真冬の午後、温室の扉を開ける。湿った暖かい空気が顔を包み、眼鏡が一瞬で曇る。見上げると、巨大な葉を広げたヤシの木、天井まで伸びるつる植物、見たこともない色の花。外は冬の東京なのに、扉一枚の向こうは熱帯のジャングルだ。
植物園は、年寄りか、子供の自然観察の場所だと思われている。休日の男が一人で行く場所ではない、と。家族持ちの男は、そもそも植物園に行く発想がない。休日の家族の行き先は、子供が走り回れる大型の公園と、混んだショッピングモールだ。
だが、植物園は、東京でいちばん安く、いちばん静かに、緑に沈める場所の一つだ。この記事では、男一人で行ける東京の植物園と温室、料金、季節の楽しみ方、そして植物園での過ごし方までまとめた。料金や開園日は変わるので、行く前に公式サイトで確認してほしい。
この記事の結論
- 植物園は数百円で入れる、東京でいちばん安く静かな場所の一つ
- 夢の島熱帯植物館は250円、神代植物公園と新宿御苑は500円
- 冬は温室がいい。扉一枚で、東京から熱帯へ行ける
- 自然の中で週に2時間過ごす人ほど、健康と幸福感が高いという研究がある
- 植物に詳しくなくていい。ベンチを一つ決めて、緑の中でぼんやりしろ
なぜ、植物園に一人で行くのか
植物園に一人で行く理由は、東京の中で、緑に囲まれて静かに過ごせる場所だからだ。公園も緑は多いが、休日は家族連れやジョギングの人、バーベキューの集団で賑やかだ。植物園は、入園料がかかるぶん人が少なく、来ている人も静かに植物を見ている。
そして、植物園は一人で行きやすい。一人で写真を撮りに来る人、スケッチをする人、ベンチで本を読む人。客の多くが一人か、静かな二人連れだ。遊園地や水族館のように、家族連れとカップルの中で一人が目立つこともない。
何より、植物は急かさない。動物のように動かないし、ショーの時間もない。ただそこに生えている。その前で、自分のペースで、好きなだけ過ごせばいい。
自然の中で過ごす時間と、健康
自然の中で過ごすことには、心と体を休める効果があるとされる。イギリスで約2万人を調べた研究(Whiteら、2019年)では、1週間に合計120分以上を自然の中で過ごした人は、まったく過ごさなかった人に比べて、健康状態がよい、幸福感が高いと答える人の割合が高かった。一度に長く過ごす必要はなく、週の合計で120分ほどあればよかった。
東京に住む男は、自然の中で過ごす時間が極端に少ない。平日は会社と家の往復で、休日もビルの中で過ごす。週に2時間、緑の中にいる時間を作るのは、意外に難しい。植物園は、電車で行けて、数百円で、確実に緑の中にいられる場所だ。月に2回、植物園で1時間ずつ過ごせば、それだけで目安の半分になる。
男一人で行ける東京の植物園と温室
| No. | 施設 | エリア | 料金の目安 | 一人で楽しむポイント |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 夢の島熱帯植物館 | 新木場 | 250円 | 3つのドームの大温室に熱帯の植物。冬でも汗ばむほど暖かい |
| 2 | 神代植物公園 | 調布 | 500円 | バラ園と大温室。隣の深大寺のそばと組み合わせる |
| 3 | 新宿御苑 | 新宿 | 500円 | 広い庭園と大温室。都心の真ん中で緑に沈める |
| 4 | 国立科学博物館附属自然教育園 | 白金台 | 320円 | 都心に残る武蔵野の森。整えすぎない自然の中を歩く |
| 5 | 東京都薬用植物園 | 小平 | 0円 | 薬になる植物を集めた植物園。入園無料 |
| 6 | 東京大学大学院理学系研究科附属植物園(小石川植物園) | 文京区 | 公式サイトで確認 | 日本で最も古い植物園の一つ。古い大木と、静かな園内 |
東京の植物園の一般料金の目安
Fig. 01どの施設も、500円以下で入れる。映画の4分の1ほどの値段で、半日を緑の中で過ごせる。ソロ活の中でも、これほど安く、これほど静かな場所はそう多くない。
夢の島熱帯植物館:250円で熱帯へ
一人の男にいちばんすすめたいのが、夢の島熱帯植物館だ。新木場駅から歩ける夢の島公園の中にあり、3つのドームを持つ大温室に、熱帯や亜熱帯の植物が茂っている。
温室の中は、冬でも汗ばむほど暖かい。湿った空気の中を、ヤシやシダの間を縫うように歩く。滝や池もあり、ジャングルの中を歩いているような気分になる。それが一般250円だ。近くの清掃工場の余熱を使って温室を暖めていることでも知られる。
夢の島公園は広く、温室を出たあとは公園の中を散歩できる。周りには運動施設や、第五福竜丸の展示館もある。真冬の休日、寒い外から熱帯の温室に逃げ込み、また寒い外に出る。その温度差だけで、小さな旅をした気分になる。
