、そのまま残る
  • 老後の住まいも、家族の妥協点で決まる

もちろん、家族と話し合って移住を楽しむ夫婦もいる。だが、住みたい場所を、自分の好みだけで選べるのは、おひとりさまの大きな特権だ。人生の最後の章を、どこで過ごすか。それを自分で決められることの価値は、計り知れない。

「独身で知らない土地に移るなんて、寂しいだろう」と言う奴へ

寂しくならないように、何度も通って試した。新しい町でも、毎朝の喫茶店と夕方の温泉で、顔なじみができた。お前は、住みたい場所があっても、家族に言い出せずに通勤の街に残るんだろう? 知らない土地で始める寂しさと、行きたい場所に行けない寂しさ。どっちが重い?

まとめ:試してから、移れ

老後に住む場所を変えるのは、家族に縛られないおひとりさまの特権だ。地方の中核都市、温泉地、海辺の町、海外の4つのタイプがあり、住居費と物価が下がれば、同じ年金でゆとりのある暮らしができる。このモデルでは、東京の賃貸と地方の中核都市で、生活費は月7万円違う。

失敗の原因は、孤立、車社会、医療の遠さ、気候のギャップ、地域の人間関係だ。移る前に短期滞在で夏と冬を経験し、中心部の歩いて暮らせる場所を選べ。海外は、ビザ、健康保険と医療、年金、税金、言葉、そして介護が必要になったときの帰国の道を先に考え、長期滞在から始めろ。移住は、体力のある60代前半から半ばまでに。ビザや保険、税金の制度は国や時期で変わるので、公的機関で最新の情報を確認してほしい。

人生の最後の章を、自分で選んだ土地で始めろ。末代で何が悪い。

よくある質問

おひとりさまの老後移住のおすすめ先は?

人によるが、病院と買い物に歩いて行ける地方の中核都市、日帰り温泉のある温泉地、海の見える小さな町、物価の安い海外の都市などがある。大事なのは、車がなくても暮らせること、医療が近いこと、一人で入れる店や居場所があることだ。

老後に地方へ移住するメリットは?

家賃や物価が安く、同じ年金でゆとりのある暮らしができること、自然が近いこと、混雑が少ないことだ。おひとりさまは家族の事情に縛られないので、住みたい土地を自由に選べる。

老後移住で失敗する原因は?

知り合いがいなくて孤立する、車がないと暮らせない、病院が遠い、冬の寒さや夏の暑さが想像以上、地域の人間関係になじめない、などだ。移住の前に、短期滞在で夏と冬の両方を経験するといい。

海外に移住しても年金はもらえる?

日本の公的年金は、海外に住んでいても受け取れる。ただし、手続きや受け取りの方法、為替の影響、現地の税金の扱いを確かめる必要がある。日本年金機構に相談するといい。

海外移住で健康保険はどうなる?

日本に住民票がなくなると、原則として国民健康保険の対象外になる。現地の医療保険や民間の保険で備える必要がある。高齢になるほど民間の保険に入りにくく、医療費が高い国もあるので、事前に十分に調べるべきだ。

出典・参考資料

  1. 日本年金機構「海外に住んでいる方の年金の受給」
  2. 厚生労働省「国民健康保険の資格(海外転出)」
  3. 外務省「海外安全ホームページ」、各国大使館のビザの案内
  4. 内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年)」
  5. 生活費は、編集部によるモデル