おひとりさまが亡くなったとき、誰も手続きをする人がいない。遺体の引き取り、葬儀、部屋の片づけ、役所の手続き。家族がいなければ、最終的に動くのは自治体だ。だが、本人が何も準備していなければ、自治体も、本人が何を望んでいたのかわからない。
家族のいる男は、「家族がいるから役所の世話にはならない」と言う。だが、家族と疎遠になっていたり、家族が引き取りを拒んだりして、結局自治体が対応することも少なくない。家族がいても、身寄りがないのと同じ状態の高齢者は多い。
身寄りのない高齢者が増える中で、自治体が終活を支える取り組みが広がっている。この記事では、自治体の終活支援の種類と、自分の自治体のサービスの探し方、使い方をまとめた。おひとりさまの終活は、住んでいる自治体を味方につけるところから始まる。
この記事の結論
- 成年後見の申立ての約23.7%は市区町村長。自治体は、身寄りのない人の最後を担っている
- 国は2024・2025年度に、身寄りのない高齢者等を支えるモデル事業を自治体で試行した
- 自治体の終活支援は、相談・ノート・情報登録・死後事務の支援・後見の利用支援の5種類
- 中身は自治体によって大きく違う。まず地域包括支援センターか市区町村に問い合わせろ
- 自治体の支援で足りない部分は、民間の契約で補え
自治体は、すでに身寄りのない人の最後を担っている
最高裁判所の「成年後見関係事件の概況」(令和7年)によると、成年後見の申立人で最も多かったのは本人(約24.8%)で、次いで市区町村長(約23.7%)、本人の子(約18.5%)だった。市区町村長による申立ては1万139件だった。
成年後見関係事件の申立人(2025年、上位3つ)
Fig. 01市区町村長が後見を申し立てるのは、多くの場合、申し立てる親族がいない、または協力が得られないときだ。つまり、身寄りのない高齢者の財産と暮らしを守るために、自治体がすでに動いている。そして、身寄りのない人が亡くなったとき、引き取る人がいなければ、火葬なども自治体が行うことになる。
だが、自治体が動くのは、本人が判断能力を失ったあと、または亡くなったあとのことが多い。そのとき、本人がどんな暮らしを望んでいたのか、誰に連絡してほしかったのか、遺言はあるのかを、自治体は知らない。元気なうちに自治体とつながっておけば、自分の希望を伝え、もしものときの対応を自分で決めておける。
国も、身寄りのない高齢者の支援に動き出した
厚生労働省は、2024年度と2025年度に、身寄りのない高齢者などを対象にしたモデル事業を、複数の市町村で試行した。その一つが、包括的な相談・調整の窓口の整備だ。身寄りのない人の困りごと――入院や施設入所の手続き、日常のお金の管理、亡くなったあとのこと――を、まとめて相談できる窓口を作る取り組みだ。
モデル事業に参加した自治体の中には、死後事務の支援や、入院・入所の際の身元保証の代わりになる支援を試みたところもある。資力が十分でなく、民間のサービスを使えない人のための仕組みだ。こうした試みは、今後の国の制度づくりにつなげることが目指されている。
つまり、身寄りのない高齢者の終活は、個人の問題から、公的な支援の対象へと変わりつつある。おひとりさまにとって、自分の住んでいる自治体が何をしているかを知っておくことは、これからますます大事になる。
自治体の終活支援、5つの種類
| 種類 | 中身 | 対象 |
|---|---|---|
| 1. 終活の相談窓口 | 終活、相続、遺言、葬儀、お墓などの相談。専門家の紹介 | 住民(年齢などの条件がある場合も) |
| 2. エンディングノートの配布 | 自治体独自のエンディングノートを無料で配る | 住民 |
| 3. 終活情報の登録 | 緊急連絡先、遺言やノートの保管場所、お墓の所在などを登録 | 住民(自治体による) |
| 4. 死後事務・葬儀の支援 | 葬儀や納骨の生前契約の支援、死後事務の支援、見守り | 身寄りがない、資産や収入が一定以下などの条件 |
| 5. 成年後見の利用支援 | 後見制度の相談、市民後見人の育成、申立ての費用の助成 | 条件は自治体による |
この5つすべてをそろえている自治体は、まだ多くない。中身は自治体によって大きく違う。相談窓口とエンディングノートの配布は比較的多くの自治体にあるが、終活情報の登録や死後事務の支援は、先進的な一部の自治体の取り組みにとどまっていることが多い。
1. 終活の相談窓口
多くの自治体には、終活や高齢者の暮らしの相談ができる窓口がある。専用の「終活相談」の窓口を設けている自治体もあれば、地域包括支援センターが窓口になっている自治体もある。
- 遺言、相続、後見の相談(弁護士や司法書士の無料相談会を開く自治体もある)