神代植物公園と、深大寺のそば
調布の神代植物公園は、都立の大きな植物公園だ。バラ園、ツツジ園、梅園、大温室があり、季節ごとに違う花が見られる。
神代植物公園のいいところは、隣に深大寺があることだ。植物公園を歩いたあと、深大寺の門前のそば屋で、一人でそばをすする。そばは深大寺の名物で、門前には何軒ものそば屋が並ぶ。午前に植物公園、昼に深大寺のそば、午後に寺の境内を散歩。都心から少し離れた、一人の小さな遠足だ。
新宿御苑の大温室と、都心の庭園
新宿御苑は、新宿駅から歩ける都心の庭園だ。広い芝生、日本庭園、フランス式整形庭園、イギリス風景式庭園と、いくつもの様式の庭がある。そして、園内には大温室があり、熱帯の植物やランを見られる。
新宿御苑の楽しみ方は、温室と庭園の行き来だ。寒い日は温室で温まり、暖かい日は芝生に寝転ぶ。本を一冊持っていけば、半日は過ごせる。新宿の喧騒から、ほんの数分歩いただけで、こんなに静かな場所がある。新宿で一人で飲む前に、御苑で緑に沈んでおく。それだけで、夜の一杯がうまくなる。
自然教育園:都心に残る森を歩く
白金台の国立科学博物館附属自然教育園は、植物園というより都心に残された森だ。花壇や温室で飾られた庭ではなく、武蔵野の自然に近い森や湿地が、なるべく手を加えずに残されている。
園内の細い道を歩くと、都心の真ん中とは思えないほど静かだ。鳥の声と、落ち葉を踏む自分の足音しか聞こえない。入園できる人数に上限が設けられていることもあり、混雑しにくい。隣の東京都庭園美術館と組み合わせれば、森と美術の一日になる。
文京区の小石川植物園も、静かな一人時間にいい。東京大学の研究施設で、江戸時代の幕府の薬草園がもとになった、日本で最も古い植物園の一つだ。古い大木が立ち並ぶ園内は、派手な花壇は少ないが、そのぶん落ち着いている。開園日や入園の方法は、公式サイトで確認してから行け。
季節ごとの植物園の楽しみ方
| 季節 | 見どころ | 一人で行くなら |
|---|---|---|
| 冬 | 温室の熱帯植物、梅の花 | いちばんのおすすめ。温室が暖かく、人も少ない |
| 春 | 桜、ツツジ、新緑 | 桜の時期は混む。平日の朝に |
| 初夏 | バラ、アジサイ、新緑の森 | バラ園の見頃は混む。朝の開園直後に |
| 夏 | 森の木陰、スイレン | 温室は暑すぎる。屋外の木陰で過ごす |
| 秋 | 紅葉、秋のバラ | 散歩にいちばんいい季節 |
意外かもしれないが、植物園のソロ活がいちばんいいのは冬だ。寒い時期は客が減り、温室の暖かさがありがたく感じられる。逆に夏の温室は、外より暑く湿っていて、長くいるのはつらい。夏は屋外の森の木陰を歩け。
雨の日こそ、温室へ行け
雨の日の休日、家でごろごろして終わりにするのはもったいない。雨の日こそ、温室のある植物園へ行け。
雨の日の植物園は、客がぐっと減る。屋外の庭を歩く人はほとんどいなくなり、温室の中は自分だけということもある。ガラスの屋根を打つ雨の音を聞きながら、熱帯の植物の間を歩く。湿った空気と、濡れた緑の匂い。晴れた日の温室とは、まるで違う空気が流れている。
屋外の庭も、雨に濡れた緑は色が濃く、美しい。傘を差して、誰もいない森の小道をゆっくり歩くのも悪くない。足元が滑りやすいので、歩きやすい靴で行け。雨の日に一人で植物園にいる男は、雨だから家にいる男より、ずっといい休日を過ごしている。
植物園での一人の過ごし方
- 開園と同時に入る朝の植物園は静かで、空気がいい。花も朝の方がきれいに開いていることが多い。
- まずは全体を一周する園内の地図を見て、温室、花壇、森をぐるりと回る。
- 気に入った場所のベンチを一つ決める温室の中か、花壇の前か、森の中か。そこを今日の自分の場所にする。
- ベンチで本を読むか、ぼんやりする30分でも1時間でもいい。スマホは見ない。
- 名札を見て、一つだけ植物を覚えて帰る気になった植物の名前を一つだけ覚える。次に来たときに、また会いに行けばいい。
植物に詳しくなる必要はない。一つの植物の名前を覚えて帰るくらいでいい。何度も通ううちに、自然と知っている植物が増えていく。それも、植物園に通う楽しみの一つだ。
写真とスケッチの趣味にする
植物園は、一人の趣味を始めるのにも向いている。
- 写真:植物は動かないので、写真の練習にちょうどいい。花の接写、温室の光、季節の変化を撮る
- スケッチ:小さなスケッチブックと鉛筆を持っていき、ベンチで一つの植物を描く
- 植物の記録:行くたびに、その日の見頃の花を記録する。1年分たまると、自分だけの植物園のカレンダーができる
総務省の調査では、園芸・庭いじり・ガーデニングを趣味にする人は26.0%(2021年)いる。植物が好きな人は少なくない。家に庭がなくても、植物園なら、季節ごとに変わる庭を何度でも楽しめる。
植物・自然に関わる趣味の行動者率(2021年)
Fig. 02植物園を一人で楽しむ心得
- 休園日を確認する:月曜休園の施設が多い。温室だけ休みの日もある
- 脱ぎやすい服で:冬の温室は暑い。上着を脱いで持てるように
- 眼鏡は曇る:冬に温室に入ると、眼鏡が一瞬で曇る。拭くものを持っておけ
- 植物に触らない、採らない:枝を折ったり、実や種を持ち帰ったりしない
- 飲食は決められた場所で:温室の中は飲食禁止のことが多い
一人の植物園と、家族の休日
一人の植物園
- 250円で、真冬に熱帯のジャングルへ
- 温室のベンチで、1時間本を読む
- 森の中で、鳥の声と足音だけを聞く
- 帰りに深大寺のそばを一人ですする
家族の休日
- 混んだ大型公園で、子供を追いかける
- 植物園は「子供がつまらない」と却下
- 静かな場所で過ごす時間は一分もない
- 帰りはフードコートで家族全員分を運ぶ
もちろん、子供と自然の中で遊ぶ時間にも、その人なりの幸せはあるのだろう。だが、静かな緑の中で、誰にも急かされずに、自分の頭を休める時間は、一人の男にしか手に入らない。
年寄りが植物園に来るのは、静かで、安くて、体と心が休まる場所を知っているからだ。お前は休日に、混んだモールで子供の後を追い、疲れ切って月曜を迎えている。俺は250円の温室で汗をかいて、森の中を歩いて、頭を空にしてから月曜を迎える。年寄りの知恵を、若いうちから使って何が悪い。
まとめ:数百円で、緑の中に沈め
植物園は、東京でいちばん安く、静かに過ごせる場所の一つだ。夢の島熱帯植物館は一般250円、神代植物公園と新宿御苑は500円、自然教育園は320円で、無料の植物園もある。自然の中で週に合計120分過ごす人ほど健康と幸福感が高いという研究もあり、植物園は東京の男が緑の中にいる時間を作るのに最適な場所だ。
冬は温室がいちばんいい。扉一枚で、寒い東京から熱帯へ行ける。夏は屋外の森の木陰を歩け。植物に詳しくなくていい。ベンチを一つ決めて、本を読み、ぼんやりして、植物の名前を一つだけ覚えて帰れ。料金や開園日は変わるので、行く前に公式サイトで確認してほしい。
数百円で、都会の緑の中に一人で沈め。末代で何が悪い。
よくある質問
植物園に男一人で行っても浮かない?
浮かない。植物園には、一人で写真を撮りに来る人、スケッチをする人、ベンチで本を読む人など、一人の大人が多い。年配の客も多く、静かに過ごせる。カップルや家族連れが多い遊園地や水族館より、ずっと一人で行きやすい場所だ。
東京で安く行ける植物園は?
夢の島熱帯植物館は一般250円、神代植物公園と新宿御苑は一般500円、国立科学博物館附属自然教育園は一般320円ほどだ。東京都薬用植物園のように無料で入れる施設もある。料金は変わることがあるので、公式サイトで確認してほしい。
冬でも植物園は楽しめる?
楽しめる。大きな温室のある植物園なら、冬でも中は暖かく、熱帯の植物が茂っている。寒い外から温室に入ると、湿った暖かい空気に包まれて、南の国に来たような気分になる。冬の植物園は人も少なく、一人で静かに過ごせる。
植物に詳しくなくても楽しめる?
楽しめる。名前を知らなくても、大きな葉、変わった形の花、熱帯の木の高さを見るだけで面白い。名札を読んで気になった植物を一つ覚えて帰る、くらいでいい。季節の花の見頃に合わせて行けば、見応えもある。
植物園での過ごし方のコツは?
急いで回らないことだ。ベンチを一つ決めて、本を読んだり、ぼんやり景色を眺めたりする時間を作るといい。温室は湿度が高いので、冬は脱ぎやすい服装で行き、夏は温室を避けて屋外の木陰で過ごす。
出典・参考資料
- White, M. P. et al. (2019). Spending at least 120 minutes a week in nature is associated with good health and wellbeing. Scientific Reports, 9, 7730.
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 生活行動に関する結果」
- 夢の島熱帯植物館、神代植物公園、新宿御苑、国立科学博物館附属自然教育園、東京都薬用植物園の公式サイト(料金・開園日は変更されることがあるため、来園前に確認のこと)