- 葬儀やお墓の相談
- 身元保証や死後事務のサービスの選び方
- 民間の事業者とのトラブルの相談
どこに相談すればいいかわからなければ、まず地域包括支援センターに電話しろ。そこから、自治体の終活支援や、専門家の相談会につないでもらえる。
2. エンディングノートの配布
多くの自治体が、独自のエンディングノートを作って、無料で配っている。自治体のノートには、その地域の相談窓口や、自治体のサービスの情報が載っていることが多い。市販のノートより、住んでいる地域に合った内容になっている。
役所の窓口や地域包括支援センターでもらえるほか、ウェブサイトからダウンロードできる自治体もある。書き方の講座を開いている自治体もある。
3. 終活情報の登録
おひとりさまにとって、特に役立つのが終活情報の登録だ。本人が、次のような情報を自治体に登録しておく。
- 緊急連絡先
- かかりつけ医
- エンディングノートや遺言書の保管場所
- お墓の所在、葬儀や納骨の生前契約先
- 死後事務や身元保証の契約先
そして、本人が倒れたときや亡くなったとき、病院や警察、消防、本人が指定した人などの問い合わせに、自治体が登録情報を伝える。神奈川県横須賀市の取り組みがよく知られていて、同じような仕組みを始める自治体も出てきている。
おひとりさまが倒れたとき、病院も警察も、誰に連絡すればいいかわからないことが多い。遺言を書いても、その存在を誰も知らなければ、見つけてもらえない。終活情報の登録は、自分が準備したことを、確実に届けるための仕組みだ。
4. 死後事務・葬儀の支援
一部の自治体は、身寄りがなく、資産や収入が少ない高齢者を対象に、葬儀や納骨、死後の手続きを支援する事業を行っている。
- 葬儀・納骨の生前契約の支援:本人が葬祭事業者と生前契約を結ぶのを、自治体が手伝い、見守る
- 死後事務の支援:社会福祉協議会などが、亡くなったあとの手続きを担う
- 見守りとの組み合わせ:定期的な見守りと、亡くなったときの連絡の仕組み
これらは、対象者に条件があることが多い。身寄りがない、頼れる親族がいない、資産や収入が一定以下、などだ。条件を満たさない人は、民間の死後事務委任契約や身元保証サービスを使うことになる。
5. 成年後見の利用支援
多くの自治体には、成年後見制度の利用を支援する窓口(中核機関など)がある。
- 任意後見や法定後見の相談
- 専門家や市民後見人の紹介
- 後見の申立ての手続きの手伝い
- 資力が十分でない人への、申立て費用や後見人の報酬の助成
おひとりさまは、任意後見で、元気なうちに自分で後見人を選んでおくのが基本だ。その相談先として、自治体の窓口を使える。
自分の自治体の終活支援の探し方
- 市区町村のウェブサイトで「終活」と検索する終活の相談、エンディングノート、終活情報の登録などのページが見つかることが多い。
- 地域包括支援センターに問い合わせる自治体の終活支援、相談会、民間のサービスの情報を持っている。
- 社会福祉協議会に問い合わせる日常生活自立支援事業や、死後事務の支援を行っていることがある。
- 高齢者福祉の窓口で、案内の冊子をもらう多くの自治体が、高齢者向けサービスの一覧を作っている。
- 引っ越しを考えるなら、移る先の自治体も調べる終活支援の充実度も、住む街を選ぶ基準の一つになる。
問い合わせるときは、「一人暮らしで、頼れる身寄りがいない。終活について相談したい」と率直に伝えればいい。窓口の担当者は、同じような相談を数多く受けている。恥ずかしがる必要はない。
自治体の終活支援の使い方
- 50代のうちに、自治体の支援を調べる何があり、何がないかを知る。
- エンディングノートをもらって書く自治体のノートなら、地域の窓口の情報も載っている。
- 終活情報の登録があれば、登録する緊急連絡先、遺言やノートの保管場所、契約先。
- 足りない部分を民間の契約で補う任意後見、死後事務委任、身元保証。
- 登録内容を毎年見直す連絡先や契約先が変わったら、自治体の登録も更新する。
自治体の支援は、安心の土台だ。だが、すべてをまかなえるわけではない。自治体の支援は、多くの場合、相談、情報の登録、資力の少ない人への支援が中心だ。ある程度の資産があるおひとりさまは、民間の契約で自分の希望を形にし、それを自治体の登録で確実に届ける、という組み合わせが現実的だ。
社会福祉協議会も、終活の味方になる
自治体と並んで頼りになるのが、各市区町村にある社会福祉協議会(社協)だ。社協は、地域の福祉を進める民間の団体で、自治体と連携して事業を行っている。
- 日常生活自立支援事業:判断能力に不安がある人の、福祉サービスの利用や日常のお金の管理を手伝う
- 法人後見:社協が法人として後見人を引き受けることがある
- 地域の見守りやサロン:一人暮らしの高齢者が集まる場や、見守りの活動
- 死後事務などの支援:身寄りのない人の死後の手続きを支援する社協もある
社協の事業も、地域によって中身が違う。自治体の窓口と社協の両方に問い合わせて、自分の地域で使えるものを確かめておけ。
注意点
- 中身は自治体によって大きく違う:隣の市にあるサービスが、自分の市にあるとは限らない
- 対象に条件がある:年齢、身寄りの有無、資産、収入など
- 引っ越すと使えなくなる:住民票を移したら、移った先で登録し直す
- 自治体を名乗る勧誘に注意:「市の終活サービス」をかたって、民間の高額な契約を勧める業者がいないとも限らない。自治体の窓口に直接確かめる
自治体を味方にするおひとりさまと、知らない男
自治体を味方にするおひとりさま
- 地域包括支援センターに、元気なうちに顔を出した
- 自治体のエンディングノートを書き、終活情報を登録した
- 足りない部分を、民間の任意後見と死後事務で補った
- 倒れても、亡くなっても、準備が確実に届く
「家族がいるから」と自治体を知らない男
- 家族と疎遠になり、もしものときに誰も動かない
- 自治体の支援があることを、知らないまま過ごす
- 最後は、自治体が何も知らないまま対応する
- 本人の希望は、誰にも届かない
身寄りのない人の最後を担っているのは、すでに自治体だ。だが、本人が準備していなければ、自治体は本人の希望を知らないまま動くしかない。おひとりさまは、元気なうちに自治体とつながり、自分の希望を伝えておける。それは、自分の最後を自分で決めるための、確かな方法だ。
世話になるんじゃない。自分から使うんだ。元気なうちに自治体に終活情報を登録し、遺言も契約も届くようにしてある。お前は家族がいるから大丈夫だと言うが、家族と疎遠になったら? 家族が引き取りを拒んだら? 何の準備もないまま役所の世話になるのは、お前の方かもしれない。
まとめ:住んでいる自治体を、味方につけろ
成年後見の申立ての約23.7%は市区町村長によるもので、自治体はすでに身寄りのない人の最後を担っている。国は2024・2025年度に、身寄りのない高齢者等を支える包括的な相談窓口などのモデル事業を自治体で試行した。自治体の終活支援には、相談窓口、エンディングノートの配布、終活情報の登録、死後事務・葬儀の支援、成年後見の利用支援がある。
中身は自治体によって大きく違うので、まず地域包括支援センターか市区町村に問い合わせろ。自治体のノートを書き、終活情報の登録があれば登録し、足りない部分は民間の任意後見や死後事務の契約で補え。引っ越したら、移った先で登録し直せ。自治体のサービスの有無と条件は地域ごとに違うので、必ず住んでいる自治体に確認してほしい。
自分の最後を、住んでいる町と一緒に準備しろ。末代で何が悪い。
よくある質問
自治体の終活支援にはどんなものがある?
終活の相談窓口、エンディングノートの配布、終活情報(緊急連絡先、遺言の保管場所、お墓の所在など)の登録、死後事務や葬儀・納骨の生前契約の支援、成年後見制度の利用支援などがある。中身は自治体によって大きく違う。
終活情報の登録とは?
本人が、緊急連絡先、かかりつけ医、エンディングノートや遺言書の保管場所、お墓の所在などを自治体に登録しておき、本人が倒れたときや亡くなったときに、病院や警察、本人が指定した人などの問い合わせに自治体が答える仕組みだ。神奈川県横須賀市の取り組みがよく知られている。
自分の自治体に終活支援があるか調べるには?
市区町村のウェブサイトで「終活」と検索する、高齢者福祉の窓口や地域包括支援センターに問い合わせる、社会福祉協議会に聞く、などの方法がある。
自治体の死後事務の支援は誰でも使える?
多くは対象者に条件がある。身寄りがない、頼れる親族がいない、資産や収入が一定以下、などだ。条件を満たさない場合は、民間の死後事務委任や身元保証サービスを使うことになる。
国は身寄りのない高齢者の支援をどう進めている?
厚生労働省は2024・2025年度に、身寄りのない高齢者などを対象に、包括的な相談・調整窓口の整備や、死後事務などの支援を、複数の市町村でモデル事業として試行した。今後の制度づくりにつなげることが目指されている。
出典・参考資料
- 最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況 令和7年1月〜12月」
- 厚生労働省「身寄りのない高齢者等への支援に関するモデル事業」(令和6年度・令和7年度)の自治体事例
- 神奈川県横須賀市「わたしの終活登録」ほか、各自治体の終活支援の案内
- 厚生労働省「成年後見制度の利用促進」(中核機関)